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お庭デート
しおりを挟む皇太子殿下は、あれから次の日に体調を回復させて、さらに次の日からいつもの生活に戻った。
獣人だからなのか、彼が健康体だからなのか分からないが、初日の姿を見ている私からすると驚異的な回復力である。
今は、あの日約束した、お庭でお茶をしてます。
蔵書室以外で会おうとなった時、お城の庭をちゃんと見たことがなかったので、それを皇太子殿下に提案したら、お茶でも飲みながら眺めよう!ということになった。
まぁ、皇太子殿下も病み上がりだし、そっちの方が良いよね!と思ったのだけど…
「皇太子殿下、もう体調は大丈夫なのですか?」
「毎朝の鍛錬を再開してるから、大丈夫だ!」
そう、最近偶然知ったのだけど皇太子殿下は14歳にして、かなりの剣の才があるらしく…、物心着く頃から剣の扱いを叩き込まれていたようで、
今は朝の鍛錬を日課にしているらしい。
偶然朝に窓の外で剣の撃ち合いをする皇太子殿下を見て驚いた。
小柄な身体をしているのに、大人を物ともしない動きで相手を御しているのだから。
これって、俗に言う文武両道というものなのでは…
まぁ、皇太子殿下はいずれも努力で手に入れている人だと思うんだけどね。
そんな皇太子殿下は、私が体調を気遣って言った言葉に、少し機嫌を悪くしてしまった。
軟弱と思われた、と感じたのかな…
そんなことないんだけど、時々皇太子殿下は私の気遣いをマイナスに受け取る節がある。
「お前こそ、疲れたり寒かったら言うんだぞ」
まぁそれでも、最近は前より柔らかくなってきたし、私を気遣ってくれることも出てきたので、だいぶ打ち解けてきたと思うんだ。
「ありがとうございます」
私と皇太子殿下がお茶をしてたら、周囲からは親戚のおばさんと甥っ子が散歩してるように見えるんだろうけど…
今は、友達くらいには仲良くなったと思う。
今後の自分の身の振り方はまだ考えているところだけど、例え城を出たとしても、時々はおしゃべりとかしたいなーと思えるくらい。
「あれ、皇太子殿下。あちらで殿下を呼ばれる方がいらっしゃいませんか?」
お城の美味しい紅茶とケーキを堪能していた時、遠くの方で皇太子殿下に手を振っている人が見えた。
私が声をかけたら、皇太子殿下は小さくため息をついてから、席を立った。
手を振っている人に気づかないほうがよかったかな…ちょっとうれしそうじゃなかったし。。。
でも、遅かれ早かれだと思うんだよね…
こっちに向かって歩いて来てたから。
私も一応席を立った。
すると、先方が両手を皇太子殿下の手に重ねて挨拶していた。
「殿下!風邪が治られたのですね!」
「あぁ、すっかり回復した。心配をかけたな」
同じくらいの歳の男の人だろう。皇太子殿下よりも身長はあるが、気安く話しかけているので、同年代の貴族令息であると予想ができる。
いや、でもそれよりも…!
今、殿下は、
爽やかな笑顔で返事してますけど…!
あれ、あれれ、
私にあんな表情を見せたことなかったけど…!
どういうことですか!?
私にはだいたい少しムスッとした顔をしたり、そっぽを向いていることが多いんだけど…
爽やかな笑顔で返されたことないんだけども…。
あの表情を見ていると、好青年に見える。
未来にこの国を引っ張る皇太子殿下として理想的な姿だ。
「いやぁ、よかったー。それでは、また今度お手合わせ願います」
「であれば、鍛錬せねば。貴公はなかなか剣筋が良いから、次は負けてしまうかもしれない」
「殿下ぁ、時々は配下に花を持たせるのも大事ですよー」
気安い感じで話していて、いつも私が接している皇太子殿下とは違う人物のように見えた。
少しだけそれが寂しく感じるが、そういうものだろう。
どう考えても、皇太子殿下の友達として30歳の女より、年の近い同年代のほうが一緒にいても自然に見える。
好青年が皇太子殿下に対してにこにこ話していると、テーブルで二人を眺めている私に気が付いた。
二人と私の距離はそれほど近くはないけど、なんとなく声が聞こえてくるくらいの距離だったので、私の存在に気が付いて当然ではあるんだけどね。
「あれ、殿下。もしかしてお邪魔してしまいましたか?あちらの方は…」
そこまで言ったところで、皇太子殿下は青年の視界を遮るように、立つ位置を変えた。
「気にするな。それより、何か用事があったんじゃないのか?」
ん!?
無理やり話を反らした!?
いや確かに、ここでいきなり貴族のような挨拶をしようとしても、一か月近く家庭教師の先生に教養を教えてもらっていたとはいえ、慌ててミスする可能性が結構高かったから助かったけど…
「あ、そうでした!今日はこの後の国務会議で使う資料を父に届けるところだったんです!」
「会議まで少し時間はあるようだが、早めに渡したほうが良いだろうな」
「そうですね!それでは殿下、御前失礼いたします」
貴族の令息がするお辞儀をして、青年は皇太子殿下の前から去っていった。
皇太子殿下は青年が去っていくのを見送って、肩をなでおろしていた。
そして、私のほうを振り返って、言葉を探すように私と目を合わせずにゆっくり席に戻ってきた。
「お友達ともう少し話さなくても良かったのですか?」
「いや、大丈夫だ。あちらも忙しそうだったからな」
皇太子殿下は、席に戻っても私と目を合わせずに紅茶を飲み、お菓子を口に運ぶ。
さっきまで結構穏やかな空気だったのに、少し気まずくなってしまった。
本当はもう少し一緒にいたいと思っていたけど、お互い変な空気に耐えられず、お茶会はその後早々にお開きになってしまった。
うーん…。
もしかして、友達を私と会わせたくなかった…?
少しだけ嫌な想像をしてしまったが、殿下に直接そう言われたわけではないので、それ以上考えるのをやめた。
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