運命の番でも愛されなくて結構です

えみ

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返事を書けない理由

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それから3日ほど、私は家庭教師をつけてもらって(すごく申し訳ない)文字と常識を勉強するようになった。
当面は文字を優先して勉強する。

皇太子殿下が書いてくれた手紙は侍女さんや先生に読んでもらっても良かったんだけど、せっかくこの世界での初めての手紙だから、自分で読んでみたくて、今はまだ部屋の引き出しに入れたままにしている。

一応、どこかで皇太子殿下に会えたら、返事はまだ待ってほしいと伝えようと思ってたんだけど…皇太子殿下とはなかなか会えなくて、まだ伝えられていない。

最近は、部屋で家庭教師の先生と勉強をするか、蔵書室で勉強する生活をしているから会えないのもあるけど…

私自身、彼に文字が読めない書けないということを知られるのが恥ずかしかった。
良い年した大人が、歩み寄ろうとした少年に手紙の返事を書けないことが、情けなく感じたのだ。




今日も、午後から蔵書室で文字の勉強をしていた。
30歳の頭脳だから子どものように知識を吸収できるわけじゃないから、何度も繰り返し文字を書いて覚える訓練をしている。
こうして集中して勉強していると、侍女さんがタイミングを見て飲み物を持って来てくれるのだ。

横に誰かが立つ気配がして、侍女さんかと思って手を止めた。





「なんで…返事書かないんだよ」


皇太子殿下だった。

しかも、また目元が赤くなってる。
明らかに泣いて擦った後だ。


やってしまった…!

まさか、まだ3日くらいだしそんなに心待ちにしてると思わないよ…!


皇太子殿下は険しい顔をして、

「もう、許してくれないのか…」

と拳をぎゅっと握って、目が潤みだしている。

まずい。このままだと、沈黙は肯定だと受け取られそうだ。

許すとか何を言ってるのか分からないけど、何か誤解を生む前に、なんとかしなければ…

「返事はもうちょっと待ってもらえないでしょうか?」

「…………。」



えーと、多分ダメだ。
当初の予定通り、返事を待ってくれと言ったけど、
取り敢えず返事を書きたくないから先延ばしにしてるみたいに受け取ってそう…!

だって皇太子殿下、ちょっとプルプル方が震えてるよ…。



あぁ、だめだ。誤魔化してまで彼を泣かせる必要はあるのか?
いや、絶対ないよね。
私のちっぽけなプライドを守るために2倍以上年下の子を泣かせるなんて、そっちの方が大人気ないよ…




「私、実はこの世界の字が読めなくて…」

「!!」

少し驚いた顔をして、私の方を見た。
うーん、取り敢えず泣きそうな状況からは脱したかな…

「先日皇太子殿下からお手紙をいただいてから、そのことに気がついたのです。せっかくなので、自分で読んでみたくて勉強していまして…」

そこで、皇太子殿下はようやく私が何をしていたのか、気がついたようだ。
私の手元を見て、ホッと息をはいた。

「そ、それならなぜもっと早くそう言わないんだ」

相変わらず何かしら反論してくるが、取り敢えず泣くよりは怒ってくれた方が良いので、ホッとした。

「字が読めないってことが、前の世界で読めていた私からすると恥ずかしいんですよ」

日本の識字率はほぼ100%だ。この世界がどうなってるのかは分からないけど、
字が読めていた人ばかりの中で育って来た我々日本人からしたら、字が読めないってことを2倍以上年下の子に知られるのはやはり恥ずかしい。
なるべくそこを突かないで欲しいなぁと思いながら、頭をぺこりと下げた。

「それでも、皇太子殿下をお待たせしたのは事実ですよね。申し訳ありません」

取り敢えずこれでちゃんと理由もわかってもらったし、手紙の返事を書く猶予を貰った。プライドが傷ついただけだから安い代償だ。

「頭を下げろなんて言ってない…!」

皇太子殿下が突然そう言って私の肩に手を置いた。

「あ…!」

でも私が顔を上げる前に、すぐに手を引いた。
そして、そのまま走り去ってしまった。
私が顔を上げた時には、彼の後ろ姿が閉まっていく扉の向こうに見えた。

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