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皇太子殿下はまだ子ども
しおりを挟む流石に私の部屋の前にいて、何も声をかけないのは良くない。
「あの…何か」
少し距離を空けて私が声をかけたら、何か考え事をしていた皇太子殿下は、びくりと身体を跳ねさせてこちらに顔を向けた。
「お、お前…、どこに行ってたんだよ!」
私が部屋の中にいると思っていたのだろうか。
とても驚いた顔をしていた。
両手は握り拳を作って、私を見上げている。
口調から察するに怒っているようなんだけど、可愛いから怖さが伝わらない。
「両陛下とお食事をしていました」
「は、母上と父上が…!?」
はて、食事をすることがそんなに驚くことなのかな。確かに、その場に皇太子殿下がいなかったのは、意図的に席を外されていたからだと思うけど…あぁ、なるほど。それは気持ちとしては良くないよね。
普段どういう感じで親子で食事を摂ってるのか分からないけど、自分のいないところでコソコソ何かされたら気分も害するか。
皇太子殿下は、眉間に皺を寄せて、視線を私の足元に向けた。
「な、なんでお前が父上母上とご飯を食べるんだよ…!」
「ご挨拶がまだだったからだと思いますが…」
それに、私は両陛下に召喚された側なので、ご飯を食べる理由があるのは両陛下のほうだ。
私は憶測でしか皇太子殿下の疑問に答えてあげることはできない。
「お前、ちゃんと挨拶できたのかよ。歩き方もガサツだし、身振りからも、あんまり礼儀作法知らないのが伝わるんだぞ!」
普通に歩いてるつもりだけど、確かに皇后陛下の仕草を見ると恥ずかしくなったのは否めない。
貴族らしい振る舞いを物心つく頃から見て来た皇太子殿下からすれば、平民の私の仕草は目につくのだろう。
それにしても、皇太子殿下は結構攻撃的だ。目もあまり合わないし。やっぱり私と話すのが嫌なんだろうな…
早く話を切ってあげるのが良いだろう。
私も、攻撃されているのは気分的にも良くないし。
こんなに可愛い子に、私の旦那になるのかもと思ってた子に、非難されてばかりだと落ち込んでしまう。
なんで皇太子殿下がこの場に来たのか分からないけど、私が部屋に入ったらこの彼の不機嫌な気分は解消されるはずだ。
「あの、私そろそろ部屋に入りますね」
そう言って、ドアの方に近づいたら、ようやく皇太子殿下は私の方を見た。
「な、お、お前、俺が話しかけてるのに…話を途中で切るなよ!」
話を途中で切るも何も、意味のある会話をしているように思えない。
それとも、何か言いたいことがあるけど、本題が言えないだけだろうか。
であれば、私は彼よりもずっと年上だから、根気よく話を聞いてあげる方が良いのか…
「すみません。では、殿下、何か私にご用でしょうか…?」
極力優しく聞いたつもりだった。
でも、私がそう聞いたら、皇太子殿下は目を大きく開いて、次に唇をぎゅっと結んで下を向いた。
「あの、殿下…?」
様子がおかしいことは分かったので、もう一度優しく声をかける。
近づいてはいけない、変態さん認定されるのは勘弁願いたいから。
一歩も近づかずに皇太子殿下の様子をそっと伺った。
数秒後、キッと私を睨みつける目と視線が合った。
「お、お前みたいなおばさんが、俺と結婚するなんて、普通はあり得ないんだからな!」
「ええっと、はい。皇太子殿下には、もっとふさわしい人がいらっしゃると思いますよ」
慰めようと、努めて優しくそう返したら、その瞬間、皇太子殿下の目からポロポロと涙が流れた。
「え!?で、でん…」
思わず、一歩皇太子殿下に近づいた。
さっきまで怒ってたのに、とても傷ついた顔をしていたからだ。
しかし、皇太子殿下はその涙を乱暴に拭いながら、すぐに踵を返して走り去ってしまった。
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