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2 番を嫌がられる

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後で聞いたのだけど、皇太子殿下は14歳でした。

獣人によって発育が異なるのか、見た目は十分にショタっ子です。

ランドセルが似合う、快活な少年でした。

ついでに見た目もとても麗しくて、金髪で青い目をした、童話に出てくる王子様の少年期を連想させる姿でした。



今、そんな少年は私の姿を見て少し顔を引きつらせて、後ずさろうとしている。

「まあ、ちょうど来ていただいたところでしたか。殿下、このお方がつg」

「待て、それ以上言うな!」

侍女さんが「番」という単語を言い切る前に皇太子殿下が大きな声で止めた。

「おい、どうなってる!確か歴代の王族の番は年齢が近く、離れていても5歳ほどだと聞いた!」

「え、ええ、ですが…」

侍女さんは私の方を気まずそうに見て、言葉を詰まらせる。
うん、どうフォローしていいか分からないよね。

だってどう考えても、皇太子殿下から見たら私はオバサンだ。
母親の方が年齢が近いだろう。


「なんで、こんな…」



ああ、皇太子殿下の目じりに涙が溜まってる…!
これは泣いてしまう一歩手前だ。


「皇太子殿下、タイミングが悪かったようで申し訳ございません。失礼いたしました」


ここは、早々に退散するに限る。


言葉遣いが合っているか分からないけど、下手な小細工をして言葉をたくさん並べるよりも、早く視界から消えてあげる方が良いだろう。
私はお辞儀をして、皇太子殿下に背中を向けて早歩きを意識して部屋に戻った。


早く戻ろう。


皇太子殿下も泣きそうだったけど、


私も泣きそうだ。







宛がわれた部屋に戻ったら、侍女さんが勢いよく頭を下げた。
私に失礼なことをしてしまったと謝ってくれたが、どう考えても侍女さんに落ち度はない。

私とエンカウントした「運命の番」である皇太子殿下が、私と番であることを嫌がった。

これのどこに、侍女さんの落ち度があるのだろうか。



皇太子殿下も悪くない。
そりゃ、あの年齢の少年だ。「運命の番」をいろんな大人から聞いて、理想は高くなるだろう。
普段遊ぶ相手も貴族のご令嬢とかだろうし、お顔が整っている人に囲まれて育った皇太子殿下の「運命の番」が、一般庶民の30歳。且つ自分で言うのも悲しいのだけど、老け顔。
少年の夢をぶち壊したのだから、彼が動揺して私に失礼な言葉を吐いても仕方がない。
それに、彼は皇族なのだから、彼には不敬罪というものは存在しない。

ああー…、なんかごめんね。
夢壊して。


そう思うしかない。
だれも悪くないけど、相手の方が一回り以上も年下で皇族なのだから、私が折れるしかない。
泣き寝入りするしかない。
私も傷ついたなんて、言えるはずもない。
だって、最後の恋愛にしようと思って挑んだ「運命の番」との初コンタクトで「年増」や「こんな」と言われ、番と認めたくないと暗に言われても、彼の方が私に対する期待も大きかったし、探し続けた年月も長かったのだから。
(たとえ彼自身が探したわけでなくとも、ずっと待ち続けていたのには代わりない)





侍女さんに部屋から出てもらって、夕食の時間までゆっくりすることになった。


「やっぱり結婚は無理だなぁ」


物理的にも無理だし、

何より私の気持ちとしては、もう諦めがついてしまった。



やはり私は相手に恵まれない、そんな星の元に生まれたのだ。




ベッドに腰かけて、皇太子殿下のことを思い出した。

あれはどう考えても、私に好意を持つような表情ではなかった。

よっぽど、嫌だったんだなぁ…。

泣いてないかな、せめて、泣いてなかったらいいな。




侍女さんが夕食を呼びに来るまで、私は部屋でひとり今後の身の振り方を考えるのだった。




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