ようこそお嫁様

えみ

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銀行員×20代OL

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田中まゆみ、27歳。
本日、彼氏に浮気され、振られました。

仕事に慣れてきたころ、友達に紹介された、とても信頼していたし大好きだった彼氏に。
結婚の約束もしていたし、相手の両親に挨拶もした。
私の両親は・・・小さいころに亡くなっていて、育ててくれたおばあちゃんも社会人になったころに死んでしまったから、私の方は家族を紹介できなかったけど・・・
でも、相手の両親とも何度も会って仲良くできそうだと思っていたし、彼氏と同棲の話も出ていた。
半年くらい同棲したら、結婚しようって。


“妊娠させちゃったから、あっちと結婚するわ”

浮気をした彼氏の口から出た言葉は、この一言だった。
泣いて怒る私に、彼の呆れたような表情と声でそんな言葉を吐かれては、もう何も言えなかった。
彼氏に、もう家族同然の感情を抱いていたから、裏切られたことを受け入れられなくて、
強くもないお酒をたくさん飲んで、泥酔して、意識を失った。

次に目を覚ますときは、どうか、この現実がただの悪夢であるようにと願って。






ベッドで目を覚ました。

ふかふかの布団に身体が沈んでいて、心地が良い。

確かテーブルに突っ伏して意識を飛ばしたはずなのに…

頭が痛くて、すぐに起き上がれないけど、視覚から情報を入れようと、かすむ目を何度か瞬きする。

天井も我が家とは違う。
一人暮らしをするのに十分な大きさの、築年数もある程度いった部屋だったけど、この天井は木造だ。

私、泥酔して家を出ちゃったのかな。
意識を失うほど飲んだことはなかったけど、まさかこんな事態を招くとは…


頭が痛いけど、身体を起こして取り敢えず状況をもっと把握しなければと、お腹に力を入れた時だ。

「ん…」

私のすぐ横で、低いうめき声が聞こえた。


驚いて勢いよく右に顔を向けると、とてもお顔が整ったイケメンが寝ていた。





まさか。
まさかまさか。

驚きに言葉が出ずに、口だけがぱくぱくと動く。
まるで絵画を見ているような、とても綺麗で美しい男の人がベッドで、私の真横で寝ていた。
こんなに格好いい人を見たことがない。
もともと俳優とかアイドルに興味が無くて、イケメンなどの基準もよく分かってなかった私でも、思わずまじまじと見てしまうほどだった。

健康的な肌の色で、髪色は黒だけど光が当たっているところは少し緑色に見える。
眉毛は少し濃い。鼻も少し高く、唇は…ちょっと恥ずかしくて見れなくなった。
その下に視線を向けると、胸から上が毛布から出ている。
見えている部分は裸だ。
筋肉が引き締まっているように見える。

だめだ。
状況把握を言い訳に、イケメンを観察しただけになってしまった。
心臓が凄まじい勢いで動くのは、この状況への動揺だけではなくなってしまった。

視線を外そうとしても、外せない。
どうしたら良いのか分からず、フリーズしていた。


すると…スッと男の目が開いた。
男の瞳は、深い緑色をしていた。

およそ2、3秒見つめ合っただろう。
思考が停止していたところから、男が瞬きして目を大きく開いたところで、我に返った。


「あッ、えっと、あの…!」


思わず後ずさって、後ろに手を置いた。その時。

手を置いたつもりが、ベッドの隅に座っていた私は、何もないところに手を着こうとして、後ろに身体が傾いた。


視界はスローモーションのようにゆっくり傾いて…あ、これ床に頭を打つやつだ。と頭だけが冷静に状況を理解して、次に来る痛みに身構えた。
ぎゅっと目をつぶったら、身体をぐんと前方に引かれた。


ぽすんとやわらかい音がして、何かにもたれかかった。
前方に存在して、もたれかかれるものなんて、一つしかない。



「大丈夫か?」

頭の上から聞こえてくる低い声。
どっしりとした声だけど、落ち着く音をしている。

「だ、大丈夫です…!」

目の前は肌色でいっぱいだ。
なんだか良い匂いもする。
イケメンは良い匂いがするんだね。と訳が分からない感想が出てくるけど、そんなこと考えている場合ではない。

男は、私の右手を引いて、反対の手で私の腰を抱いて、私がベッドから落ちるのを阻止してくれたらしい。
腰に回された腕のせい?おかげ?で抱きしめられているようだ。

先ほどベッドから落ちそうになって肝を冷やしたのに、また顔に熱がこもってきた。

「お前、女か?」

こくこくと強く頷くと、男は身体を強張らせた。
一瞬のことだったけど、彼に触れているから気が付いた。
そして、彼が身体を強張らせた理由を悟った。

これ、どう考えても私が不法侵入者だ…!!
ベッドに知らない女がいた。
これだけで証拠は十分だ。
このままでは警察に突き出される…!!!!


「あの、すみません、私…!ここがどこか分からなくて、なんでこんなことになっているのかも分かってないんです…!何もしてません、何も取ってません!すぐに出ていきますからッ」

どうか通報だけはご勘弁を…!

その思いで男に必死に弁解した。
どれだけ必死に説明しても、警察行きになりそうだけど、うまくいけば怒鳴られて慰謝料を払うだけで済ませてくれるかもしれない…!
目の前の彼は絶世の美男。
そんな彼からすれば、どこの馬の骨とも知れない女が自分のベッドに入って寝ていたなんて、一生のトラウマものだろう。

お酒をたらふく飲んで意識がない中でここで寝てしまっていたみたいだと説明する。最早言葉がきちんとした文になっていないのに、それでも目の前の男は私の言葉を遮ることなく、じっと聞いてくれる。
彼の口からどんな言葉が出てくるのか分からなくて、怖くて、目じりが熱くなってきた。

「ご、ごめんなさぃぃー!!」

最後、私が言える言葉は謝罪だけだった。

社会人になってしばらくたつのに、大人げなく泣いてしまった。
どうしていいかわからないし、自分も自分の状況が分かっていないし、男に説明できるのはここに来るまでのことだけ。
それでどうして男を説得できるのだろうか。
絶望的な状況に打ちひしがれて、目の前の男が私を残酷な現実に落とす言葉を発するのを、怯えながら待つしかない。

ぎゅっと目をつぶって、男の言葉を待つ。

しかし、男は言葉を発することなく、
私の頭にポンと手の平を置いた。

「落ち着け」

その言葉に、驚いて目を開いて男を見上げた。

声は、予想していたよりもっと優しくて、穏やかだった。



「どうやら、渡り嫁らしい」

そして、男の口から聞き覚えのない言葉を聞いた。

よくわからず、首を小さくかしげると、男は視線を逸らして…

「取り敢えず、着るものを用意しよう」

そう言って、毛布を私の身体に巻いてくれた。






私、裸だったみたいです。





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