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変わった人
変わった彼氏は②
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私の彼氏は変わっている。
自分のことすら理解できない私を、愛していると言うのだから。
『柊、どうして俺を見てくれないんだ?』
"嗚呼、またか"と何処かで妙に納得している自分がいる。強すぎる力で腕を逃がさないようにと捕まれると、男の手の跡がくっきり残る。そのまま固くて冷たいフローリングへと押し倒されると、馬乗りになり男の"愛"が奮われる。
『柊、俺を見て。俺だけを見て』
男に蹂躙されるだけのこれを"愛"と呼ぶのか。暴力的なそれは、私の身体を強引に暴いて"愛"の跡を残していく。
『俺を愛して。俺だけを愛して』
"愛"している。暴力的な行為が行われても。理不尽な"愛"が奮われても。
それとも、この男にとっての"愛"と、私の"愛"とは異なるモノなのだろうか。だから、いつまで経っても男は私に"愛"を求めて来るのだろうか。
『柊。お前は俺のモノだ』
私はこの男のモノ。私はまた誰かに所有されているのか。やっと所有されることから解放された所だったのに、所有者が変わっただけとは笑いすら込み上げてくる。いつまで経っても、私の所有権は手元に返ってこない。
私が自分に無関心であるが故なのか、それとも―――。
「眠れていないのか?」
頭を預けていたのは、双子の弟である椿(つばき)の左肩だった。
今日は椿の依頼で次のコンサートのポスターを私が描くことになっていた。普段なら打合わせは先方の指定の場所へ赴くが、相手が椿ということもあって晴樹と住む家まで来てもらっていた。昼過ぎに椿が来た後に、余程顔色が悪かったのか椿から少し眠るように促されて、肩を借りて仮眠を取った。そこまでの記憶はある。
「………どれくらい寝ていた?」
「十分程度だ」
たった十分の仮眠ですら、夢を見るのかと思うと眠ることに恐怖すら感じる。
「それで?質問に答えろ」
「……夢を見る」
最近、頻繁に夢を見る。内容はよく覚えていない。微かに脳裏にある記憶から、フラッシュバックだと感じている。もう二度と会いたくもないアイツと過ごした"あの日々"の記憶の欠片。起きた時に頬を伝う涙が止まらなかったり、そのまま嘔吐することもあった。それらは早朝や深夜に突然やってくるため、遠征の多い晴樹に迷惑をかける訳にもいかず、バレないように一人でやり過ごす日々がここ最近は続いていた。
「……晴樹には?」
「…………言ってない。内容を覚えていない」
「……晴樹が心配していたぞ」
私は苦笑を漏らす。椿が来る時点で、普段の私なら気付けたハズだ。それに感付く余裕もないらしいと自嘲する。
「……案外、仲良いよな、お前たち」
「話を逸らすな」
私は上手く隠しているつもりだが、それに気付くのが晴樹だ。そう考えると最近の晴樹は、過保護に拍車がかかっていた様に思う。それすら今気付く。晴樹はそれもあって、椿がこちらに来るように手を裏から回したのだろう。
「…仕事はついでで、本命は私の生存確認か?」
「阿呆。仕事は仕事だ。体調も心配だったから、打ち合わせは家に行くと言っただけだ」
「……理解した。悪い、迷惑かけた」
「これくらいは迷惑のうちに入らない」
夢を見るということは、眠りが浅いのだろう。最近は頭痛も酷く、正直今日の打ち合わせに椿が家まで来てくれたのは助かった。とてもじゃないが、外に出られる体調ではない。
ふと、先日うたた寝した時に、晴樹が心配そうにしていたことを思い出す。あの時の事を、椿に話したのかもしれない。もしくは、もうすぐあの日が来るからかもしれない。"あれから三年"の忌まわしき日が近いことで、椿も気にしていたのか。
「…珈琲、冷めたな。淹れ直す」
ソファーから立ち上がり、珈琲を淹れ直すためにキッチンへと向かう。
カップに残っていた珈琲と共に、自分の中で沸き上がった嫌悪を飲み下した。
私の彼氏は変わっている。
私すら理解出来ていない私のことを、私より理解してそっと手を差し伸べてくれるのだから。
自分のことすら理解できない私を、愛していると言うのだから。
『柊、どうして俺を見てくれないんだ?』
"嗚呼、またか"と何処かで妙に納得している自分がいる。強すぎる力で腕を逃がさないようにと捕まれると、男の手の跡がくっきり残る。そのまま固くて冷たいフローリングへと押し倒されると、馬乗りになり男の"愛"が奮われる。
『柊、俺を見て。俺だけを見て』
男に蹂躙されるだけのこれを"愛"と呼ぶのか。暴力的なそれは、私の身体を強引に暴いて"愛"の跡を残していく。
『俺を愛して。俺だけを愛して』
"愛"している。暴力的な行為が行われても。理不尽な"愛"が奮われても。
それとも、この男にとっての"愛"と、私の"愛"とは異なるモノなのだろうか。だから、いつまで経っても男は私に"愛"を求めて来るのだろうか。
『柊。お前は俺のモノだ』
私はこの男のモノ。私はまた誰かに所有されているのか。やっと所有されることから解放された所だったのに、所有者が変わっただけとは笑いすら込み上げてくる。いつまで経っても、私の所有権は手元に返ってこない。
私が自分に無関心であるが故なのか、それとも―――。
「眠れていないのか?」
頭を預けていたのは、双子の弟である椿(つばき)の左肩だった。
今日は椿の依頼で次のコンサートのポスターを私が描くことになっていた。普段なら打合わせは先方の指定の場所へ赴くが、相手が椿ということもあって晴樹と住む家まで来てもらっていた。昼過ぎに椿が来た後に、余程顔色が悪かったのか椿から少し眠るように促されて、肩を借りて仮眠を取った。そこまでの記憶はある。
「………どれくらい寝ていた?」
「十分程度だ」
たった十分の仮眠ですら、夢を見るのかと思うと眠ることに恐怖すら感じる。
「それで?質問に答えろ」
「……夢を見る」
最近、頻繁に夢を見る。内容はよく覚えていない。微かに脳裏にある記憶から、フラッシュバックだと感じている。もう二度と会いたくもないアイツと過ごした"あの日々"の記憶の欠片。起きた時に頬を伝う涙が止まらなかったり、そのまま嘔吐することもあった。それらは早朝や深夜に突然やってくるため、遠征の多い晴樹に迷惑をかける訳にもいかず、バレないように一人でやり過ごす日々がここ最近は続いていた。
「……晴樹には?」
「…………言ってない。内容を覚えていない」
「……晴樹が心配していたぞ」
私は苦笑を漏らす。椿が来る時点で、普段の私なら気付けたハズだ。それに感付く余裕もないらしいと自嘲する。
「……案外、仲良いよな、お前たち」
「話を逸らすな」
私は上手く隠しているつもりだが、それに気付くのが晴樹だ。そう考えると最近の晴樹は、過保護に拍車がかかっていた様に思う。それすら今気付く。晴樹はそれもあって、椿がこちらに来るように手を裏から回したのだろう。
「…仕事はついでで、本命は私の生存確認か?」
「阿呆。仕事は仕事だ。体調も心配だったから、打ち合わせは家に行くと言っただけだ」
「……理解した。悪い、迷惑かけた」
「これくらいは迷惑のうちに入らない」
夢を見るということは、眠りが浅いのだろう。最近は頭痛も酷く、正直今日の打ち合わせに椿が家まで来てくれたのは助かった。とてもじゃないが、外に出られる体調ではない。
ふと、先日うたた寝した時に、晴樹が心配そうにしていたことを思い出す。あの時の事を、椿に話したのかもしれない。もしくは、もうすぐあの日が来るからかもしれない。"あれから三年"の忌まわしき日が近いことで、椿も気にしていたのか。
「…珈琲、冷めたな。淹れ直す」
ソファーから立ち上がり、珈琲を淹れ直すためにキッチンへと向かう。
カップに残っていた珈琲と共に、自分の中で沸き上がった嫌悪を飲み下した。
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私すら理解出来ていない私のことを、私より理解してそっと手を差し伸べてくれるのだから。
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