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無敵な人
無敵な兄ちゃんは
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俺の兄ちゃんは無敵だ。
我が家の大嵐を相手取れるのだから。
たまに、すごく変だけど。それはもう音楽家の性(さが)だと思うことにしてる。
いや、芸術家の、かな?
「兄ちゃん、おかえりー」
「颯太(ふうた)、ただいまー」
扉が開く音がしたから玄関まで行くと、チェロを背負った兄ちゃんがいた。
俺の兄ちゃんはプロの音楽家で、半年前からナンパした年上の女性・柊さんと同棲している。
「めずらしいね、帰ってくるの。柊さんと喧嘩でもした?」
「縁起でもないこと言うなよ!?」
目をカッと開いて全力で否定する兄ちゃん。
柊さんの前では猫を被ってるから、こんな言葉遣いなのは最近は家族の前か、幼馴染みの大和くんの前でしか見なくなった。見た目は可愛い系なのに、言葉が荒くて昔から違和感の塊だったから俺的には良い感じにバランスが取れてると思ってる。
「あれ、違うんだ?じゃあなんで帰ってきたの?」
ヘタレな兄ちゃんのことだから、柊さんと喧嘩したと思ったんだけど…違ったようだ。
「なんで俺の家なのに俺が帰ってきたらダメみたいに言われんだよ…」
そりゃ兄ちゃんからのラブラブな二人の生活メールを毎日受信している俺としては?帰って来なくても全然困らない。
「父さんに用事があんだよ…」
「へぇ…母さんじゃなくて?」
「うっ…ほんとは母さんもなんだけど…と、父さんにしたい…」
渋い顔で呟く兄ちゃんは母さんが苦手だ。まぁ、母さんは我が家で一番パンチが強いから、気持ちは分からなくもない。父さんは母さんとは違って穏やかな人だから、俺が兄ちゃんの立場だったとしても父さんで済む話なら父さんとしたい。全力で。
「そうなんだ。でも残念」
いやはや、兄ちゃんは本当についてない。
「何が?」
「今日は父さんも居てるけど―――」
そう、父さん"も"居てるけど。
「お帰りー!ナンパ・チェリスト長男!」
「………………理解した」
項垂れる兄ちゃんをよそに、俺の後ろにあるリビングの扉から現れたのは、我が家の大嵐・母さんである。見た目は兄ちゃん同様可愛い母さんだけど、兄ちゃん以上に中身との差が激しい。ギャップが激しすぎて萌える要素は正直ない。
「なんだ、久し振りに母に会ったというのにその嬉しくなさそうな顔は」
兄ちゃんは全力で渋面。対する母は不適な笑み。
「見たまんまだよ、嬉しくないんだよ」
「失礼なやつだな。まぁ、良い。で?柊ちゃんは?」
「…今日は別行動」
「は?何だ?振られたのか?」
「んな訳ない!振られてないから!!不穏な発言はやめてくれる!?」
何回でもいつまでも思うけど、ナンパなんて兄ちゃん出来たんだね…。というか、柊さんもよくナンパを受け入れたね…。
今世紀最大の謎だけど、二人とも音楽やってるし…柊さんもデザイナーという意味では芸術家に分類されるし…芸術家にしか感じられないシンパシーか何かでビビっと来ちゃったのかな。知らないけど。
「やかましい。声の音量を考えろ。―――柊ちゃんが居ないならお前に用はない。まぁ、久し振りに帰ってきたんだったら、適当に過ごせ」
「…おーい、俺、長男なんだけど?」
「柊ちゃんが居たらたくさん喋りたかったが、お前一人であれば好きに過ごせるだろう。適当にしろ」
母さんは場を荒らすだけ荒らして、リビングへと去っていった。
「……お疲れ様」
毎度の事ながらあまりにも兄ちゃんが不憫で声をかける。
「もうやだ…この家、普通の優しい人間居ないの……」
半べそかきながら兄ちゃんが両手で顔を覆う。この家で一番優しい…というか、普通の人間は姉ちゃんだけ。父さんは母さんを御せるという意味で、既に人間ではない。そう意味で人間である姉ちゃんは、普段は兄ちゃん同様この家には居ないことの方が多い。
「ほんと兄ちゃんってついてないよね。昨日なら姉ちゃん居たのに」
「……陽莉(ひまり)、帰ってたのか。はぁ…ほんとについてない」
「ちなみに昨日は母さんは公演で居なかったから、姉ちゃんは難を逃れてるよ」
「陽莉め…いつも上手いこと会わずに…くそぉ…」
姉ちゃんは多分、母さんの予定を確認してから動いてるだけだと思うけど、兄ちゃんには黙っておく。どうせ分かったって兄ちゃんは、柊さんの予定を優先させるから、母さんの予定なんて分かっていても関係ないだろうし。
「父さんは自分の部屋に居てるよ」
「…そうだった。さっさと用事を済ませて帰る」
「いってらー」
楽器を玄関のクローゼットに納めて階段を昇っていく兄ちゃんに、ヒラヒラと手を振る。
そういえば、兄ちゃんは何をしに柊さんと別行動してまで帰ってきたんだろう?
ま、いっか。喧嘩とかじゃなくて、仲良しみたいだし。
俺の兄ちゃんは無敵だ。
大嵐・母さんにも、ナンパで付き合って同棲まで始めた柊さんを認めさせているのだから。
やっぱり芸術家の直感みたいなのがあるのかな??
我が家の大嵐を相手取れるのだから。
たまに、すごく変だけど。それはもう音楽家の性(さが)だと思うことにしてる。
いや、芸術家の、かな?
「兄ちゃん、おかえりー」
「颯太(ふうた)、ただいまー」
扉が開く音がしたから玄関まで行くと、チェロを背負った兄ちゃんがいた。
俺の兄ちゃんはプロの音楽家で、半年前からナンパした年上の女性・柊さんと同棲している。
「めずらしいね、帰ってくるの。柊さんと喧嘩でもした?」
「縁起でもないこと言うなよ!?」
目をカッと開いて全力で否定する兄ちゃん。
柊さんの前では猫を被ってるから、こんな言葉遣いなのは最近は家族の前か、幼馴染みの大和くんの前でしか見なくなった。見た目は可愛い系なのに、言葉が荒くて昔から違和感の塊だったから俺的には良い感じにバランスが取れてると思ってる。
「あれ、違うんだ?じゃあなんで帰ってきたの?」
ヘタレな兄ちゃんのことだから、柊さんと喧嘩したと思ったんだけど…違ったようだ。
「なんで俺の家なのに俺が帰ってきたらダメみたいに言われんだよ…」
そりゃ兄ちゃんからのラブラブな二人の生活メールを毎日受信している俺としては?帰って来なくても全然困らない。
「父さんに用事があんだよ…」
「へぇ…母さんじゃなくて?」
「うっ…ほんとは母さんもなんだけど…と、父さんにしたい…」
渋い顔で呟く兄ちゃんは母さんが苦手だ。まぁ、母さんは我が家で一番パンチが強いから、気持ちは分からなくもない。父さんは母さんとは違って穏やかな人だから、俺が兄ちゃんの立場だったとしても父さんで済む話なら父さんとしたい。全力で。
「そうなんだ。でも残念」
いやはや、兄ちゃんは本当についてない。
「何が?」
「今日は父さんも居てるけど―――」
そう、父さん"も"居てるけど。
「お帰りー!ナンパ・チェリスト長男!」
「………………理解した」
項垂れる兄ちゃんをよそに、俺の後ろにあるリビングの扉から現れたのは、我が家の大嵐・母さんである。見た目は兄ちゃん同様可愛い母さんだけど、兄ちゃん以上に中身との差が激しい。ギャップが激しすぎて萌える要素は正直ない。
「なんだ、久し振りに母に会ったというのにその嬉しくなさそうな顔は」
兄ちゃんは全力で渋面。対する母は不適な笑み。
「見たまんまだよ、嬉しくないんだよ」
「失礼なやつだな。まぁ、良い。で?柊ちゃんは?」
「…今日は別行動」
「は?何だ?振られたのか?」
「んな訳ない!振られてないから!!不穏な発言はやめてくれる!?」
何回でもいつまでも思うけど、ナンパなんて兄ちゃん出来たんだね…。というか、柊さんもよくナンパを受け入れたね…。
今世紀最大の謎だけど、二人とも音楽やってるし…柊さんもデザイナーという意味では芸術家に分類されるし…芸術家にしか感じられないシンパシーか何かでビビっと来ちゃったのかな。知らないけど。
「やかましい。声の音量を考えろ。―――柊ちゃんが居ないならお前に用はない。まぁ、久し振りに帰ってきたんだったら、適当に過ごせ」
「…おーい、俺、長男なんだけど?」
「柊ちゃんが居たらたくさん喋りたかったが、お前一人であれば好きに過ごせるだろう。適当にしろ」
母さんは場を荒らすだけ荒らして、リビングへと去っていった。
「……お疲れ様」
毎度の事ながらあまりにも兄ちゃんが不憫で声をかける。
「もうやだ…この家、普通の優しい人間居ないの……」
半べそかきながら兄ちゃんが両手で顔を覆う。この家で一番優しい…というか、普通の人間は姉ちゃんだけ。父さんは母さんを御せるという意味で、既に人間ではない。そう意味で人間である姉ちゃんは、普段は兄ちゃん同様この家には居ないことの方が多い。
「ほんと兄ちゃんってついてないよね。昨日なら姉ちゃん居たのに」
「……陽莉(ひまり)、帰ってたのか。はぁ…ほんとについてない」
「ちなみに昨日は母さんは公演で居なかったから、姉ちゃんは難を逃れてるよ」
「陽莉め…いつも上手いこと会わずに…くそぉ…」
姉ちゃんは多分、母さんの予定を確認してから動いてるだけだと思うけど、兄ちゃんには黙っておく。どうせ分かったって兄ちゃんは、柊さんの予定を優先させるから、母さんの予定なんて分かっていても関係ないだろうし。
「父さんは自分の部屋に居てるよ」
「…そうだった。さっさと用事を済ませて帰る」
「いってらー」
楽器を玄関のクローゼットに納めて階段を昇っていく兄ちゃんに、ヒラヒラと手を振る。
そういえば、兄ちゃんは何をしに柊さんと別行動してまで帰ってきたんだろう?
ま、いっか。喧嘩とかじゃなくて、仲良しみたいだし。
俺の兄ちゃんは無敵だ。
大嵐・母さんにも、ナンパで付き合って同棲まで始めた柊さんを認めさせているのだから。
やっぱり芸術家の直感みたいなのがあるのかな??
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