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可愛い人

可愛い後輩は

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  その日、他人は基本的に拒否することが普通である俺の可愛い後輩は、彼女を連れて僕の店へとやって来た。



ーーーチリン。
  店の扉の開いた音で作業を一旦中断し、顔を上げると可愛い後輩の一人である大和が居た。


「勇さん、こんちはー!」
「んー、久し振りー」
「そうでしたっけ…?今から4人いけます??」
「見ての通り、ガラガラだよー」
  店内には客は居ない。割りといつもだけど、気にしたことはない。
「じゃ、お邪魔しまーす!」
  大和の後ろからは、同じく可愛い後輩の晴樹と、見知らぬそっくりな2人の男女が店に入ってきた。

「こんにちは、大和さん」
「晴樹も久し振りー。そちらのそっくりさん2人組はー?」
「聞いてください!!」
  キラキラの目で僕を見る晴樹。
  あ、やっちゃった?晴樹の変なスイッチ押しちゃった??



「あー、聞きたいような、聞きたくないような…?」
  晴樹を見ると尻尾があればブンブン振っていそうな様子で、すごく話したい内容だったことは分かる。僕としても、そっくりさん二人組と後輩たちとの関係が気になる。
  だがしかし、こういう顔をしているときの晴樹には、嫌な予感しかない。こういう時の晴樹は、エンドレスで語り続ける。僕の知る限り、今までこういう顔をするときは音楽に関する事がほとんど…いや、全部そうだった。しかし、今は人に対して。今まで例がないところがまた何が起こるか分からず恐ろしい…。

  事情を分かっていそうな大和の顔を見ると諦観の表情。

あー、確定。
どうやら、僕、やっちゃったようだ。



「勇さん、この人は僕の彼女のひぃーちゃんです!で、こっちの人はひぃーちゃんの双子の弟さんの椿くんです!」
  ひぃーちゃんと呼ばれる女性の腰に当然のように自然に腕を回し、自らに引き寄せる晴樹は過去にも無かったであろうくらい最高の笑顔。対するひぃーちゃんさんは、少し眉間に皺を寄せ晴樹を睨み、晴樹の頭がお花畑状態なのを確認すると諦めたようで、こちらに視線を寄越し口を開く。

「佐々木柊です。はじめまして」
「彼女です!」
「こんにちは。柊の双子の弟の椿です」
「見て、勇さん、僕の彼女!!」
  キラキラいっぱいで晴樹が柊さんを紹介してくる。弟さんの椿さんは、そんな晴樹を無視してこちらに小さく一礼。大和は相変わらず諦観。



大和、助けてくれるかな…!?



「ね、勇さん、僕の彼女!!」
「そ、ソウナンダー」
「晴樹、離れろ。座りたい」
  腰に腕を回されたままだった柊さんの一言により、とりあえず晴樹から彼女自慢攻撃から逃れる。恐るべし、晴樹。精神的ダメージは結構大きい…。大和が諦めモードに入るのも頷ける。


「改めて、いらっしゃいませー。僕はここのオーナーで、晴樹と大和の大学の先輩にあたる森山 勇(もりやま ゆう)です。よろしくねー」
「勇さんとは年齢的に大学の中ではかぶって無いんだけど、講義の補助で来てた時によくしてもらって」
「大学、ということは音大の?」
  柊さんは晴樹の大学の先輩、という事が音大の先輩だと分かるらしく安心する。晴樹は基本的に、自分の話を他人にあまりしない。にも関わらず、この柊さんは晴樹の大学についても知っている。ということは、晴樹にとってやっぱり今までで一番特別な存在ということだと云える。

「うん。僕はピアノ専攻だったんだけど、確か楽典の授業で晴樹と大和とは知り合ったんだよ」
  柊さんは無事座れたけど、その横にへばりつく様に座る晴樹。柊さんまで諦めモードに入ってきてて、最早、晴樹を誰も止められない…。

「さて、何か食べるー?飲み物だけにしとくー?」
「勇さんの今日のオススメは?」
「今日はオレンジが手に入ったから、オレンジ系のメニューがオススメかなー」
「ひぃーちゃん、勇さんは何言っても作ってくれるから、メニューに無いものでも食べたいものあったら遠慮無く言ってね!」
「お前が言うな」

  大和、僕の心の代弁をありがとう。
  確かに、材料さえあれば基本的に何でも作れるけど。晴樹、お前が言うな。まったく…。

「うちは新鮮なフルーツをたくさん取り扱ってるから、フルーツ系ならたぶんほとんど何でも大丈夫だよー」
「へぇ…。じゃあ、俺はミックスジュースで」
「僕はホットコーヒーで、上にオレンジ乗せてください!あと、カットフルーツ盛り合わせ!」
「俺はオレンジティーと、焼き菓子セットで」
「ひぃーちゃんは、どうする?」
「私は…カフェラテでお願いします」
「はい、かしこまりましたー。柊さんも、遠慮無くメニューに無いもの言ってくれて良かったんだよー?」
  柊さん以外はメニューに無いものばかり注文している。どれも用意できるものばかりだし、晴樹と大和の注文したカットフルーツ盛り合わせや焼き菓子セットも、メニューにはないが用意はあるものだし。

「じゃあ…せっかくなので、オレンジを生で幾つか食べたいです」
「はい、かしこまりましたー。用意するからちょっと待っててねー」
  注文されたものをカウンターで用意しながら後輩たちの様子を窺うと、柊さんは晴樹を無視して、店内の調度品であったり内装が気になるようで見回している。

「ひぃーちゃん、気に入った?」
  晴樹の控えめな声が聞こえる。
「ん…。色味が綺麗で、雰囲気が良いところだな。落ち着く…」
「ふふっ。良かったぁ。ひぃーちゃん、こういう誰も来ないところとか好きだよね」
  晴樹、それは誉められてるのかな??

  後輩の発言に地味に傷付きつつも、事実のため反論は出来ないしするつもりもない。人が多すぎる場所は、よくも悪くも色んな人が集まりすぎる。僕の店はそういうのは求めてない。

「仕事の息抜きに来たくなる」
「お前の家からだと結構あるんじゃないか?」
「まぁな。行き詰まったら、だな。頻繁には距離的にも流石にしんどい」
「ふふん、じゃあ、僕が居るときにまた一緒に来ようね」
「……気が向けば」
「ひぃーちゃん、好き!大好き!!」
  晴樹が柊さんに抱きつく。

  あのう、イチャイチャするのは、よそでやってください。はい。





  僕の可愛い後輩は、いつの間にか特別な彼女が出来ていた。
  特別なのは分かったから、もう少し外では我慢して欲しいと思ったけど。
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