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可愛い人

可愛い姉は

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  最近、可愛い姉の、彼氏を弄ることを趣味としつつある。



  あの姉を可愛いと日々宣う権利のある男。姉の彼氏に対する、ある種の嫌がらせとして。






「私、可愛い系ではないと思ってるんだけど、どう?」
 食べる手を止め、まじまじと正面に座る姉の顔を見る。一般的にどこからどうみても可愛い顔で、正しく俺と性別以外は同じ顔。

「まぁ、確かに可愛い系ではないな、括り的には」
「だよな」
  姉は身内贔屓なしに普通に可愛いと思ってるが、そこは否と答えておく。

  俺と姉は一卵性双生児。一卵性で顔は似ているハズなので、一歩間違えると誤爆どころか自爆になりかねない。沈黙は金。雄弁は銀、だ。俺の顔とて可愛いくないハズだ。

「一卵性なのに、何でお前の方が可愛い系なんだ?」
「同じ顔でも、まだ俺の方が可愛い系だろ」
  同時に言ってしまい、顔を見合わせ、ため息を吐く。たまにやってしまう。


「自分で言うなよ気持ち悪い。けど、まぁお前の方が確かに可愛いとは思う」
「だろ?」
  この姉より少し垂れ目で右目の下に泣きぼくろがあるせいで、俺の方が可愛い顔と言われガチである。大変不本意ながら。

「晴樹が何か言ってたのか?」
「いや?毎日飽きずに懲りずに可愛いと言い続けられるから、ふと私の顔が可愛い系だったかと疑問に思っただけだ」
「…ふーん」
  面白くない。姉に彼氏が居ることも、そいつに可愛いと毎日言われてることも。

  今の姉の彼氏である晴樹は、四つ歳下のチェロ奏者。俺たちの妹が、入院していた病院のチャリティーコンサートで知り合ったらしい。詳しいことを姉は教えてくれない。妹なら知っているのかもしれないが、姉から直接聞きたいに決まっている。


「で?」
「何?」
「晴樹とラブホテル行ったのか?」
「ああ……。お前の入れ知恵のせいでな」
「あれは、俺のファインプレーだろうが」
「何処が」
「ラブホテル、楽しかっただろ?」
  黙って箸を進める姉がこちらを睨む。
「酷い目にあった……」
  遠い目をする姉。

  姉は見た目も可愛いが、どちらかというと、中身の方が可愛いと思う。特に、年齢に対して天然素直レベルが追い付いていない辺りが。抜けている所が多いのに、本人にその自覚が全くない。


「良かったよ」
  その言葉に俺は色んな意味を込める。
「……晴樹は、優しいよ」
  やや間があり、含みのある答えが返ってくる。
「知ってる。晴樹からメールが来るし」
  姉は困ったように眉尻を下げる。

「晴樹に釘を刺しておく」
「そうしてくれ。毎日来るし、長いし読むの疲れる」
  晴樹は俺にやたらとメールしてくる。姉の寝癖が可愛いやら、仕草が可愛いやら、それはもう際限なくメールでそれらを語ってくる。
  姉が可愛いのなんか、ずっと昔から知っている。

「椿(つばき)」
「…何?」
「私は、晴樹が居るから大丈夫だ」
「………うん」
  今度は。晴樹は大丈夫だと、思う。



  姉の以前の彼氏は、自分が追い詰められると姉に暴力を振るうようなクズだった。姉は別れたいと何度も言ったが男と別れられず、結局警察に保護されるまでの約三年もの間、耐え続けた。

  その結果、姉から感情が消え、男性への恐怖だけが残ってしまった。事が発覚した当初、姉は笑顔の可愛い人だったのに見れず、俺や兄が触れる事も出来ない程に心にトラウマを抱えていた。

  姉はいつだって、俺たちの前では笑っていた。俺たちは、姉が追い詰められていたのに気付けなかった。

―――だから、次こそは。



「柊」
  姉の瞳に映る俺の顔は、姉にそっくりなのに情けない顔をしている。
「何だ」
  姉は困った顔になる。
「次は、ちゃんと……幸せになれよ…?」
「うん」
  姉が俺の頭を雑に撫でる。







  晴樹は、姉の彼氏だ。
  可愛いと姉に宣う権利のある男だ。

  最近の俺の趣味は、そんな姉の彼氏を弄ることだ。


  晴樹は、可愛い姉を独占できるんだ。
  それくらい、許してくれても良いと思わないか?
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