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4章
17歳 -土の陽月1-
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人間1人と精霊4柱で営む無人島生活ならぬ無人村生活は、崩壊への様々な対処に追われる日々でした。幼い頃、山吹と折り合いが悪かったうえに兄上にも嫌われ、一人(+三太郎さん)暮らしを考えたことがありましたが、今回図らずもそれが実現した形となりました。確かに何一つ取り繕う必要のない生活は気楽+やりたい放題で楽しくはあるのですが、同時に寂しいとも感じてしまいます。幸いにもやらねばならない事が多いので寂しさを感じる瞬間は多くはないのですが、ふとした瞬間に母上や叔父上や兄上たちの顔を思い出してしまって、東の空を見上げながらしんみりとしてしまいます。
そんな私よりも大変な日々を過ごしているのは三太郎さんたちで、ここ1年弱で大幅に増えた霊力のコントロールに磨きをかけています。
その一環で普段ならば却下されるような霊力の使い方も、今だけという約束で使い放題です。桃さんには朝食の手伝いを頼み、桃さんが焼いた魚は朝食の定番になりました。最初の頃は焦げてしまって苦い魚をお茶で流し込んでいましたが、今では絶妙な焼き加減の美味しいお魚が食べられるようになりました。また浦さんには毎晩適温のお湯を頭から浴びせてもらってから「浄水」技能で全身を一気に洗浄し、その後は「撥水」技能で着ている服込みで洗浄&乾燥してもらうという、技能の合せ技を頼んでいます。技を使うという認識の強い三太郎さんは、複数の技を同時に使うことが少し苦手です。なので同様に金さんも「研磨」と「硬化」だとか、複数の技能を同時に使う練習をしています。
そんなさなか、うっかりという訳ではないのですが
「前世では魔力や霊力を限界まで消費すると
最大値が増えるという謎の仕組みが創作で良く使われてたけど、
あれって結局どういう仕組なんだろうって考えたことがあってね。
筋力を鍛えるってのとはちょっと訳が違うじゃない?」
なんて食事時の他愛ない雑談で思い出話をしたところ、その日から三太郎さんは限界数歩手前まで霊力を使うという無茶を始めました。確かに私の中に戻れば霊力は高速回復していきますが、精霊は霊力を使い切ってしまうと消滅する危険性があるので、真剣に「止めて」とお願いしてまわる羽目になりました。口は災いのもととはこの事です。
ところがいざやってみると、実際に最大量が微々たる量とはいえ増えたらしく……。自分の霊力の残量を明確に把握する訓練にもなると、三太郎さんは毎日大量の霊力を使うようになりました。ちなみに使った後は周辺を浄化することも忘れず、浄化した霊力を再び取り込むようになった事で私の負担も減りました。
そうやって三太郎さんが修練を積んでいる間、龍さんには別の仕事をしてもらっています。家事のうち掃除と炊事は私が担当していますが、水を除く食材や調味料は定期的に龍さんが橡が待つ島とアスカ村を往復して運んでくれているのです。周囲の山や川で猟や漁をして食材を手に入れることもできますが、どうしても危険が伴います。三太郎さんと一緒なら危険も回避できますが、魚はともかくお肉は狩ってきて直ぐに食べられる訳じゃありません。様々な下処理が必要で、私は流石にお肉の下処理は知らないどころか見たこともありません。前世ではもちろん、今世でも叔父上たちは男の仕事だからと私や母上や橡からは見えない場所で下処理をしていました。また魚の下処理なら前世知識でどうにかなりそうなのですが、問題はサイズです。前世の祖母から色々と教わってはいましたが、流石に1mを軽く超えるサイズの魚を捌いたことはありません。なので万が一捕獲できたとしても、龍さんに島に持っていってもらって処理してもらう必要があるのです。
そんな日々を過ごしていると、地味に少しずつストレスが溜まっていきます。
三太郎さんと龍さんは土の神は神力が回復してから行動に移すに違いないと予測していましたが、当然ながら確実ではありません。私達の裏をかくようにもっと早くに行動を起こすかもしれませんし、陰月になって油断した頃に行動を起こすかもしれません。なので様々な準備を進めつつも、何時でも行動に移せるように緊迫感を維持し続けなければならないのですが、臨戦態勢に等しい緊張を維持し続けるのは私には無理です。体力的には畑仕事も何もない今は楽なはずなのに、精神的な疲れからか身体が重く感じてしまいます。
「あぁ……お風呂、入りたいなぁ……」
ポツリとこぼれ落ちた言葉に、自分でも驚いてしまいました。アスカ村でお風呂に入れない事は仕方ないと諦めていましたし、毎晩浦さんにお願いして頭の天辺からつま先まで綺麗にしています。それどころか下着込みで着衣まで綺麗になっているので、不衛生さから不快感なんてものは一切ありません。なので十分だと思っていたのですが……。
「気持ちは分かりますよ」
「でもよ、一人にはさせられねぇから一緒に入ることになるぞ?」
首肯して賛同してくれる浦さんに、気持ちは解るがと渋い顔をする桃さん。金さんや龍さんも渋い顔をしているところを見ると桃さんに同意のようですし、賛同してくれた浦さんですら続いた言葉は
「櫻の気持ちは本当に良く解りますが、我慢してください」
でした。まぁ私も我が儘を言うつもりはありませんし、今は快適さを優先する時ではないってことも解っています。なのでこの話題はサラッと流して次の話題へと移ります。
「もう一度確認したいんだけど、
土の神と対峙する時、私と金さんは最後列で待機なんだよね?」
「そうじゃな。おぬしは己が身を守ることが最優先じゃ」
「我が常に傍におるゆえ、そうそう怪我を負わせる事はないと思うが、
我には我の役目があるゆえ、そなた自身も気をつけてもらいたい」
細かい計画なんてものはありません。なにせ相手は神なので、こちらがどれだけ策を尽くしてもその上をいく可能性が高いのです。なので私達が決めた作戦はかなり大雑把で、最前線で龍さんと桃さんが土の神と戦い、その少し後ろで浦さんが補助を行う。そして最後尾にいる金さんは土の神が使った霊力を浄化して吸収という荒業に集中してもらうことになっています。
ようは土の神が力を使えば使うほど、その力を金さんが吸収できる環境を作り上げる必要があるのです。半分まで奪うことができれば後はアッという間に逆転できますし、そこまでいかなくても他の精霊の助力があるぶん金さんの方が有利です。
ただ不安材料がない訳ではありません。
「本当に私も一緒で良いのかなあぁ……」
人間の常識を大きく越えた存在である神々の戦いの場に、ただの人である私がいたところで何もできません。龍さんの説明によれば、私はこの世界の理の外の存在だから、この世に変革をもたらす助けとなる……らしく。自分でも何を言っているか解らないのですが、変化のない硬直した世界=波一つ無い水面とした場合、私はそこに投げ込まれる石なんでしょう。
「俺様もちょっとそこが心配なんだよなぁ。
大地の上にいる以上、どうしたって相手の影響を受けねぇか?」
「そこなんですよね……」
「我らの近くの大地が相手の支配下に入るような事態は
その時点で我らの敗北が濃厚ということになる。
当然そうならぬように力を尽くすが……」
「とはいえ儂が常に櫻を宙に浮かばせておく訳にはいかぬじゃろう?」
皆の視線が私へと集中しますが、その視線を受けて私も悩んでしまいます。一緒に居る事に意味があるというのは解りましたが、少しでも三太郎さんたちの負担を減らす方法はないものか……。
そんな事を思いつつ思考をぐるぐると巡らせていると、眼の前の龍さんを見てふと思い出したことがありました。龍さんは土の影響力を極力排除する為に、海の上に植物を使った浮島を作り上げました。それと同じ手が今度も使えるかもしれません。
ただ、浮かばせるのは海ではなく……
「空に島を浮かばせたら、土の神の影響下には入らないんじゃないかな?」
「「「は??」」」
これぞまさしく目が点になるといった感の三太郎さんに対し、龍さんは一言も発せないまま固まってしまいました。
「ほら、龍さんが海に作っていた植物の根で作られた島。
あれと同じような島を空に浮かべたら、土の神の影響は最小限にできない?」
「さっきも言ったが、おぬし一人でも大変じゃというのに
島を浮かばせ続けながら戦うなど、できるわけないじゃろうが」
私の提案に若干呆れ気味の龍さん。そんな龍さんに私は更に言葉を重ねます。
「そこは事前に織春金に浮遊の霊力を篭めて、
島に備え付けておけば対処できないかな? 」
「それは……そうじゃな」
言われてみれば……といった感じで、龍さんが思案顔になりつつも頷きます。
「確かにそれならば土の神の影響は最小限になるでしょうね」
「しっかし、島を空に浮かばせるなんて発想、どこから出てくるんだよ。
お前の元いた世界って島が浮かんでたっけ??」
浦さんは頷き、桃さんは感心半分呆れ半分といった表情です。
「空を飛ぶ乗り物はあったけれど、流石に島は浮かんでないよ。
創作物ではチラホラ見かける題材ではあるけれど」
「まずは空に浮かぶ島でも我の力が発揮できるかの確認が必要だ」
全てはそれからだという金さんに、全員が頷きます。
ここアスカ村で寝泊まりしていますが、大地の上に立っている以上どうしても土の神に対し敏感にならざるを得ません。それ自体は必要な事なのですが、あまりにも過剰に敏感ではその時が来る前に疲れ果ててしまいます。
翌日、朝食後に早速龍さんが直径1mぐらいの小さな浮島を作ると、それを空高くへと浮かばせました。そこに乗っているのは金さんだけで、霊力の通り具合などを確認してから戻ってきます。
「問題なく我の霊力は使えるうえ、周囲の霊力の吸収も可能だ。
少々地表の時より使用霊力は増えるようだが、問題ない程度だ」
「ならば日々の精神の安穏の為、そして櫻の安全の為、
空に島を浮かばせてそこで生活するほうが良さそうですね」
「だなっ!! 俺様、めっちゃワクワクしてきた!」
久しぶりに桃さんが全開の笑顔になりました。それに呼応するように、皆の表情が少しだけ柔らかくなります。どうやら私だけでなく全員が緊張が続く生活に限界を感じていたようで、皆で意見や知恵を出し合って一つの島を作り上げていきます。
「根が強い木が良いじゃろうな。
代表的なのは桜や欅、松。それにクスノキのいったところじゃろうか」
「じゃぁ、桜の木で良いんじゃね?」
なんて話を龍さんと桃さんがしていると思ったら、こちらでは浦さんと金さんが
「広めの浴場は是が非でも設置したいところです」
「浦、そなた……。
排水の処理をどうするつもりだ」
と珍しく浦さんが金さんを困らせています。
「それに関しては大丈夫じゃないかなぁ?
まず排水は浦さんの力で徹底的に浄化する事は大前提として、
そのうえで標高1000m以上の上空からの放出なら
地上へと落ちた水は途中で全て霧になってしまって風で流されちゃうよ」
浴場という単語に釣られ、思わず浦さんの味方をしてしまいました。大事を前に無理を通す気はありませんが、それでも可能ならお湯につかりたいと思ってしまうのは日本人の性かもしれません。
そこからはあっという間でした。元々三太郎さんは霊力の最大値を上げる為や、技能のコントロールや同時使用といった技術を上げる為に、霊力を毎日大量に使っていました。その使用先を全て浮島へと注いだのです。
まずは金さんと龍さんが状態の良い桜の木を複数本見つけてきて、それを核に一つの巨木へと変化させました。とはいえ、例によってこの世界の植物なのでそもそもが巨大で、前世では最大の桜と言われていたものですら高さ10m程でしたが、ここではその3倍は余裕でありますし、根っこは更にその3倍あります。
その根っこを上手に絡め、更には三太郎さんや龍さんの霊石などを所々に組み込んで、田舎の小学校のグラウンドぐらいの広さの土台が出来上がりました。そのサイズに今度は私が唖然としてしまいます。確かに前世の創作物で空に浮かんでいたのは高確率で城でしたし、その為にかなり広大な敷地とを持っていました。ですが私たちに城は必要ありませんし、何より掃除担当が私一人なので維持ができません。なので家が一軒建つぐらいで良いと伝えていたのですが、どうやら三太郎さんたちの家の基準が山や島の家の所為で、家=このサイズとなってしまったようです。
その天空に浮かぶ台地は、地上から見ると浦さんが作った雲が下層部を隠している所為で、まるで雲の上に寝殿造りの家が建っているように見えます。
「まるで神の家のようですね」
とは浦さんの言葉ですが、それなら神の使いの衣装のドーリス式キトンに合わせてパルテノン神殿風にすれば良かったかも?とチラリと思ってしまいました。ですがパルテノン神殿はどう考えても住宅には向かないので、やっぱり今のままで良いやと思い直します。
三太郎さんは慣れた手つきならぬ霊力操作で、家を凄まじい勢いで建てていきます。しかも私がお願いする前に各部屋に冷暖房用の温水や冷水を通すパイプや、冷凍冷蔵庫付きの台所も作ってくれていました。更には私と浦さん待望の広めの浴場に全洗浄機能付きのトイレもありますし、ウォーターベッド御帳台が備えられた自室には書机などの家具も設置済みでした。おかげで快適な日々を過ごせるようになりましたし、何より土の神の影響下から離れることができたことで少し安心もしました。
そうやって三太郎さんと龍さんは霊力を凝縮して霊石を作り続け、私は日中はその霊石を必要な場所へ運搬し、夜はゆっくりと休むことができるようになりました。
……土の陽月30日、その日の早朝までは。
そんな私よりも大変な日々を過ごしているのは三太郎さんたちで、ここ1年弱で大幅に増えた霊力のコントロールに磨きをかけています。
その一環で普段ならば却下されるような霊力の使い方も、今だけという約束で使い放題です。桃さんには朝食の手伝いを頼み、桃さんが焼いた魚は朝食の定番になりました。最初の頃は焦げてしまって苦い魚をお茶で流し込んでいましたが、今では絶妙な焼き加減の美味しいお魚が食べられるようになりました。また浦さんには毎晩適温のお湯を頭から浴びせてもらってから「浄水」技能で全身を一気に洗浄し、その後は「撥水」技能で着ている服込みで洗浄&乾燥してもらうという、技能の合せ技を頼んでいます。技を使うという認識の強い三太郎さんは、複数の技を同時に使うことが少し苦手です。なので同様に金さんも「研磨」と「硬化」だとか、複数の技能を同時に使う練習をしています。
そんなさなか、うっかりという訳ではないのですが
「前世では魔力や霊力を限界まで消費すると
最大値が増えるという謎の仕組みが創作で良く使われてたけど、
あれって結局どういう仕組なんだろうって考えたことがあってね。
筋力を鍛えるってのとはちょっと訳が違うじゃない?」
なんて食事時の他愛ない雑談で思い出話をしたところ、その日から三太郎さんは限界数歩手前まで霊力を使うという無茶を始めました。確かに私の中に戻れば霊力は高速回復していきますが、精霊は霊力を使い切ってしまうと消滅する危険性があるので、真剣に「止めて」とお願いしてまわる羽目になりました。口は災いのもととはこの事です。
ところがいざやってみると、実際に最大量が微々たる量とはいえ増えたらしく……。自分の霊力の残量を明確に把握する訓練にもなると、三太郎さんは毎日大量の霊力を使うようになりました。ちなみに使った後は周辺を浄化することも忘れず、浄化した霊力を再び取り込むようになった事で私の負担も減りました。
そうやって三太郎さんが修練を積んでいる間、龍さんには別の仕事をしてもらっています。家事のうち掃除と炊事は私が担当していますが、水を除く食材や調味料は定期的に龍さんが橡が待つ島とアスカ村を往復して運んでくれているのです。周囲の山や川で猟や漁をして食材を手に入れることもできますが、どうしても危険が伴います。三太郎さんと一緒なら危険も回避できますが、魚はともかくお肉は狩ってきて直ぐに食べられる訳じゃありません。様々な下処理が必要で、私は流石にお肉の下処理は知らないどころか見たこともありません。前世ではもちろん、今世でも叔父上たちは男の仕事だからと私や母上や橡からは見えない場所で下処理をしていました。また魚の下処理なら前世知識でどうにかなりそうなのですが、問題はサイズです。前世の祖母から色々と教わってはいましたが、流石に1mを軽く超えるサイズの魚を捌いたことはありません。なので万が一捕獲できたとしても、龍さんに島に持っていってもらって処理してもらう必要があるのです。
そんな日々を過ごしていると、地味に少しずつストレスが溜まっていきます。
三太郎さんと龍さんは土の神は神力が回復してから行動に移すに違いないと予測していましたが、当然ながら確実ではありません。私達の裏をかくようにもっと早くに行動を起こすかもしれませんし、陰月になって油断した頃に行動を起こすかもしれません。なので様々な準備を進めつつも、何時でも行動に移せるように緊迫感を維持し続けなければならないのですが、臨戦態勢に等しい緊張を維持し続けるのは私には無理です。体力的には畑仕事も何もない今は楽なはずなのに、精神的な疲れからか身体が重く感じてしまいます。
「あぁ……お風呂、入りたいなぁ……」
ポツリとこぼれ落ちた言葉に、自分でも驚いてしまいました。アスカ村でお風呂に入れない事は仕方ないと諦めていましたし、毎晩浦さんにお願いして頭の天辺からつま先まで綺麗にしています。それどころか下着込みで着衣まで綺麗になっているので、不衛生さから不快感なんてものは一切ありません。なので十分だと思っていたのですが……。
「気持ちは分かりますよ」
「でもよ、一人にはさせられねぇから一緒に入ることになるぞ?」
首肯して賛同してくれる浦さんに、気持ちは解るがと渋い顔をする桃さん。金さんや龍さんも渋い顔をしているところを見ると桃さんに同意のようですし、賛同してくれた浦さんですら続いた言葉は
「櫻の気持ちは本当に良く解りますが、我慢してください」
でした。まぁ私も我が儘を言うつもりはありませんし、今は快適さを優先する時ではないってことも解っています。なのでこの話題はサラッと流して次の話題へと移ります。
「もう一度確認したいんだけど、
土の神と対峙する時、私と金さんは最後列で待機なんだよね?」
「そうじゃな。おぬしは己が身を守ることが最優先じゃ」
「我が常に傍におるゆえ、そうそう怪我を負わせる事はないと思うが、
我には我の役目があるゆえ、そなた自身も気をつけてもらいたい」
細かい計画なんてものはありません。なにせ相手は神なので、こちらがどれだけ策を尽くしてもその上をいく可能性が高いのです。なので私達が決めた作戦はかなり大雑把で、最前線で龍さんと桃さんが土の神と戦い、その少し後ろで浦さんが補助を行う。そして最後尾にいる金さんは土の神が使った霊力を浄化して吸収という荒業に集中してもらうことになっています。
ようは土の神が力を使えば使うほど、その力を金さんが吸収できる環境を作り上げる必要があるのです。半分まで奪うことができれば後はアッという間に逆転できますし、そこまでいかなくても他の精霊の助力があるぶん金さんの方が有利です。
ただ不安材料がない訳ではありません。
「本当に私も一緒で良いのかなあぁ……」
人間の常識を大きく越えた存在である神々の戦いの場に、ただの人である私がいたところで何もできません。龍さんの説明によれば、私はこの世界の理の外の存在だから、この世に変革をもたらす助けとなる……らしく。自分でも何を言っているか解らないのですが、変化のない硬直した世界=波一つ無い水面とした場合、私はそこに投げ込まれる石なんでしょう。
「俺様もちょっとそこが心配なんだよなぁ。
大地の上にいる以上、どうしたって相手の影響を受けねぇか?」
「そこなんですよね……」
「我らの近くの大地が相手の支配下に入るような事態は
その時点で我らの敗北が濃厚ということになる。
当然そうならぬように力を尽くすが……」
「とはいえ儂が常に櫻を宙に浮かばせておく訳にはいかぬじゃろう?」
皆の視線が私へと集中しますが、その視線を受けて私も悩んでしまいます。一緒に居る事に意味があるというのは解りましたが、少しでも三太郎さんたちの負担を減らす方法はないものか……。
そんな事を思いつつ思考をぐるぐると巡らせていると、眼の前の龍さんを見てふと思い出したことがありました。龍さんは土の影響力を極力排除する為に、海の上に植物を使った浮島を作り上げました。それと同じ手が今度も使えるかもしれません。
ただ、浮かばせるのは海ではなく……
「空に島を浮かばせたら、土の神の影響下には入らないんじゃないかな?」
「「「は??」」」
これぞまさしく目が点になるといった感の三太郎さんに対し、龍さんは一言も発せないまま固まってしまいました。
「ほら、龍さんが海に作っていた植物の根で作られた島。
あれと同じような島を空に浮かべたら、土の神の影響は最小限にできない?」
「さっきも言ったが、おぬし一人でも大変じゃというのに
島を浮かばせ続けながら戦うなど、できるわけないじゃろうが」
私の提案に若干呆れ気味の龍さん。そんな龍さんに私は更に言葉を重ねます。
「そこは事前に織春金に浮遊の霊力を篭めて、
島に備え付けておけば対処できないかな? 」
「それは……そうじゃな」
言われてみれば……といった感じで、龍さんが思案顔になりつつも頷きます。
「確かにそれならば土の神の影響は最小限になるでしょうね」
「しっかし、島を空に浮かばせるなんて発想、どこから出てくるんだよ。
お前の元いた世界って島が浮かんでたっけ??」
浦さんは頷き、桃さんは感心半分呆れ半分といった表情です。
「空を飛ぶ乗り物はあったけれど、流石に島は浮かんでないよ。
創作物ではチラホラ見かける題材ではあるけれど」
「まずは空に浮かぶ島でも我の力が発揮できるかの確認が必要だ」
全てはそれからだという金さんに、全員が頷きます。
ここアスカ村で寝泊まりしていますが、大地の上に立っている以上どうしても土の神に対し敏感にならざるを得ません。それ自体は必要な事なのですが、あまりにも過剰に敏感ではその時が来る前に疲れ果ててしまいます。
翌日、朝食後に早速龍さんが直径1mぐらいの小さな浮島を作ると、それを空高くへと浮かばせました。そこに乗っているのは金さんだけで、霊力の通り具合などを確認してから戻ってきます。
「問題なく我の霊力は使えるうえ、周囲の霊力の吸収も可能だ。
少々地表の時より使用霊力は増えるようだが、問題ない程度だ」
「ならば日々の精神の安穏の為、そして櫻の安全の為、
空に島を浮かばせてそこで生活するほうが良さそうですね」
「だなっ!! 俺様、めっちゃワクワクしてきた!」
久しぶりに桃さんが全開の笑顔になりました。それに呼応するように、皆の表情が少しだけ柔らかくなります。どうやら私だけでなく全員が緊張が続く生活に限界を感じていたようで、皆で意見や知恵を出し合って一つの島を作り上げていきます。
「根が強い木が良いじゃろうな。
代表的なのは桜や欅、松。それにクスノキのいったところじゃろうか」
「じゃぁ、桜の木で良いんじゃね?」
なんて話を龍さんと桃さんがしていると思ったら、こちらでは浦さんと金さんが
「広めの浴場は是が非でも設置したいところです」
「浦、そなた……。
排水の処理をどうするつもりだ」
と珍しく浦さんが金さんを困らせています。
「それに関しては大丈夫じゃないかなぁ?
まず排水は浦さんの力で徹底的に浄化する事は大前提として、
そのうえで標高1000m以上の上空からの放出なら
地上へと落ちた水は途中で全て霧になってしまって風で流されちゃうよ」
浴場という単語に釣られ、思わず浦さんの味方をしてしまいました。大事を前に無理を通す気はありませんが、それでも可能ならお湯につかりたいと思ってしまうのは日本人の性かもしれません。
そこからはあっという間でした。元々三太郎さんは霊力の最大値を上げる為や、技能のコントロールや同時使用といった技術を上げる為に、霊力を毎日大量に使っていました。その使用先を全て浮島へと注いだのです。
まずは金さんと龍さんが状態の良い桜の木を複数本見つけてきて、それを核に一つの巨木へと変化させました。とはいえ、例によってこの世界の植物なのでそもそもが巨大で、前世では最大の桜と言われていたものですら高さ10m程でしたが、ここではその3倍は余裕でありますし、根っこは更にその3倍あります。
その根っこを上手に絡め、更には三太郎さんや龍さんの霊石などを所々に組み込んで、田舎の小学校のグラウンドぐらいの広さの土台が出来上がりました。そのサイズに今度は私が唖然としてしまいます。確かに前世の創作物で空に浮かんでいたのは高確率で城でしたし、その為にかなり広大な敷地とを持っていました。ですが私たちに城は必要ありませんし、何より掃除担当が私一人なので維持ができません。なので家が一軒建つぐらいで良いと伝えていたのですが、どうやら三太郎さんたちの家の基準が山や島の家の所為で、家=このサイズとなってしまったようです。
その天空に浮かぶ台地は、地上から見ると浦さんが作った雲が下層部を隠している所為で、まるで雲の上に寝殿造りの家が建っているように見えます。
「まるで神の家のようですね」
とは浦さんの言葉ですが、それなら神の使いの衣装のドーリス式キトンに合わせてパルテノン神殿風にすれば良かったかも?とチラリと思ってしまいました。ですがパルテノン神殿はどう考えても住宅には向かないので、やっぱり今のままで良いやと思い直します。
三太郎さんは慣れた手つきならぬ霊力操作で、家を凄まじい勢いで建てていきます。しかも私がお願いする前に各部屋に冷暖房用の温水や冷水を通すパイプや、冷凍冷蔵庫付きの台所も作ってくれていました。更には私と浦さん待望の広めの浴場に全洗浄機能付きのトイレもありますし、ウォーターベッド御帳台が備えられた自室には書机などの家具も設置済みでした。おかげで快適な日々を過ごせるようになりましたし、何より土の神の影響下から離れることができたことで少し安心もしました。
そうやって三太郎さんと龍さんは霊力を凝縮して霊石を作り続け、私は日中はその霊石を必要な場所へ運搬し、夜はゆっくりと休むことができるようになりました。
……土の陽月30日、その日の早朝までは。
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を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?
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隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。
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