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4章
17歳 -水の陽月1-
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過ぎ去ってしまえばマガツ大陸での日々はあっという間でした。
当初の予定とはかなり違ったモノとなってしまいましたが、当初の予定通りの成果は得られました。三太郎さんたちは霊力が著しく増量されていて、桃さんなんて
「俺様、今なら何だって出来そうだぜ!!」
と、うっきうきで釣り上げた魚に霊力で程よく火を入れています。そうなんです、とうとう桃さんも力加減を身につけることが出来たんです。所持していた技能の関係もあって炭にしかできなかった頃を思うと、その成長という名の変化には驚きしかありません。
同様に浦さんもかなり霊力が増していて、以前は龍さんの補助がなければ出来なかったジェットフォイル航行を単独で、しかも長時間継続して技能が発動する程の量の霊力を霊石に籠められるようになりました。その排出される水の勢いたるや、これは「流水」なんて可愛いものじゃなく「激流」では?と思ってしまう程です。これにはマガツ大陸で倒した水の大妖から入手した禍玉が信じられないぐらいに巨大だった為に、そこに篭められる技能や霊力も今までとは比較にならないぐらいに強大だった事も一因として上げられますが、何より浦さん自身がそれを可能にするぐらいにパワーアップしていたことが大きく。これによって船は驚くべき速さで海上を走り抜けていきます。
その速度のおかげで島に早く戻れると思えば喜ばしい限りなのですが、逆に速すぎて以前なら航行しながら魚釣りが出来たのに、今は食料の補給のために一度船を短時間とはいえ停止させる必要が生まれてしまい、ちょっと複雑な気分です。
そして金さんも。
「これで良いか?」
「えぇ、そうですね。柄の太さ、刀身の長さなどは理想通りです。
後は比重ですが、もう少し剣先が重いほうが好みです」
「そうか。そのあたりは霊石で作る際に調整しよう」
金さんが緋桐さんと相談しながら作っているのは、水の大妖との戦いで駄目になってしまった緋桐さんの新しい剣です。正確には新しい剣の試作品で、色々と二人で試行錯誤している所為で見るたびに長さや刀身の幅が変わっていました。もちろん緋桐さんの腰には代車ならぬ代剣が佩いてあり、それも金さん作ではあるのですが、それはあくまでも暫定の剣。ちゃんと緋桐さんの手に馴染む、緋桐さん専用の剣を作りたくて金さんに無理をお願いしました。
最初は渋っていた金さんでしたが、私が提案した霊石を刀身の形に成形して霊石そのものを刀身とする案を聞いて好奇心が湧いたようで、幾つかの条件付きで了承してもらえました。定番の美味い酒の肴は当然として、それ以外にも緋桐さん以外の人には使わせない事と、それを強制する仕組みを考えて剣に組み込む事。それに緋桐さん自身も精霊から認められないような行動を繰り返した場合、剣が緋桐さんを拒否する仕組みを考える事などなど……。
お願いを一つする為にクリアしなければならない難題が多すぎる気がします。おかげで畑仕事をしていても、ご飯の準備をしていても、掃除や洗濯をしていても、頭の中は常にその問題を解決するための方法を考え続ける羽目になりました。
でも、その日の夜。眠る直前になってこれも金さんの優しさなんだなぁと気づきました。というのも難題に頭を悩ませている間は、マガツ大陸に残してきた青藍の事を忘れる事が出来ていたのです。青藍の事を忘れるなんて私は薄情だと思う反面、やれることは全てやってきたのだから、ここで気を揉んでいても仕方がないという三太郎さんたちの言葉も解ります。
例えば食料。
船に保管してあった食料の大半をあの地に置いてきました。私達は甲板に作られた畑と釣った魚でどうにか凌げますし、それに必要量も私と緋桐さんの2人分だけで済みます。対し向こうは青の部族と赤の部族合わせて100人弱も居る為、必要となる食料も当然ながら多くなります。何より三太郎さんがパワーアップしてくれたおかげで時化に遭遇する事もないでしょうし、いざとなれば金さんの「豊作」や浦さんが海さんから習得した「豊漁」を使えば食料の補給は何とかなります。
また様々な大妖や妖を倒して入手した大量の禍玉は、全て三太郎さんと龍さんが浄化して霊石に変えてしまいました。禍玉のままだと穢れた気が発生して新たな妖を生んでしまうため、集積するのも本当なら危険なのです。なのでこれは真っ先に行われ、そのうえで技能を篭められていない素の霊石は全て船に載せました。
内心(これって資源の略奪にあたるのでは?)と思いもしましたし、その事を相談もしましたが、三太郎さんや龍さん、それに緋桐さんや青・赤の部族の人達までもが
「桃様や金様、それに浦様や龍様がいなければ、
霊石どころか禍玉にすらならなかったモノなのだから
貰ってしまって良いのでは?」
というスタンスだったので、ありがたく持って帰る事にしました。とはいっても全てを持ち帰るのではなく、4分の1程は青・赤の部族の人が住む町の結界や畑などの施設に使われていますし、ほぼ同量を消耗した霊石と取り替える用に町にストックしてあります。なので船に載せたのは実質半量なのですが、それでも結構な量です。なによりサイズがアマツ大陸で取れるモノに比べて大きく、そして純度も高いのです。
マガツ大陸に来るまで、霊石に純度があるなんて思いもしませんでした。
それぐらいアマツ大陸の霊石は大きさも純度も多少の差はあっても同一の規格で作られたかののように似ていて、マガツ大陸の霊石は大きさも純度もかなり幅が広くて多種多様でした。
(青藍、暖かくして寝ているかな?)
暫定で作った家とはいえ、床と壁の中に温水を通して暖を取るシステムは設置しましたし、水道も引いてあります。竈門とお風呂は燃料の節約も兼ねて、各家ではなくて大食堂と大浴場を作ることにしましたが、その食事も火を通す事で消化が良くなって体への負担が減ることを教えてきました。
同時に清潔にすることの大事さも伝えて、入浴の仕方やトイレの使い方も教え、更に下水の設置と下水を浄水する方法も伝えてきました。その際に出る汚泥を乾燥させて焼却したものをストックしておくことも伝え、いずれローマン・コンクリートをこちらでも使えるようにしておきました。
なんだか懐かしいなぁなんて思ってしまいます。初めて母上たちを山の拠点に案内した時、それから叔父上たちを案内した時、そして茴香殿下や蒔蘿殿下を案内した時にも色んな叫び声が聞けましたが、この地でもやはり聞くことになりました。そして汚物は土に返すのが常識で、水に流したり火で燃やしたりするなんて以ての外だと大反対をくらいました。なので少し意地悪だとは思いましたが、
「なら土は汚しても良いの?」
と質問したら黙ってしまいました。この大陸には土の部族は居ないうえに、植物が生い茂るような豊かな大地では無かった為に、土は今まで重要視されてこなかったようです。
そんな不毛の大地から次から次へと食料を生み出す私達を奇跡の存在だと思ったようで、私達がアマツ大陸に帰ると伝えた時には青の部族も赤の部族も平身低頭で私達にこのまま留まって欲しいと伝えてきました。気持ちは解りますが、それは絶対に受け入れることのできない願いです。なので私は
「申し訳ないけれど、私にもやらなくてはならない事があるから」
と何度も何度も断り続けるしかありませんでした。特に青藍は誰よりも付き合いが長かった事もあって、泣きながら足にすがりついてきました。
「しゃーら! やだ!! ここ居て!! しゃーらはせーらんといっしょ!!」
と泣いて泣いて、呼吸困難になるほどに泣く青藍に
「また必ずここに来るわ。約束する」
と何度も抱きしめて説得を続けたのですが、泣き止んでもらえず。私にはどうしても帰らなくてはならない事情があるって事と、それが終わったら必ずまたここに来るってことを繰り返し伝え続けるしかありませんでした。
それでもすぐには納得してもらえず、青藍がしぶしぶ頷いてくれるようになったのは、町の設備があらかた作り終わった頃でした。本能的なものなのか、私たちが居ないと自分は死んでしまうかもしれないという危機感が薄れたのだと思います。
同時に青藍を始めとした子どもたちは、恐る恐るといった感じではありましたが青の部族も赤の部族も一緒に学んだり遊んだりするようになりました。当然そうなるように仕向けた……というと聞こえが悪いですが、そうなるように私と緋桐さんが仲立ちをしたのです。私は簡単な文字を教え、緋桐さんは剣の使い方を教えてあげていました。そうやって子どもたちが一緒に居るようになると、まずは両部族の女性たちがお互いに助け合うようになりました。
青の部族も赤の部族も子育てに関しては家族ではなく部族でするもののようで、母親の誰かが交代で子供を見ている間に、残りの母親はその他の女性たちと一緒に食事の準備や水の確保を行っていたようです。ちなみに男性は年頃になった男児に狩りの仕方を教える以外では子育てに参加せず、もっぱら狩猟で部族を守るのが仕事のようでした。
ただそんな生活も町が出来てからは、少しずつ変わっていきました。水の確保は浦さんのおかげで難なくこなせるようになりましたし、金さんの「豊作」のおかげで畑も順調です。それに今までは食べられなかった一部の海産物も、火を通せば食べられるようになることも解りましたし、何より浦さんの「豊漁」のおかげで食べられる海産物も増えました。
そういった変化の結果、労働力の分配が狩猟をする人よりも畑を耕す人のほうへと傾きました。狩猟のように少数、あるいは単独で行動する場合と違い、農耕は同じ場所に人が集まってする事になり、必然的に男性も別部族の人とコミュニケーションを取る必要が出てきました。
不幸中の幸いだったのは、青の部族も赤の部族も伝えられた歴史の為にいがみ合ってはいましたが、お互いに憎しみ合ってはいませんでした。双方ともに厳しい自然相手に生き延びることが優先されて、そこまでの関係性も無かったのです。何百年も前ならば実際に殺し合ったりしていたので手を取り合うのは難しかったかもしれませんが、今の彼らには「ご先祖様が、あの部族は悪鬼だと言っていた」程度の知識と関係です。
なので目の前で浦さんと桃さんが、いがみ合うことなく助け合っている姿を見て、彼らは天地がひっくり返る程に驚いていはいましたが、それに対して反論したり反発することはありませんでした。
まぁ……。浦さんと桃さんが仲良しだったのは、事前に私が「少しの間だけで良いから解りやすく仲良くしてね」とお願いしておいたからなのですが……。
浦さんと桃さんに協力してもらってでも伝えたかったのは奪い合うのではなく、手を取り合って分け合う事の大事さです。前世では「うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる」という言葉を残した方がいました。まさにソレ!!っていう気持ちです。
彼ら、特に男性たちは奪うのが自分の部族の為になると思っている節があり、事実今までそうやって生きてきた訳ですが、これからはそれでは共同生活が成り立たなくなります。彼らの独自の文化や価値観は出来るだけ残したいところですが、種の存続すら危うくなる文化や価値観は訂正してほしく……。「昔はこうだった」と公式文書的な歴史書を作って知識としては残しても良いから、その習慣は止めてくださいとお願いしたりもしました。
私が何度も頭を下げたり、浦さんと桃さんが助け合う姿を見て彼らにも思う所があったようで、少しずつですが歩み寄る姿が見られるようになりました。それでも三太郎さんの姿が無い所では些細なことが原因で喧嘩が勃発することもあり、なかなか上手くはいきません。こんな状況の中、アマツ大陸に戻って大丈夫かと一抹の不安が心を過ぎりましたが、ソレを解決したのは金さんでした。
「一度この地を去りはするが、後で必ず様子を見に来る。
その時に手を取り合わずにいがみ合っていた場合、
この地の全てを砂に変え、あらゆる守護も加護も取り上げる」
という脅しのような宣言に、彼らは真っ青になって片膝立ち+両手の甲に額乗せという例のポーズで、協力し合う事を遵守すると誓ったのでした。
「見えた!!!」
ようやく見えたのは陸地ではなく、見通しが全く効かないほどに濃い霧でした。ある意味では良い目印でもありますが、あの霧の中にある島こそが帰るべき島。大好きな家族が待つ島です。航海している間に兄上どころか私の誕生日も過ぎ去ってしまい、あと数日すれば水の極日になってしまいます。定期的に母上たちとは龍さんの分身を通じて連絡をとっていましたが、ようやく会えるのだと思うと心がザワザワとして落ち着きません。それは戻ってこれたという安堵と、叔父上をようやく助けられるという期待。そして何より見ないふりをしても存在を主張し続ける不安が、どんどんと大きくなっていくからです。
そんな様々な感情が顔に出ていたのか、側に立って同じように船の先を見ていた緋桐さんが
「大丈夫だ……なんて軽々しく言える事ではないよな。
だが君には精霊様方がついている。
もちろん姫沙羅様や槐殿、それに山吹たちも……。もちろん俺もな」
そう言って背中を押すように、ポンポンと叩いてくれたのでした。
当初の予定とはかなり違ったモノとなってしまいましたが、当初の予定通りの成果は得られました。三太郎さんたちは霊力が著しく増量されていて、桃さんなんて
「俺様、今なら何だって出来そうだぜ!!」
と、うっきうきで釣り上げた魚に霊力で程よく火を入れています。そうなんです、とうとう桃さんも力加減を身につけることが出来たんです。所持していた技能の関係もあって炭にしかできなかった頃を思うと、その成長という名の変化には驚きしかありません。
同様に浦さんもかなり霊力が増していて、以前は龍さんの補助がなければ出来なかったジェットフォイル航行を単独で、しかも長時間継続して技能が発動する程の量の霊力を霊石に籠められるようになりました。その排出される水の勢いたるや、これは「流水」なんて可愛いものじゃなく「激流」では?と思ってしまう程です。これにはマガツ大陸で倒した水の大妖から入手した禍玉が信じられないぐらいに巨大だった為に、そこに篭められる技能や霊力も今までとは比較にならないぐらいに強大だった事も一因として上げられますが、何より浦さん自身がそれを可能にするぐらいにパワーアップしていたことが大きく。これによって船は驚くべき速さで海上を走り抜けていきます。
その速度のおかげで島に早く戻れると思えば喜ばしい限りなのですが、逆に速すぎて以前なら航行しながら魚釣りが出来たのに、今は食料の補給のために一度船を短時間とはいえ停止させる必要が生まれてしまい、ちょっと複雑な気分です。
そして金さんも。
「これで良いか?」
「えぇ、そうですね。柄の太さ、刀身の長さなどは理想通りです。
後は比重ですが、もう少し剣先が重いほうが好みです」
「そうか。そのあたりは霊石で作る際に調整しよう」
金さんが緋桐さんと相談しながら作っているのは、水の大妖との戦いで駄目になってしまった緋桐さんの新しい剣です。正確には新しい剣の試作品で、色々と二人で試行錯誤している所為で見るたびに長さや刀身の幅が変わっていました。もちろん緋桐さんの腰には代車ならぬ代剣が佩いてあり、それも金さん作ではあるのですが、それはあくまでも暫定の剣。ちゃんと緋桐さんの手に馴染む、緋桐さん専用の剣を作りたくて金さんに無理をお願いしました。
最初は渋っていた金さんでしたが、私が提案した霊石を刀身の形に成形して霊石そのものを刀身とする案を聞いて好奇心が湧いたようで、幾つかの条件付きで了承してもらえました。定番の美味い酒の肴は当然として、それ以外にも緋桐さん以外の人には使わせない事と、それを強制する仕組みを考えて剣に組み込む事。それに緋桐さん自身も精霊から認められないような行動を繰り返した場合、剣が緋桐さんを拒否する仕組みを考える事などなど……。
お願いを一つする為にクリアしなければならない難題が多すぎる気がします。おかげで畑仕事をしていても、ご飯の準備をしていても、掃除や洗濯をしていても、頭の中は常にその問題を解決するための方法を考え続ける羽目になりました。
でも、その日の夜。眠る直前になってこれも金さんの優しさなんだなぁと気づきました。というのも難題に頭を悩ませている間は、マガツ大陸に残してきた青藍の事を忘れる事が出来ていたのです。青藍の事を忘れるなんて私は薄情だと思う反面、やれることは全てやってきたのだから、ここで気を揉んでいても仕方がないという三太郎さんたちの言葉も解ります。
例えば食料。
船に保管してあった食料の大半をあの地に置いてきました。私達は甲板に作られた畑と釣った魚でどうにか凌げますし、それに必要量も私と緋桐さんの2人分だけで済みます。対し向こうは青の部族と赤の部族合わせて100人弱も居る為、必要となる食料も当然ながら多くなります。何より三太郎さんがパワーアップしてくれたおかげで時化に遭遇する事もないでしょうし、いざとなれば金さんの「豊作」や浦さんが海さんから習得した「豊漁」を使えば食料の補給は何とかなります。
また様々な大妖や妖を倒して入手した大量の禍玉は、全て三太郎さんと龍さんが浄化して霊石に変えてしまいました。禍玉のままだと穢れた気が発生して新たな妖を生んでしまうため、集積するのも本当なら危険なのです。なのでこれは真っ先に行われ、そのうえで技能を篭められていない素の霊石は全て船に載せました。
内心(これって資源の略奪にあたるのでは?)と思いもしましたし、その事を相談もしましたが、三太郎さんや龍さん、それに緋桐さんや青・赤の部族の人達までもが
「桃様や金様、それに浦様や龍様がいなければ、
霊石どころか禍玉にすらならなかったモノなのだから
貰ってしまって良いのでは?」
というスタンスだったので、ありがたく持って帰る事にしました。とはいっても全てを持ち帰るのではなく、4分の1程は青・赤の部族の人が住む町の結界や畑などの施設に使われていますし、ほぼ同量を消耗した霊石と取り替える用に町にストックしてあります。なので船に載せたのは実質半量なのですが、それでも結構な量です。なによりサイズがアマツ大陸で取れるモノに比べて大きく、そして純度も高いのです。
マガツ大陸に来るまで、霊石に純度があるなんて思いもしませんでした。
それぐらいアマツ大陸の霊石は大きさも純度も多少の差はあっても同一の規格で作られたかののように似ていて、マガツ大陸の霊石は大きさも純度もかなり幅が広くて多種多様でした。
(青藍、暖かくして寝ているかな?)
暫定で作った家とはいえ、床と壁の中に温水を通して暖を取るシステムは設置しましたし、水道も引いてあります。竈門とお風呂は燃料の節約も兼ねて、各家ではなくて大食堂と大浴場を作ることにしましたが、その食事も火を通す事で消化が良くなって体への負担が減ることを教えてきました。
同時に清潔にすることの大事さも伝えて、入浴の仕方やトイレの使い方も教え、更に下水の設置と下水を浄水する方法も伝えてきました。その際に出る汚泥を乾燥させて焼却したものをストックしておくことも伝え、いずれローマン・コンクリートをこちらでも使えるようにしておきました。
なんだか懐かしいなぁなんて思ってしまいます。初めて母上たちを山の拠点に案内した時、それから叔父上たちを案内した時、そして茴香殿下や蒔蘿殿下を案内した時にも色んな叫び声が聞けましたが、この地でもやはり聞くことになりました。そして汚物は土に返すのが常識で、水に流したり火で燃やしたりするなんて以ての外だと大反対をくらいました。なので少し意地悪だとは思いましたが、
「なら土は汚しても良いの?」
と質問したら黙ってしまいました。この大陸には土の部族は居ないうえに、植物が生い茂るような豊かな大地では無かった為に、土は今まで重要視されてこなかったようです。
そんな不毛の大地から次から次へと食料を生み出す私達を奇跡の存在だと思ったようで、私達がアマツ大陸に帰ると伝えた時には青の部族も赤の部族も平身低頭で私達にこのまま留まって欲しいと伝えてきました。気持ちは解りますが、それは絶対に受け入れることのできない願いです。なので私は
「申し訳ないけれど、私にもやらなくてはならない事があるから」
と何度も何度も断り続けるしかありませんでした。特に青藍は誰よりも付き合いが長かった事もあって、泣きながら足にすがりついてきました。
「しゃーら! やだ!! ここ居て!! しゃーらはせーらんといっしょ!!」
と泣いて泣いて、呼吸困難になるほどに泣く青藍に
「また必ずここに来るわ。約束する」
と何度も抱きしめて説得を続けたのですが、泣き止んでもらえず。私にはどうしても帰らなくてはならない事情があるって事と、それが終わったら必ずまたここに来るってことを繰り返し伝え続けるしかありませんでした。
それでもすぐには納得してもらえず、青藍がしぶしぶ頷いてくれるようになったのは、町の設備があらかた作り終わった頃でした。本能的なものなのか、私たちが居ないと自分は死んでしまうかもしれないという危機感が薄れたのだと思います。
同時に青藍を始めとした子どもたちは、恐る恐るといった感じではありましたが青の部族も赤の部族も一緒に学んだり遊んだりするようになりました。当然そうなるように仕向けた……というと聞こえが悪いですが、そうなるように私と緋桐さんが仲立ちをしたのです。私は簡単な文字を教え、緋桐さんは剣の使い方を教えてあげていました。そうやって子どもたちが一緒に居るようになると、まずは両部族の女性たちがお互いに助け合うようになりました。
青の部族も赤の部族も子育てに関しては家族ではなく部族でするもののようで、母親の誰かが交代で子供を見ている間に、残りの母親はその他の女性たちと一緒に食事の準備や水の確保を行っていたようです。ちなみに男性は年頃になった男児に狩りの仕方を教える以外では子育てに参加せず、もっぱら狩猟で部族を守るのが仕事のようでした。
ただそんな生活も町が出来てからは、少しずつ変わっていきました。水の確保は浦さんのおかげで難なくこなせるようになりましたし、金さんの「豊作」のおかげで畑も順調です。それに今までは食べられなかった一部の海産物も、火を通せば食べられるようになることも解りましたし、何より浦さんの「豊漁」のおかげで食べられる海産物も増えました。
そういった変化の結果、労働力の分配が狩猟をする人よりも畑を耕す人のほうへと傾きました。狩猟のように少数、あるいは単独で行動する場合と違い、農耕は同じ場所に人が集まってする事になり、必然的に男性も別部族の人とコミュニケーションを取る必要が出てきました。
不幸中の幸いだったのは、青の部族も赤の部族も伝えられた歴史の為にいがみ合ってはいましたが、お互いに憎しみ合ってはいませんでした。双方ともに厳しい自然相手に生き延びることが優先されて、そこまでの関係性も無かったのです。何百年も前ならば実際に殺し合ったりしていたので手を取り合うのは難しかったかもしれませんが、今の彼らには「ご先祖様が、あの部族は悪鬼だと言っていた」程度の知識と関係です。
なので目の前で浦さんと桃さんが、いがみ合うことなく助け合っている姿を見て、彼らは天地がひっくり返る程に驚いていはいましたが、それに対して反論したり反発することはありませんでした。
まぁ……。浦さんと桃さんが仲良しだったのは、事前に私が「少しの間だけで良いから解りやすく仲良くしてね」とお願いしておいたからなのですが……。
浦さんと桃さんに協力してもらってでも伝えたかったのは奪い合うのではなく、手を取り合って分け合う事の大事さです。前世では「うばい合えば足らぬ わけ合えばあまる」という言葉を残した方がいました。まさにソレ!!っていう気持ちです。
彼ら、特に男性たちは奪うのが自分の部族の為になると思っている節があり、事実今までそうやって生きてきた訳ですが、これからはそれでは共同生活が成り立たなくなります。彼らの独自の文化や価値観は出来るだけ残したいところですが、種の存続すら危うくなる文化や価値観は訂正してほしく……。「昔はこうだった」と公式文書的な歴史書を作って知識としては残しても良いから、その習慣は止めてくださいとお願いしたりもしました。
私が何度も頭を下げたり、浦さんと桃さんが助け合う姿を見て彼らにも思う所があったようで、少しずつですが歩み寄る姿が見られるようになりました。それでも三太郎さんの姿が無い所では些細なことが原因で喧嘩が勃発することもあり、なかなか上手くはいきません。こんな状況の中、アマツ大陸に戻って大丈夫かと一抹の不安が心を過ぎりましたが、ソレを解決したのは金さんでした。
「一度この地を去りはするが、後で必ず様子を見に来る。
その時に手を取り合わずにいがみ合っていた場合、
この地の全てを砂に変え、あらゆる守護も加護も取り上げる」
という脅しのような宣言に、彼らは真っ青になって片膝立ち+両手の甲に額乗せという例のポーズで、協力し合う事を遵守すると誓ったのでした。
「見えた!!!」
ようやく見えたのは陸地ではなく、見通しが全く効かないほどに濃い霧でした。ある意味では良い目印でもありますが、あの霧の中にある島こそが帰るべき島。大好きな家族が待つ島です。航海している間に兄上どころか私の誕生日も過ぎ去ってしまい、あと数日すれば水の極日になってしまいます。定期的に母上たちとは龍さんの分身を通じて連絡をとっていましたが、ようやく会えるのだと思うと心がザワザワとして落ち着きません。それは戻ってこれたという安堵と、叔父上をようやく助けられるという期待。そして何より見ないふりをしても存在を主張し続ける不安が、どんどんと大きくなっていくからです。
そんな様々な感情が顔に出ていたのか、側に立って同じように船の先を見ていた緋桐さんが
「大丈夫だ……なんて軽々しく言える事ではないよな。
だが君には精霊様方がついている。
もちろん姫沙羅様や槐殿、それに山吹たちも……。もちろん俺もな」
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