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3章
16歳 -水の陽月5-
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ヒノモト国に向かうと決まった以上、次の日からいつもの作業に加えて別の作業が増えるのも当然の事でした。前世と違って今世の遠距離移動は必要となる荷物の量が桁違いに多く、加えて10人以上の家族全員が移動するともなれば、どれだけ荷物を積み込めば良いのか解らない程です。
まず船旅の途中で食べる保存食が大量に必要になります。船には冷蔵冷凍室も作ってあるので肉や魚や貝、それに野菜を干した物を大量に作る必要はないのですが、冷凍保存するにしても下処理は必要です。それに兄上を筆頭に全員が大食漢なので、全ての食材や調味料が大量に必要になるのです。どうしようもない事態になったなら、本来は食が必要ない5柱の精霊のみんなには我慢してもらおうとは思いますが、彼らも大事な家族なので可能な限りそういう事態は避けたいですし……。
他にも着替えや衛生用品も必要です。この世界の一般的な旅の途中の衛生状況はお察しくださいってレベルなんですが、そんな旅は絶対に我慢ができません。大型船での旅が脱出船と同レベルの衛生環境だったら、私はこの先の人生で船には絶対に乗りたくないですし海にも行きたくないと思ってしまいます。それを解消するために大型船にはお風呂や全水洗トイレを設置してありますが、そこで使う石鹸や歯ブラシといった小物や、肌着を含めた着替えは改めて作って積み込む必要があります。
そしてヒノモト国で売る商品を選定して作る必要もあります。私達は単に旅行に行くのではなく、家族全員がそれぞれに何かしらの目的があります。私の目的はヒノモトで新しい何かを見つけて来ることです。まずは油梨と呼ばれる果樹を確認して、この島で育てられるか確認したいですし、ヒノモト国特産の香辛料の数々も気になります。ただそれらを手に入れるには先立つものが必要です。叔父上たちもヒノモト国には行った事が無いらしく、どんな商品が好まれやすいのか手探り状態なのです。ヒノモト人は甘い物好きな人が多いとか、あまり強いお酒は好まないといった知識はあるそうなのですが、実際に現地の人たちがどういった物を好むのかは行ってみないと解らないそうで……。なので今後の調査を兼ねて色んな品を少しずつ持って行くという方針になりました。まぁ現時点で大量に持ち込める商品は海水から作った塩ぐらいなので、そうせざるを得なかったという事もあります。
更に品によってはヒノモト国に持ち込むのを躊躇う物もあります。一般的にジンドやカラナシと呼ばれて忌み嫌われている林檎から作られた様々な品は当然持ち込めませんし、醤油を持ち込む場合は念の為にヤマト国の双子の殿下のどちらかに確認した方が良いと思われます。叔父上たちは色々と思うところがあるようでヤマト国王家御用達の商人にはなっていませんが、それでもヤマト王家が積極的に広めてくれている醤油を勝手にヒノモト国に持ち込むのは道理にもとります。恐らく殿下たちは「櫻嬢たちが作り上げた物なのだから構わない」と笑って言ってくれるでしょうが、一声かけるのとかけないのとでは心象が全く違います。ですから一応、殿下たち宛に文を認めて送る予定なのですが、返信よりも先に出発しなくてはならない可能性もあります。なので持ち込む予定の商品は我が家が誇る独自商品ではなく、他所でも見かける品をメインにすることにしました。だからこそ品質が良い物を揃えたくなるわけで、その為の試行錯誤を含めた作業も膨大です。
そんな理由からとにかくやる事も荷物も大量なのです。唯一の救いは、旅に必要不可欠な飲料水は浦さんが居てくれるおかげで心配しなくて済むって事です。
まぁ……逆に言えば水以外は全て持って行かなくてはならないって事なんですが。
そして私達だけでなく、精霊のみんなも大忙しとなりました。
桃さんは常に私の作業を手伝ってくれていますし、二幸彦さんは母上の手伝いをしてくれています。そして浦さんや金さんは精霊の中で一番多忙となりました。火の極日までに作成途中の大型船を完成させて試運転もしなくてはならず、一日中大型船の製造にかかりっきりです。
そうやって金さんたちは全力で試行錯誤を続けてくれているのですが、現時点では常時ジェットフォイルで航行する事は厳しいという結論になりました。ただ瞬間的な急加速は可能なので、いざという時の緊急逃走用にと設置自体はしています。これで船旅の安心を一つ確保したと思えば、かなり有用な装置です。
それに船体を浮かす程の高出力とはなりませんでしたが、【流水】と【圧縮】という浦さんと金さんの技能で動かす船は前代未聞です。そういった推力に関する事を別にしてもこれだけ大きい船はこの世界にはありませんし、金属を使用した船もありません。茴香殿下や蒔蘿殿下がこの船を見たら、目をキラッキラに輝かせること間違いなしです。流石にここに招待する訳にはいかないので、2人がこの船を見る事は無いでしょうが……。
それに試行錯誤はまだまだ続けていくつもりです。もっと大きな霊石、或は数を用意できれば常時ジェットフォイルも可能かもしれないので、出来るだけ早めに用意しようとは思います。現実的ではない手段としては、金さんと浦さんの技能レベルを今以上に上げれば今の霊石でも可能かもしれまんせん。ですが既に妖狩りによる技能上昇はやってもらっていますし、何より船を急ピッチで仕上げなくてはならない以上、技能レベルを上げる時間を取る事はできないので今は諦めるしかありません。
そういった表の忙しさとは別に、裏の忙しさもありました。以前のように用意できない物や用意しづらい物は色々とあるのですが、その中の一つに泥パックがあります。アレは泥湯だった温泉のお湯を綺麗にする過程で出た泥を利用していたのですが、島で湧いているお湯は綺麗に澄んでいるので、あの泥のように粒子の細かい泥が手に入らないのです。
一度上げた生活水準はなかなか落とす事ができないとは良く言われますが、一度上げた肌のコンディションもなかなか落とす事ができるものではありません。特に母上や橡にとっては切実で、
「石鹸だけでもありがたいし、十分綺麗になるのだけれど、
あの泥を塗った後のようなさっぱり感や明るい肌の色にはならないのよね」
「そうなんですよ。以前と同じように柚子の種水を顔に塗っても
染み込み具合が違うように感じてしまいますし……」
と2人はお風呂に入って自分の腕や頬に触れる度に残念そうに言うのです。
岩屋に住んでいた頃はありとあらゆる面で今より酷かったですし、脱出船で逃避行中もなかなかお風呂には入れなかったので、肌のコンディションは目も当てられないような状態でした。あの頃に比べたら、今のように毎日お風呂に入れるだけじゃ何故駄目なんだ?という桃さんの言葉に反論はできません。ですがやはりツヤツヤもちもちの綺麗なお肌を維持したいという、母上たち2人の気持ちの方に私は同調してしまいます。
それに母上にとって生まれて初めての逃避行じゃない遠出です。まぁ、ヒノモト国へ上陸して不特定多数の人が居る場所へ行く事ができるのか??と聞かれたら、高確率で母上や橡、そして私は許可が出ずに船で留守番する事になるのでしょう。それでも旅行に行くのならば、綺麗な服やお化粧をして行きたいと思うのが女心ってものです。
そんな訳で、綺麗になってヒノモト国に行こう!作戦を開始しました。とは言っても金さんと浦さんは多忙なので、手を借りられるのは桃さんだけ……と思ったけれど、母上に喜んでもらえる事なら二幸彦さんの手も借りられるかも?
「海さん、お願いしたい事があるんだけど……」
母上と一緒に海へ向かう海さんを呼び止めた私は
「海の泥を取ってきて欲しいんだけど、良いかな?
出来るだけ粒子が細かくて綺麗な泥が良いんだけど……」
「綺麗な泥という時点で、言葉の意味がおかしい気がしますが?」
いきなり変な頼まれごとをした海さんは首を傾げますが、とりあえず了承してくれました。以前は「精霊の守護とは……」と小言を言われる事も多々ありましたし、今でも三太郎さん程気軽に何かを頼む事はできませんが、それでも母上の為になる事なら引き受けてくれるようになったので、本当に助かっています。
そうやって母上たちが貝や海藻を取っている間に、私と桃さんは山で山菜や果物を採りに行きます。果実をもぎながらも気になるのはヒノモト国の事で……
「ねぇ、桃さん。ヒノモト国ってどんな感じなの。
昔はヒノモト国に居た事もあるって言ってたよね??」
「ん? 俺様がヒノモト国に居たなんてよく覚えてたな。
そうだなぁ、火の守護が強い地で土や水の守護は弱い地だ。
当然だが他の国にも火の守護があるように
ヒノモト国にも水や土の守護はあるんだが、
土の守護は弱くて大地は何かを生み出して育てる力が弱いし、
水といえば海水だから喉の渇きを癒す事には向いてない」
「そんな場所にどうして国が興ったのか不思議極まりないんだけど……」
「いや、滅茶苦茶少ないが緑地はあるし、一応川もある。
だからその周辺に集落を作って住んでいる感じだな。
後はとにかく日中の気温がどの国よりも高いから注意が必要だが、
日陰に入れば途端に涼しくなるから山より過ごしやすいんじゃないか?
だからお前はヒノモト国に行ったら常に日陰に居ろよ、いいな!」
急にビシッと指を突きつけられて注意されてしまいました。山の家付近は湿度が高い分、日陰に入っても少ししか涼しく感じなかったのに対し、ヒノモト国は日陰にさえ入ればかなり涼しくなるんだとか。だからヒノモト国の人たちは、火の月でも長袖を着て日射を防ぐのだそうです。ただ暑い国に一番暑い時期に行くわけですから、念の為にスポーツドリンクの材料は多めに持って行こうと思います。
……って、また荷物が増えたよ……。
その日の夜。皆が夕食後の趣味タイムでのんびりしている時に、私は島移住直後に作られた作業小屋へと来ていました。目の前には薄灰色のクリームのような泥がありました。
「うーん、泥のキメは細かいけれど……」
そういって手の甲に少し塗ってみたのですが、暫くするとピリピリとした痛みを感じます。これは駄目だとすぐさま泥を洗い流してみると、確かに肌のトーンは1ランク明るくなったようにも見えますが、それ以上に赤くなってしまっています。
「あぁ、やっぱり駄目かぁ。
塩分が多いから肌に刺激が強いのかも……」
泥を水で洗って塩を抜くなんて事が出来るのか、ちょっと試行錯誤が必要になりますが、泥の粒子自体は細かくて良いものです。何とか塩抜きを火の月までに頑張ってみたいと思います。
それにしても……
やっぱり母上を始めとした家族に喜んでもらえるモノを試行錯誤するのって、本当に楽しくて仕方がありません。勿論失敗無しで一発成功も良いですが、失敗を積み重ねた中から別の何かを作り上げたりするのも楽しいのです。
そして何より完成品を母上をはじめとした家族に使ってもらえて、驚いたり喜んでもらえたりすることが、本当に本当に嬉しくて仕方がないのです。その気持ちは15年以上経った今でも変らないですし、この先もずっと変らないんだろうな。
まず船旅の途中で食べる保存食が大量に必要になります。船には冷蔵冷凍室も作ってあるので肉や魚や貝、それに野菜を干した物を大量に作る必要はないのですが、冷凍保存するにしても下処理は必要です。それに兄上を筆頭に全員が大食漢なので、全ての食材や調味料が大量に必要になるのです。どうしようもない事態になったなら、本来は食が必要ない5柱の精霊のみんなには我慢してもらおうとは思いますが、彼らも大事な家族なので可能な限りそういう事態は避けたいですし……。
他にも着替えや衛生用品も必要です。この世界の一般的な旅の途中の衛生状況はお察しくださいってレベルなんですが、そんな旅は絶対に我慢ができません。大型船での旅が脱出船と同レベルの衛生環境だったら、私はこの先の人生で船には絶対に乗りたくないですし海にも行きたくないと思ってしまいます。それを解消するために大型船にはお風呂や全水洗トイレを設置してありますが、そこで使う石鹸や歯ブラシといった小物や、肌着を含めた着替えは改めて作って積み込む必要があります。
そしてヒノモト国で売る商品を選定して作る必要もあります。私達は単に旅行に行くのではなく、家族全員がそれぞれに何かしらの目的があります。私の目的はヒノモトで新しい何かを見つけて来ることです。まずは油梨と呼ばれる果樹を確認して、この島で育てられるか確認したいですし、ヒノモト国特産の香辛料の数々も気になります。ただそれらを手に入れるには先立つものが必要です。叔父上たちもヒノモト国には行った事が無いらしく、どんな商品が好まれやすいのか手探り状態なのです。ヒノモト人は甘い物好きな人が多いとか、あまり強いお酒は好まないといった知識はあるそうなのですが、実際に現地の人たちがどういった物を好むのかは行ってみないと解らないそうで……。なので今後の調査を兼ねて色んな品を少しずつ持って行くという方針になりました。まぁ現時点で大量に持ち込める商品は海水から作った塩ぐらいなので、そうせざるを得なかったという事もあります。
更に品によってはヒノモト国に持ち込むのを躊躇う物もあります。一般的にジンドやカラナシと呼ばれて忌み嫌われている林檎から作られた様々な品は当然持ち込めませんし、醤油を持ち込む場合は念の為にヤマト国の双子の殿下のどちらかに確認した方が良いと思われます。叔父上たちは色々と思うところがあるようでヤマト国王家御用達の商人にはなっていませんが、それでもヤマト王家が積極的に広めてくれている醤油を勝手にヒノモト国に持ち込むのは道理にもとります。恐らく殿下たちは「櫻嬢たちが作り上げた物なのだから構わない」と笑って言ってくれるでしょうが、一声かけるのとかけないのとでは心象が全く違います。ですから一応、殿下たち宛に文を認めて送る予定なのですが、返信よりも先に出発しなくてはならない可能性もあります。なので持ち込む予定の商品は我が家が誇る独自商品ではなく、他所でも見かける品をメインにすることにしました。だからこそ品質が良い物を揃えたくなるわけで、その為の試行錯誤を含めた作業も膨大です。
そんな理由からとにかくやる事も荷物も大量なのです。唯一の救いは、旅に必要不可欠な飲料水は浦さんが居てくれるおかげで心配しなくて済むって事です。
まぁ……逆に言えば水以外は全て持って行かなくてはならないって事なんですが。
そして私達だけでなく、精霊のみんなも大忙しとなりました。
桃さんは常に私の作業を手伝ってくれていますし、二幸彦さんは母上の手伝いをしてくれています。そして浦さんや金さんは精霊の中で一番多忙となりました。火の極日までに作成途中の大型船を完成させて試運転もしなくてはならず、一日中大型船の製造にかかりっきりです。
そうやって金さんたちは全力で試行錯誤を続けてくれているのですが、現時点では常時ジェットフォイルで航行する事は厳しいという結論になりました。ただ瞬間的な急加速は可能なので、いざという時の緊急逃走用にと設置自体はしています。これで船旅の安心を一つ確保したと思えば、かなり有用な装置です。
それに船体を浮かす程の高出力とはなりませんでしたが、【流水】と【圧縮】という浦さんと金さんの技能で動かす船は前代未聞です。そういった推力に関する事を別にしてもこれだけ大きい船はこの世界にはありませんし、金属を使用した船もありません。茴香殿下や蒔蘿殿下がこの船を見たら、目をキラッキラに輝かせること間違いなしです。流石にここに招待する訳にはいかないので、2人がこの船を見る事は無いでしょうが……。
それに試行錯誤はまだまだ続けていくつもりです。もっと大きな霊石、或は数を用意できれば常時ジェットフォイルも可能かもしれないので、出来るだけ早めに用意しようとは思います。現実的ではない手段としては、金さんと浦さんの技能レベルを今以上に上げれば今の霊石でも可能かもしれまんせん。ですが既に妖狩りによる技能上昇はやってもらっていますし、何より船を急ピッチで仕上げなくてはならない以上、技能レベルを上げる時間を取る事はできないので今は諦めるしかありません。
そういった表の忙しさとは別に、裏の忙しさもありました。以前のように用意できない物や用意しづらい物は色々とあるのですが、その中の一つに泥パックがあります。アレは泥湯だった温泉のお湯を綺麗にする過程で出た泥を利用していたのですが、島で湧いているお湯は綺麗に澄んでいるので、あの泥のように粒子の細かい泥が手に入らないのです。
一度上げた生活水準はなかなか落とす事ができないとは良く言われますが、一度上げた肌のコンディションもなかなか落とす事ができるものではありません。特に母上や橡にとっては切実で、
「石鹸だけでもありがたいし、十分綺麗になるのだけれど、
あの泥を塗った後のようなさっぱり感や明るい肌の色にはならないのよね」
「そうなんですよ。以前と同じように柚子の種水を顔に塗っても
染み込み具合が違うように感じてしまいますし……」
と2人はお風呂に入って自分の腕や頬に触れる度に残念そうに言うのです。
岩屋に住んでいた頃はありとあらゆる面で今より酷かったですし、脱出船で逃避行中もなかなかお風呂には入れなかったので、肌のコンディションは目も当てられないような状態でした。あの頃に比べたら、今のように毎日お風呂に入れるだけじゃ何故駄目なんだ?という桃さんの言葉に反論はできません。ですがやはりツヤツヤもちもちの綺麗なお肌を維持したいという、母上たち2人の気持ちの方に私は同調してしまいます。
それに母上にとって生まれて初めての逃避行じゃない遠出です。まぁ、ヒノモト国へ上陸して不特定多数の人が居る場所へ行く事ができるのか??と聞かれたら、高確率で母上や橡、そして私は許可が出ずに船で留守番する事になるのでしょう。それでも旅行に行くのならば、綺麗な服やお化粧をして行きたいと思うのが女心ってものです。
そんな訳で、綺麗になってヒノモト国に行こう!作戦を開始しました。とは言っても金さんと浦さんは多忙なので、手を借りられるのは桃さんだけ……と思ったけれど、母上に喜んでもらえる事なら二幸彦さんの手も借りられるかも?
「海さん、お願いしたい事があるんだけど……」
母上と一緒に海へ向かう海さんを呼び止めた私は
「海の泥を取ってきて欲しいんだけど、良いかな?
出来るだけ粒子が細かくて綺麗な泥が良いんだけど……」
「綺麗な泥という時点で、言葉の意味がおかしい気がしますが?」
いきなり変な頼まれごとをした海さんは首を傾げますが、とりあえず了承してくれました。以前は「精霊の守護とは……」と小言を言われる事も多々ありましたし、今でも三太郎さん程気軽に何かを頼む事はできませんが、それでも母上の為になる事なら引き受けてくれるようになったので、本当に助かっています。
そうやって母上たちが貝や海藻を取っている間に、私と桃さんは山で山菜や果物を採りに行きます。果実をもぎながらも気になるのはヒノモト国の事で……
「ねぇ、桃さん。ヒノモト国ってどんな感じなの。
昔はヒノモト国に居た事もあるって言ってたよね??」
「ん? 俺様がヒノモト国に居たなんてよく覚えてたな。
そうだなぁ、火の守護が強い地で土や水の守護は弱い地だ。
当然だが他の国にも火の守護があるように
ヒノモト国にも水や土の守護はあるんだが、
土の守護は弱くて大地は何かを生み出して育てる力が弱いし、
水といえば海水だから喉の渇きを癒す事には向いてない」
「そんな場所にどうして国が興ったのか不思議極まりないんだけど……」
「いや、滅茶苦茶少ないが緑地はあるし、一応川もある。
だからその周辺に集落を作って住んでいる感じだな。
後はとにかく日中の気温がどの国よりも高いから注意が必要だが、
日陰に入れば途端に涼しくなるから山より過ごしやすいんじゃないか?
だからお前はヒノモト国に行ったら常に日陰に居ろよ、いいな!」
急にビシッと指を突きつけられて注意されてしまいました。山の家付近は湿度が高い分、日陰に入っても少ししか涼しく感じなかったのに対し、ヒノモト国は日陰にさえ入ればかなり涼しくなるんだとか。だからヒノモト国の人たちは、火の月でも長袖を着て日射を防ぐのだそうです。ただ暑い国に一番暑い時期に行くわけですから、念の為にスポーツドリンクの材料は多めに持って行こうと思います。
……って、また荷物が増えたよ……。
その日の夜。皆が夕食後の趣味タイムでのんびりしている時に、私は島移住直後に作られた作業小屋へと来ていました。目の前には薄灰色のクリームのような泥がありました。
「うーん、泥のキメは細かいけれど……」
そういって手の甲に少し塗ってみたのですが、暫くするとピリピリとした痛みを感じます。これは駄目だとすぐさま泥を洗い流してみると、確かに肌のトーンは1ランク明るくなったようにも見えますが、それ以上に赤くなってしまっています。
「あぁ、やっぱり駄目かぁ。
塩分が多いから肌に刺激が強いのかも……」
泥を水で洗って塩を抜くなんて事が出来るのか、ちょっと試行錯誤が必要になりますが、泥の粒子自体は細かくて良いものです。何とか塩抜きを火の月までに頑張ってみたいと思います。
それにしても……
やっぱり母上を始めとした家族に喜んでもらえるモノを試行錯誤するのって、本当に楽しくて仕方がありません。勿論失敗無しで一発成功も良いですが、失敗を積み重ねた中から別の何かを作り上げたりするのも楽しいのです。
そして何より完成品を母上をはじめとした家族に使ってもらえて、驚いたり喜んでもらえたりすることが、本当に本当に嬉しくて仕方がないのです。その気持ちは15年以上経った今でも変らないですし、この先もずっと変らないんだろうな。
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