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お父様の執務室2
しおりを挟む「素晴らしいわ。ロッゾとアーロン騎士団長。私が王立学園に行っている間、モールド伯爵家にはきっと苦難が待ってるわ」
ロムスタ伯爵との因縁には決着がついていない。
私が王立学園に行った後も、捕虜交換の協議が待っているけれど、彼が何故わざわざ遠征してモールド伯爵家に攻めて来たのか、その答えは明確になっていないのだから。
そして、ロムスタ伯爵の背後には、彼を支持する王の存在があった。
「お嬢様。モールド伯爵軍は至高の剣へと生まれ変わりつつあります。必ずや世界の歴史を塗り替えるでしょう」
「精霊魔法については私にお任せください」
ロッゾとアーロン騎士団長は、確信を持っているかのような表情だ。
「二人が頼りよ。どうか皆を導いて」
「「仰せのままに」」
ロッゾとアーロン騎士団長は、私の願いに、共に騎士の礼で返した。
⭐ ⭐ ⭐ ⭐
汗を拭いて髪と服を調えると、私はお父様の下へと向かった。
「お父様、マリアです。調練は滞りなく終わりましたわ」
「入れ」
ノックをして、執務室に入る。
お父様は机に両肘を付き、口元辺りで両手を組んでいる。
某アニメの司令官のポーズだ。
私はしずしずとお父様の真向かいの椅子に座り、お父様が話し出すのを待つ。
「マリア…、その、精霊の実体化の…やり方を、いや、何でもない」
「? 精霊ですか?」
用件を言いよどむお父様。
精霊の…何かしら。
「お父様。精霊の使う魔法を、精霊魔法と名付けましたわ。一任されましたので、秘匿しつつも、騎士団で精霊を持つ騎士には練習させる事にしました。それでよろしいですか?」
「そうか…。精霊魔法という名になったか…」
「精霊魔法には、将来貴族の魔法を凌ぐ可能性があるように思えます。まだ、可能性の段階ですけれど」
「私は、まだ精霊魔法を使えないのだが…」
お父様の執務机の上では、お父様の精霊であるカメのトータスが、半透明でよちよち歩き回る。
「精霊魔法は、きっとモールド騎士団の象徴になりますわ」
「…ッ」
私はラテを手のひらに実体化させる。
「ラテ? 硬い小さな丸い玉をだせる?」
「マリアノ魔力モラウ」
魔力の吸われる感覚と同時に、ビー玉大の硬い岩の玉が空中に発現する。
玉を手に取り、眺めてみる。
歪のない綺麗な丸だ。真球に近いかもしれない。
硬度も高そうだ。
「この玉は時間が立てば消えるの?」
「時間立ツト消エル。材料アレバ、時間タッテモ消エナイノ出切ル」
「…凄いわラテ」
真球に近い玉の製造には、現代社会のような工業力が必要になる。
それを平然とラテはこなしてしまう。
精霊魔法の有用性は未知数だけれど、有望だと思う。
ここまで細かい作業は魔法ではできない事だ。
「お父様、精霊魔法は調べてみれば色々な事に使えそうです。産業にも役にたつかもしれませんわ」
「…そうか」
とても凄い事なのに、お父様は手を組んだまま微動だにしなかった。
「お父様、何か心配事でもありまして?」
「いや、問題ない」
お父様は、何か考え事をしているようだった。
精霊魔法について、私には話せない何かの事情があるのかもしれない。
私は話を変える事にした。
「明日、王立学園へ立ちますわ」
「…ああ」
「ロムスタ伯爵と決着のついてないままですけれど、協議は順調に進みそうですの?」
「ロムスタ伯爵の最終的な目的がわからない以上、妥協点は割り出せないだろう。もう一度戦になるかもしれないな」
捕虜交換の協議が成立すれば、ゴブ蔵が帰ってくるので、ルークは王立学園には着いてこずに、次の協議までモールド伯爵領に残る予定だ。
ついでに、スノーウルフのバドも精霊ガチャには貢献値が足らなかったようなので、ルークに鍛えて貰う予定。
動物に精霊が付くかもわからないのだけれど。
残るルークには残念ながら、協議の見通しは暗いみたいだ。
「王立学園でも、ロムスタ伯爵領との戦の影響はあるだろう。マリアには苦労をかけるな」
「大丈夫ですわ。チェルシー様にケニー公爵家の後ろ立てになる証を貰っておりますの」
チェルシー様には、ケニー公爵家の紋章と、風林火山の意匠のついたストールを頂いている。
これをかけていれば、表だって私に難癖をつけてくる貴族は少ないだろう。
「そうか。ケニー公爵令嬢が。たが、ロムスタ伯爵とのいさかいが終わるまで、当面、結婚相手は探さないでくれ。心苦しいがな」
「かしこまりましたわ」
ロムスタ伯爵に何を利用されるかわからない。
お父様の判断は当然の事だった。
その後世間話を少しして、用が無いのを確かめると、私は執務室を退出する。
入れ替わりに、執事のロッゾが執務室へと入っていった。
当分会えなくなるから、マシューの相手をしてあげなくちゃ。
マシューのほっぺたはまだまだマシュマロのように柔らかいのだ。
応援ありがとうございます!
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