上 下
22 / 32

22.トラップ

しおりを挟む

リッキーの説明でダンジョンの奥には、宝箱が点々とある事はわかった。
しかし、洞窟というのは方向感覚も掴み難いし、特徴的な地形や目印でもない限り、俺の目にはどこも同じ風景にしか見えない。
迷えば元の世界に戻れるスポットはあちらこちらにあるので、触れれば良いんだが、全く覚えられる気がしない。
地図は無いんだろうか…。

現代日本で、俺は地図のない不親切RPGなど聞いた事がない。
俺は不親切なリッキーの凶悪ダンジョンに憤った。
せめて道案内の矢印くらい置いたらどうなのだろうか?
このままだと全体像もわからないぞ。
俺は土魔法を使い、ダンジョンの壁を盛り上がらせると、何とかでっぱりが他の形に成ならないかと、魔法を操作する。

「ダンジョンの形を変えたいワン? 残念ワン。ダンジョンの構造は壊されても治るように保護されてるワン。少し変えても元に戻るんだワン。きちんと変える方法は今度教えるワン」

何という理不尽。
壊されても変えられても元に戻る、それがダンジョンか。
この時、俺はダンジョンに必須のある要素をリッキーにまだ聞かせれていない事に気づいた。
冒険者を苛立たせ、疲れさせ、危機に陥れ、時には即死させるあの要素が。

「概ね教えた所で、ワンワンワン。侵入者が来たワン」

突如リッキーが薄暗い天井を見上げて呟いた。
エスパー的な勘だろうか?
リッキーは侵入者を感知出来るらしい。

「多分小動物だワン。 入り口の方に行って様子を見るんだワン」

リッキーは近くのスポットへと手をかざすと、元の世界へと戻っていく。俺もリッキーに続いた。
転移した先は幾つかの転移陣の置いてある部屋だ。

「入り口はこの陣だワン。その前にこの腕輪を付けるワン」

リッキーは俺に古臭い腕輪を差し出してきた。

「気配隠しの腕輪だワン。気づかれにくくなるワン」

なんと、リッキーの差し出してきた腕輪は魔法の道具である。
仕組みはわからないが、ここは魔法の世界。
付与魔法の一種だろうか?
手持ちの付与魔法に気配隠しの魔法があるか確認してみるが、まだ俺には使えないようだ。
それとも、時間に制限のある付与魔法ではなく、永続的に効果のあるアイテムだろうか。
腕に腕輪を通して効果を確認するが、自分では何も変わった感覚はなかった。
腕輪をつけているリッキーの方向を見れば、存在感が薄れたように認識しにくくなっている。

「大丈夫みたいだワン。それじゃあ行くワン」

俺とリッキーは転移魔方陣で、ダンジョンの入り口へと飛んだ。

「侵入者は少し奥にいったみたいだから静かに追うワン。大きな音を立てると、気配隠しの腕輪も意味なくなるワン」

小声でリッキーが話しかけてくる。
俺は忍び足でリッキーの後についていった。
やがて、侵入者に追い付く俺たち。
侵入者は人ではなく、ハイエナのような動物だった。

ハイエナは粘体の魔物を一蹴している。
もしかしてこのハイエナは強いんだろうか?

奥へ進めば、ガラクタの兵士がガタガタと音を立てながらハイエナと接敵する。
唸りごえを上げるハイエナの前足に、俺は土魔法を使って出っ張りを作り上げた。

「強そうなハイエナだワン。兵士じゃな敵わないかもしれないワン。いったい何するつもりなんだワン?」ひそひそ

「モモモ(倒してしまっても、構わんのだろう?)」ひそひそ

「相変わらず、何が言いたいのかわからないワン…」ひそひそ

続けて、俺は魔法で地面のでこぼこをならすように、ハイエナの周りに表面の滑らかな硬い土を生成する。
俺がつくった物とは、リッキーのダンジョンに足らない、俺の知っているダンジョンに必要不可欠な要素。

そう、即席トラップである。

ハイエナがガラクタの兵士に飛びかかろうとすると、ハイエナはさっきまで無かった出っ張りに足を引っ掛け、踏ん張りの効かない地面に足を滑らせた。
ガラクタの兵士はハイエナの隙を逃さず、壊れた槍をハイエナの腹につきいれる。

「ヒィン!」

柔らかな腹を突かれてビクビクとハイエナが痙攣する。

「見事な援護だワン」ひそひそ

「モモモ、モモ(だろう? これがトラップだ)」ドヤァ…ひそひそ

「言葉は通じないけど、ドヤってることだけはわかったワン…」ひそひそ

「モモ…、モモモモ、モモモ(リッキー、お前のダンジョンに足らない重要な物を教えよう。それがこのトラップだ。地形一つが罠になるのだ)」ひそひそ

「通じないけどその顔、なんだか、むかつくワン」ひそひそ

「モモ、モモモ…(トラップの導入によって、侵入者をより効率よく…あれ? 効率よく倒してどうすんだ俺)」ひそひそ

トラップの導入によって、殺意マシマシのリッキーダンジョンが更に極悪になるだけではないか。
俺は自分の失敗に気付き、トラップ導入演説をはたと止めた。

「いきなり止まったワン」ひそひそ

俺とリッキーが小声で話してると、ガラクタの兵士がハイエナに止めを刺しおえる。

「倒した獲物がダンジョンに吸収されると、ウルになるんだワン。普通は吸収に時間がかかるけれど、今回はマスター権限で手早く吸収するワン」

リッキーが言うが途端に、ハイエナの死体が泥に呑まれるようにダンジョンに沈んでいく。

「さっきの物陰からの援護は良かったワン。これからも侵入者をどんどん倒して欲しいんだワン。そうしたら給料も払えるようになるワン」

「モモモ…」

ダメだリッキー。
侵入者を片っ端から殺害してるからお前のダンジョンはすかんぴんなんだ。
俺は自分の実力アピールの失敗に頭を抱えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【R18 】必ずイカせる! 異世界性活

飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。 偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。 ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

処理中です...