一般ノームに生まれ変わった俺はダンジョンの案内人から成り上がる

山本いとう

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16.精霊王の名付け

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銭湯からあがると、俺はフマをラッツの仕事場に連れていき、下層のダンジョンの横穴がある所まで降りてきた。
フマには、いざ何かあったら、仕事を放り投げラッツと一緒に逃げるように伝えてある。
ジェスチャーだけなので、本当に通じているかどうかはわからないが。
満月は過ぎ去り、目覚める精霊が徐々に少なくなってきているので、魔女が少なくなってきた精霊に何をするか不安だ。
俺の知る限り、魔女たちはあくまで契約を基に精霊から搾取している。
だからまともな契約の結ばれた後なら、魔女が精霊に何かをしてくるかもしれないというのは、俺の心配のし過ぎなのかもしれない。
それでも保険は必要である、と俺は思う。
諸々含めて考えると、本来フマには俺がついているべきなのだが、俺には他にやるべき事がある。
後は優先度の問題だった。
よく聞く、仕事と私どっちが大事なのよ問題である。
その答えはわからないが、フマとラッツは働かないと精神が病んでしまうので、当面は俺と行動が別になるのは仕方ないと思う事にしよう。

俺が目指すは二足歩行のシベリアンハスキーのリッキーのダンジョンだ。
リッキーのダンジョンの収益を俺の力で改善させ、精霊の働ける場所を増やすのだ。
少なくとも知り合ったフマとラッツの安全を確保するため、二人をいつでも雇えるようにしたい。

俺は壊れかけの木製の扉をノックした。
ノックするだけでギギギと動く扉。
それだけで、ここが貧乏なダンジョンなのだと察せる。

「はいはいだワン」

「モ!」

「昨日の精霊だワン。名前は…大食らいだワン?」

俺の名前は土屋陸、けっして大食らいではないが、喋れないので通り名と呼ばれるのは仕方ない。

「モ!」

「何もない所だけれど、入るんだワン。今日は何しに来たんだワン?」

リッキーはすんなり中に通してくれたので、俺は走り出し、ダンジョンコアの隠してある木箱を横にガバッと倒して、土生成の魔法を注ぎ込む。

「いきなりダンジョンコアに何するんだワン!」

激しく点滅するダンジョンコアを俺から庇い、抱えて涙目になるリッキー。

「モモ」

俺は魔力が欲しかったんだろう?と力強く頷いた。

「…魔力を入れてくれたワンね。だ、大事な物だから、きちんと許可を取って欲しいワン」 

甘いなリッキー。
大事な物は決して地べたに置かない。
そのダンジョンコアは、未だに地べたの上に木箱で覆っているだけの物なのだ。
よって、ダンジョンコアは大事な物じゃない。
証明完了。
現代日本の常識だ。

「大食らいは、そんなにうちの茶が気に入ったのかワン?」

「モモ!」

リッキーが嬉しそうに聞いて来たが、俺はわかりやすいように首を振る。

「うちの特製茶をそんなに否定しなくても…。悲しいワン」

俺は落ち込むリッキーに、スキル精霊の身体で変化させた不自然な力こぶを見せる。
そして、ニカッと自信あり気に笑顔を見せる。

「また不思議なポージングをやってるワン…。今日はちょっと忙しいから、また後で話すワン。大食らい魔力ありがとうだワン」

リッキーがダンジョンの奥の方へと向かうので、俺もスキル精霊の身体で足音を消し、こそこそとリッキーについていく。
リッキーのダンジョン作りに役立てば、 恐らく雇って欲しいという俺の想いはわかるだろう。
しかし、喋れないし文字も書けないってのは、本当に不便だ。
一度不便になって、始めて人は今まで出来ていた事のありがたさを知るのだ。


     ◆


「あいつどこに行っちゃったのかしら。行った先で迷惑かけなきゃ良いけど」

「大食らいって無茶をするような性格なの? 無茶苦茶なマナの荒稼ぎは兎も角として」 

仕事の合間にラッツと会話する。
MPの消費と回復の釣り合いが取れていないので、この仕事は暇なのだ。
そのせいで椅子で休む機会が増え、椅子に取り込まれてしまう精霊が出るのだけれど。
もしかしたらこの仕事が暇なのは、精霊を椅子に取り込みたいからなのかもしれない。
そんな中、私がどこかに行った大食らいの話を水精霊のラッツに振ると、大食らいの性格を聞かれた。
私から見れば、大食らいは慎重な性格だと思う。
無茶をするどころか、私を止めてくれる側だ。
あのサボり癖や私にはわからないし、変な性格だけれど親切なのよね。
最後に何を言いたいのかわからないまま、どこかに行ったゃったけど。

「言われてみれば…抜けてるところもあるけれど、意外にあいつしっかりしてるのよね。案外そのうち、もっと儲かる仕事を見つけてきそう」

「そうなんだ。どうも仕事は真面目じゃないみたいだけれど」

「まぁ、…おかしな精霊よね」

「どこに行ったんだと思う? せめて、話せれば色々とわかるんだれどなぁ」

「それよ。アイツどこに言葉を置き忘れてきたんだか…」

「このままだと、ちゃんとした名前さえわからないしね」

私たち精霊は、精霊王様から名付けを受ける時に、契約として様々な知識や言葉を教えられる。
そして、同時に労働の義務を負うのだ。
本来は時間をかけ中位精霊に育って、特に功績を挙げた精霊にしか行われない、精霊王様による名付け。
その精霊王様による名付けは、緊急時の今だけ全ての精霊に行われている。
そう言えば、あいつ、ちゃんと精霊王様に名付けはされてるのかしら?
本当の名前まで大食らいな訳ないわよね?

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