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2.夢から出れねンだワ

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「へぇ、それで気づけば君は夢から出れられなくなったのかい。それは不思議な話だねぇ」

聖霊界のBARで、上級精霊のブーマンさんが酒を飲みながら俺の話を聞いてくれる。
俺は俺専用にあつらえた小精霊用のコップの底を見ながら項垂れる。
小精霊でBARに来る者などいないので、偶々知り合ったブーマンさんがコップをつくってくれたのだ。

「モモモ…」

「でも、案外君が夢だと思っている世界は現実で、君が現実だと思っていたかつての世界が夢だったりしないかい?」

「モモモッ!」

「いや、君の話を疑っている訳じゃないさ。でも聞けば聞くほど夢のような話じゃないか。君の元いた世界は」

「モ!」

俺は首を振ってコップを店のマスターに掲げる。

「おいおい、まだ飲むのか? 小精霊ってのはマナはまだ固着してないんだろう?」

店のマスターは俺の支払いを気にしているようだ。
小精霊はマナを失ったら回復せずに減ったままだ。
だから普通小精霊は支払いにマナなんて使わない。
というか小精霊は、まだ精神も未熟で買い物なんてしないのだが。
俺は懐から、俺の身長の半分ほどもあるマナの玉を取り出してマスターに転がす。
マナならいくらでもあるのだから。

「俺は商売だから別に良いんだが…」

マスターはマナを受けとると、小さな小さなコップに注意深く酒を注いでくれた。

「それ飲んだらもう帰れよ…って小精霊だと家はないのか?」

「ボクの家に泊まるかい? 小精霊くん」

「モモモ…」

小精霊に休息や睡眠は必要ない。
というかそのための能力がない。
だから俺はこの半年眠れていない。
それは頭の中で、もっとマナが欲しいと騒ぐ声がするからというのもあるのだが。
幸い飲み食いは出来たから、このようにBARに入り浸るようになった。
飲み食いまで出来なかったら俺はどうなっていたんだろうか。
俺はブーマンさんにまたまた首を振った。
そして酒を一気にあおる。
ああ、視界がぐるぐる回る。
状態異常だ。
この身体になり、睡眠も気絶も出来ない俺だが酔いは良い気持ちのまま時間を早く進めてくれる。

「そうは言ってもねぇ。君、小精霊の鍋は出禁になりそうなんだろう? やることが無くて暇じゃあないのかい?」

「モ…」

ブーマンさんはぐでんぐでんになってる俺の様子を見て、カウンターの上に座る俺を、肩に乗せた。

「悪いな。今そいつはダメな方に噂になっててな」

「いいよ。このままベヒモスにでもなられたらと、部下たちも困ってた所だしね」

「…そんなに食ったのか?」

「何になるつもりか解らないくらいにはね。なりたいのはベヒモスどころじゃないのかもしれない。今日はそれも聞くつもりだったのだけれど」

「そりゃ名前も大食らいになるわなぁ」

「…大食らいと呼ばれる割にはあっという間に潰れたけれどね。それじゃあまた」

「ああ。シルキーにもよろしく」

そう言って、ブーマンさんはBARを出ると、鹿へと姿を変えて空を駆ける。
冷たい夜風が俺の頬を撫でた。


◆◆                 ◆◆


この夢の世界に閉じ込められて、俺はどれくらいおもちゃのアトラクションをこなして来ただろう?
頭の中の声に従って、数えるのが面倒な程、俺はアトラクションをクリアしてきた。
あの魔法のような土でできた出っ張りの生成はマナとやらを使うようで、安易に使わないよう頭の中の声に注意された。
まぁ、出っ張りが無くてもアトラクションでは殆ど無双出来たのだが。
睡眠も必要のない身体で、頭の中の声の要望と暇潰しで無双していると、いつの間にか俺には大食らいという名前がついていた。
魔女、エルフ、ドワーフ、コボルト、そして精霊。
ここには様々な種族が住んでいる。
俺は大食らいではなく、土屋陸というきちんとした名前があるのだが、生憎俺の喉に人語を発する能力は無かった。

アトラクションで稼いでは、稼いだマナの一部でBARに行きという暮らしを半年くらい続けていると、ある日、この国の警察みたいな連中が俺を取り囲んできた。
お揃いの制服を着たエルフの兄ちゃんが厳しい顔で俺に問いかける。

「お前はそれ以上マナを食べて何になるつもりだ? ミドガルドはベヒモスが暴れまわり、ハイランドは龍災で荒れたばかりだ。お前がもし第二のベヒモスになるつもりなら、外に出る前に討伐するしかないぞ」

警察みたいな連中が何を言っているか、言葉こそわかるが、生憎その内容は俺には理解出来なかった。
ミドガルド?
ハイランド?
おれがベヒモスになる?
疑問だらけだ。
しかし、質問しようにも俺には発声器官がない。
文字で伝えようにも、ここの文字は俺の世界の文字は違うので、伝わらないだろう。

「モモモ…」

どうしてこんな事になったんだ。
夢に閉じ込められて、よくわからない理由で、警察みたいな連中に囲まれて、殺されるかもしれないなんて。

「なるほど。どうやらお困りのようだね」

俺が天をあえいで色々諦めていると、深い森林のような声が聞こえた。
警察みたいな連中の中から巨大な鹿がのそのそと出て来て、人の形へと小さく変化していく。

「ボクの名前はブーマン。しがない大精霊さ。小精霊くん、君の名は?」

「ブーマン様、小精霊は名を持ちません」

エルフの兄ちゃんが鹿の人の言葉を遮る。

「マキシム、キミには聞いていない。ボクは小精霊くんに聞いているんだ」

鹿の人が一睨みすると、エルフの兄ちゃんは謝罪した。

「モモモ(なんか出てきたけど、どうせ俺話せないんだよな)」

「そんな事はないさ、一つ君の願いを叶えてやろう? 小さな物ならね。最近小さな悩みはないかい?」

「モモモ(最近の小さな悩みねぇ…、BARで俺に合った大きさのコップがないんだよな)」

「ほう、コップねぇ。キミ用のコップをつくったら、話を聞かせてくれるかい?」

「モモモ!?(こいつ…俺の考えを読めるのか!?)」

「精神同調というスキルでね、魔法抵抗の少ない相手の思考は大体は読めるのさ」

驚く俺に、鹿の人は人差し指を立ててどや顔で答えた。

「モモモ…(ファミ◯キください…)」

「ファミ◯キ…? それはコップの仲間なのかな?」

夢の中の世界には、ファミチキはないみたいだ。

夢の癖に何も叶わない。
変な世界なんだ、ここは。
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