上 下
1 / 32

1.キグルミ無双

しおりを挟む

目が覚めたら、おもちゃの国のアトラクションが目の前にあった。幼児が遊ぶようなおもちゃの色のアスレチック。
アスレチックは謎のチカラで空に浮かんでいるようで、下を見ると地面も見えないとんでもない高さにある。
目の前には、横に4人も並べない上へと続く坂道に、障害物が点々と並んでおり、その先のアトラクションへと続いている。

何でこんな夢を見ているのかと俺は考える。
俺の名前は土谷陸。大学生である。
昨日は大学から寄り道もせずに安アパートに帰り、趣味でやっているTouTubeの動画編集をしていた。
最近の生活からして、おもちゃのアトラクションの夢を見るようなシチュエーションはあっただろうか?

俺の周りには風変わりなキグルミを着ている人たちが、かん高い声でマママとかミミミと呟いていた。
きっと精神がヤバい人たちなのだろう。
キグルミのガラスのような瞳がキラリと光る。
数十人が横一列に並ぶ。
赤、黄、青、緑、白、黒。
キグルミの色は全部で6色。
ふと自分の手を見ると、俺も黄色のキグルミを着ていた。

ふいに頭の上でカウントダウンが始まった。
10.9.8.7....

カウントダウンが0になると同時にバァンと空砲がなり、キグルミたちはワーと叫びながら俺を置いて走り出す。

──走りらなきゃ、走らなきゃ

頭の中で謎の声がする。
俺は混乱しながらも声に従い、アトラクションの先を目指す事にした。
少し前を走っていた青のキグルミが、他のキグルミと争う弾みで坂道から奈落の下の空へ落ちていく。死んだな…。
すると、俺の真横に、落ちたキグルミと同じ色のキグルミがトスンと落ちてきた。
俺は上を見るが、上には雲一つない澄んだ空しかない。
立ち止まり、落ちてきた青のキグルミと目を合わせる俺。
青のキグルミは一瞬止まるが、空から落ちてきた癖に怪我はしていないのか、俺を置いて元気に走り出していった。
何で下に落ちていった奴が、上から降って来たんだ?
ここは夢の中なのか?
俺はますます混乱する。

──走らなきゃ、走らなきゃ
負けたら消えちゃう、居なくなっちゃう

何だか言葉が不穏になり始める頭の中の声。
俺は背中を突き動かされるように走り出した。
坂道を超え、障害物を避け、争うキグルミに割り込み、連中を空へと落としていく。
キグルミたちはまるで人が入っていないかのように器用ではないようで、むんずと掴んでバランスを崩すと面白いように転がっていく。
後ろを見ると、奈落の底へと落としたキグルミたちが、どういう原理からか解らないが、坂道の途中に降ってきていた。

──前に、前に
この順位のままだと消えちゃうよ

まぁ夢だから順位なんて良いんだけれどと思いながらも、俺は再び走り出す。

ガシッと目の前のキグルミを掴んでは投げ、掴んでは投げ、進む。
アトラクションは終盤に差し掛かっただろうか、俺の前を走るキグルミはいなくなっていた。
そして、道は途切れ、ジャンプしないと向こう側にたどり着けない場所へとたどり着いた。
下を見るとやはり地面さえ見えない空だ。
俺は怖じ気づく。
落ちたらどうなってしまうんだろう?
そもそも空から降って来ているのは、落ちたのと同じ人なのだろうか?

ジャンプした向こう岸を進めば、ゴールであろう白黒のモザイク柄の線がある。
俺の横で赤いキグルミがジャンプして、向こう岸にたどり着いた。
このままでは負けてしまう。
そう思った俺は、勢いをつけて向こう岸へとジャンプする。
夢で身体能力が上がっているのか、思ったよりもジャンプは大きく、向こう岸には簡単に届いた。
そのまま走り出すが、前にいる赤いキグルミには届かない。

俺は本能に従い、右手を赤いキグルミへの足元へとかざす。

「モモモ!」

俺が叫ぶと、突如地面に土で出来た出っ張りが出現した。
赤いキグルミは俺の作り出した出っ張りにひっかかり転倒する。
俺は転倒した赤いキグルミをむんずと掴んで後ろにぶん投げると、一番でゴールした。

──かった!かった!
いちばんだ! いちばんマナ貰える!

頭の中の声も喜んでいる。
ふと後ろを見ると、さっきの赤いキグルミが二番目にゴールした。
一番じゃなくても、消えたりしないじゃないかと思いながら、俺は競争の結果が出るのをゴールで待った。
そして、10位が決まる白と緑のキグルミのデッドヒートでそれは起こった。
白のキグルミが先にゴールすると時は止まり、おもちゃのアトラクションは、ゴール出来なかったキグルミたちと光の中へと消えていったのだ。

次の瞬間、目の前に1位と2位と3位の並ぶ表彰台が現れた。
あの赤いキグルミがトコトコと2位の場所に立つ。
俺もキグルミの姿で表彰台の1位の所に立った。これで良いハズだ。
3位は青いキグルミだったハズだが、何故か黒いキグルミが3位の順位台に立つ。
すると空から落雷が落ち、黒いキグルミは消し炭になった。
バタンと倒れる黒いキグルミ。
間違えると殺されるのかよ…、おもちゃとキグルミの世界なのにグロいな。
そして本来の順位通りに青いキグルミが表彰台の3位の位置に立つと、おもちゃのアトラクションとキグルミたちの消えていった光の塊が、表彰台へと吸い込まれていった。

──マナを40手にいれた!
こんなにマナを貰えたの初めて!

興奮する頭の中の声。
俺はというと、もうそろそろこの夢覚めねぇかな、と思っていた。
やがて表彰台は闇に覆われ、俺の意識は薄れていく。
そうして、俺を含めてゴールした9人のキグルミはどちゃっと地面に吐き出された。

俺は再び自分の手を見る。
黄色のキグルミだ。

「モモモ…」

夢から覚めない。
どうなってんだ、これ。

「フェフェフェ。生き残ったかい。次のレースはどうする?」

ふと見上げると、巨大な老婆が立っていた。
俺の身長が170cmくらいだから、老婆の身長は20mくらいあるだろうか?
老婆の装いはいかにも魔女といった出で立ちだ。
俺以外のキグルミは元気に両手を挙げる。
いや、きみたち消えるかもしれないのに、あのレースが怖くないのね。
老婆は手を挙げたキグルミたちをつまんで、近くにあった釜へと放り投げていく。
釜の中ではグツグツ謎の液体が煮え立っている。

あの鍋に入れば流石に夢は覚めるだろう。
たとえ老婆の言うとおりまたレースになるとしても、あのキグルミたち相手なら無双出来るしな。
俺は両手を挙げ老婆にアピールする。
さあ、俺を夢から覚ませてくれ。
そして俺は巨大な老婆につまみ上げられる。

うわ、高い高い!
高所恐怖症ではないが、その高さに恐怖で身がすくむ。
そうして俺は、煮え立つ鍋の中に旅立ったのだった。

俺含むキグルミたちは鍋の中に溶けて混ざりあう。
俺を包むのは一面の青い世界と落下する浮遊感だ。

そして、どちゃっと地面に着地すれば、目の前にはキグルミの集団とおもちゃの国のアトラクションが待っていた。

そして俺は思い出す。
この夢はTouTubeで見たことのあるゲームの世界だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

帝国の第一皇女に転生しましたが3日で誘拐されました

山田うちう
ファンタジー
帝国の皇女に転生するも、生後3日で誘拐されてしまう。 犯人を追ってくれた騎士により命は助かるが、隣国で一人置き去りに。 たまたま通りかかった、隣国の伯爵に拾われ、伯爵家の一人娘ルセルとして育つ。 何不自由なく育ったルセルだが、5歳の時に受けた教会の洗礼式で真名を与えられ、背中に大きな太陽のアザが浮かび上がる。。。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...