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洋梨
しおりを挟む机の傍に立っていた若い刑事の怒号が響く。それを隣に座っている、年季の入った刑事が宥めていた。机の上には電気スタンド。刑事と向き合い、腰縄をつけられた状態で座っているのは顎に無精髭を生やした男だった。
――片方が怒って、片方は宥める。サスペンスドラマのような光景を男はまるで他人事みたいに冷めた目で眺めていた。これは自白させる為の手段だということを、男は前にテレビか何かで見て知っている。
「はい、俺が殺しました」
男はあっさり告白した。やや高く、細い声だった。捕まった時点でもう諦めていたし、何より言い逃れの出来ない証拠を男はすでに取り上げられてしまっている。
刑事二人は動機や経緯をはっきりさせる為に、次々に質問を男へ浴びせた。
男はそれに一つ一つ、淡々と答えていく。
「……はい、そうです。彼女は俺の恋人でした。勿論愛していましたよ、ええ。しかし、俺はちっとも悪いことをしただなんて思っていません。今回のことはすべて彼女が悪いんだ。
彼女とはとあるバーで知り合いました。俺の悩みを親身になって聞いてくれました。……悩み? 家族と不和だったんです。はい、理由は言わなくてもわかるでしょう?
彼女は美人でしたから、そのまま酔った勢いと……人肌、恋しかったのでしょうね。はい、ホテルへ行きました。その後、連絡先を交換して付き合うようになりました。
暫くすると、彼女は俺の部屋で生活するようになりました。最初は幸せな同棲生活だったんですよ。……だけど、時が経つと段々マンネリしてきたのですかね? 明らかに彼女の態度は冷めてきていました。生活リズムも違いましたからね。彼女は普通に昼働いて、俺は夜に働いていましたから。すれ違っていました。
そもそも、きっかけは勢いでの性行為です。互いに寂しかったのでしょう。彼女もあの時、恋人にフラれたばっかりだと言っていました。……ええ、つまりは互いにヤリたかっただけです。長続きする訳がありません。よくあることですね!」
男はハハッと自嘲するように笑った。そして刑事が何か言う前に、すぐに続きを話しはじめた。
「別にそれだけならよかったのですよ。フッツーの恋人たちのように、当たり障りのない別れ方が出来るのなら。……だけど、彼女は絶対にやってはいけないことをした。バカな女です。
浮気、しやがった。いえ、フッツーの浮気ならまだ我慢出来ました。だけど、ああ糞! よりによってあの女、男と浮気しやがった! 元々、マンコは処女じゃなかったんだってよ! 俺に対する侮辱か!?」
男は興奮に任せて、彼女への恨みつらみを吐いた。刑事は刺激しないように黙っている。
はぁはぁと息を荒げて、落ち着いてから男はうなだれた。
「……気がついたら彼女を殴っていました。馬乗りになって、殴っていました。首を絞めました。そうしたら、彼女は動かなくなりました。
それから、彼女の腹を包丁で開きました。大変な作業でした。子宮を取り出して、ビニール袋の中に入れて、それを持って逃げ回っていました。
……子宮を奪った理由? 一番、愛した場所で、一番、憎い場所だったからでしょうか。ただ衝動的にやったことですから自分でもよくわからない。
それで、こうして捕まっちゃった訳ですよ。え? たかが浮気くらいで、ですか? ……刑事さん、言わなくったってわかるでしょう?」
男は泣き出してしまった。エーン、と、女々しい泣き声が取調室に響く。
年季の入った刑事が男の名前を呼んだ。それは男の外見に似つかわしくない名前だった。
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