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アダムとイヴの純愛(4)
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上司が他の連絡事項をいくつか伝えると、朝礼は終わりました。コンピューターの電源を点けて、インカムをすれば仕事がはじまります。
しかし、まったく身に入らず困りました。
コールセンターで働いている社員はほとんどが女性であり、男性といえばあの上司くらいのものです。休憩時間になると、伊藤くんの周りには女子社員が集まりました。売女のように媚びる女たちと、それに曖昧に笑い返している伊藤くん。私はそんな様子を自分のデスクから、遠目に眺めていました。
メリーゴーランドの恋の人を詳細に思い出そうと、頭を働かせます。何とか浮かんだ姿に伊藤くんを重ねると、やはりぴったり合いました。ついで、思い出したくなかったあの悪夢までありありと浮かんできます。
伊藤くん。あなたは美しいから、さぞかし女の子にチヤホヤされるでしょう。ほら、女子社員が弾んだ調子で「前はどこで働いてたの?」と、次々に質問を浴びせては「まじイケメンー」と、安っぽい俗語で褒めてきます。
伊藤くんは変わらず、言葉を濁しながらただ笑っているだけでした。……私も出来ることなら、メリーゴーランドの恋について質問がしたいです。お知り合いになりたいです。
しかし、勇気がわきません。あの女子社員の集団にまじるのが嫌というのもありましたが、何より伊藤くんのことを知るのが怖いのです。
だって裏切られるかもしれないから。ふと、仲良しだったあのみつあみの友人を連想しました。そう、伊藤くんも彼女と同じくかんたんに売女たちの誘惑に堕ちるのでは……いえ、純潔な王子様なのは外見だけで、実は悪しきペニスに支配された醜い男たちと変わらないのでは……伊藤くんがペニスの化け物になった夢は何かの悪いお告げではないかしら? と、不安が絶えないのです。
故に私はこのドラマチックな偶然に、心の底から喜べないのでした。もしも裏切られたら、その時のショックは計りしれません。
休憩時間が終わりました。女子社員たちはさっと伊藤くんから離れ、デスクに戻ります。仕事が再開されました。
お昼休みになると伊藤くんはまっさきにどこかへいってしまって、様子を見ることが出来ませんでした。私はいつも通り、一人オフィスで昼食を済ませます。
それから少しぼうっとしていれば、やがて社員たちが戻ってきてお昼休みは終わります。伊藤くんは仕事がはじまるぎりぎりに、謝りながら戻ってきました。
午後の仕事中、私は珍しくインカムを使わずに、上司から頼まれた雑用をかたづけていました。渡された段ボール箱をカッターで開き、中から取扱商品の案内や広告の掲載された印刷物を取り出して、それらをホチキスでとめて小冊子を作っていきます。
その作業中、ちらちら伊藤くんを盗み見しました。電話を取っている時は余裕がない為に、仕事をしている伊藤くんを見られなかったのです。
伊藤くんは真面目に業務をこなして、わからないところは素直に聞いているようでした。ああ、やっぱり見ているだけでも素敵な人……この恋、壊さないように大切にしなければ。
あなたは私の寂しい日常生活に、運ばれてきた小さな幸せ。
定時後。帰っていく女子社員たちに適当な別れの挨拶をして、伊藤くんの背中も見送ったあと、デスクの上を整理してからタイムカードを押してオフィスから出ます。
エレベーターに乗り、一階に降りて傘立てを見た瞬間、私は思わず嘆声を上げてしまいました。
「ええっ……」
私のコウモリ傘が見当たらないのです。似たような形をしている傘が一本ありましたが、それは黒に近い深緑色の傘で、私の真っ黒な傘とは違うものでした。他はどこを探しても見つかりません。非常識な誰かが持っていってしまったのでしょうか? 外では雨が大降りになっています。
……今日はついているのか、ついていないのかわかりません。暫く待ってみましたが雨は止みそうになく、諦めてビルから出るとコンビニまで濡れながら走って、ビニール傘を買いました。
翌朝は晴天でした。いつも通り出勤して、デスクにつきます。少しすれば社員たちが増えてきて、伊藤くんも出勤してきました。まだ時間に余裕があるのに、伊藤くんは何やら慌てている様子でした。
そして、社員一人一人に何かを尋ね回っています。その尋ねている内容までは察せず、私は伊藤くんを目で追いかけながら首を傾げました。
女子社員が伊藤くんに対して頭を左右に振っています。すると伊藤くんは段々、こちらへ近寄ってきて――あら、伊藤くんが目の前に。
「あの、いいですか?」
え、私に話しかけているのですか?
「は、はいっ、何でしょう!?」
しまった! どもってしまいました。その上、妙に声が大きいです。変な子だと思われたらどうしましょう……。
「昨日、傘をなくしませんでしたか?」
しかし伊藤くんは気にした風もなく、ほっとしました。
「はい、なくしました」
「真っ黒なコウモリ傘ですか?」
「はい、そうです」
「ああ! すみません!」
突然、伊藤くんは声を張り上げて頭を下げました。私は何が何だかわからなくて、戸惑ってしまいました。
「あの……?」
「昨日、間違って僕が持ち帰ってしまいました。僕のと形が似てて、家に帰ってから色が違うことに気がついて、大変なご迷惑を……本当にすみませんでした」
「えっ」
あれは、伊藤くんが犯人だったのですか?
「そんな……気にしないでください」
わざとではなく過失ですし、ちゃんと名乗り出てくれたのです。責める気はありません。それも、相手は伊藤くん。
「傘は、傘立てに戻しておきました。えっと、お名前は?」
「は、林田まゆみです」
「林田さん。これ、お詫びに」
伊藤くんは通勤鞄から若草色の包装紙に包まれた箱を取り出して、私に差し出しました。受け取ると、質のいい包装紙のさらさらとした手触り。
「これは?」
「クッキーです。それでは、あとで傘立て確認しておいてください」
「あっ……」
伊藤くんはもう一度、頭を下げるとそのままデスクへとつきました。そして、仕事はすぐにはじまってしまいます。
お昼休みに傘立てを見にいきました。まばらに傘が置いてある中、真っ黒なコウモリ傘が一本ありました。これは確かに私の傘です。昨日見かけた深緑色の傘もそこにありました。もしかして伊藤くんの傘でしょうか。
急におかしくなって、私は一人で笑い出してしまいました。だって伊藤くんたら、このビルには私たちのオフィスだけではなく、色んなオフィスが入っているのですよ? 全部聞いて回るつもりだったのでしょうか。真っ黒なコウモリ傘、という曖昧な情報だけで。
やはり私はついているようです。文句を言って、ごめんなさい神様。
伊藤くんは私の理想に違(たが)わない、ステキな男性なのかしら? 今まで孤独に頑張ってきた私へ神様がようやく与えてくれた王子様? 仕事を終えてアパートに帰ってくると、私はクッキーを永久保存でもしようかと思いましたが、腐らせてしまったらその方がショックだと思い直し、惜しみつつ食べました。
何の変哲もなかったコウモリ傘が、宝物になりました。
しかし伊藤くんとはそれから特に親しくなれる訳でもなく、私は変わらず伊藤くんを目で追いかけているだけの毎日を過ごしてしまいました。
いただいたクッキーの味の感想でも伊藤くんに述べて、おしゃべりのきっかけを得ればよかったのでしょうけれど、臆病な私はそれさえ出来なかったのです。伊藤くんからもう一度、話しかけてきてくれれば楽なのに。
……日にちが経つにつれ、伊藤くんは私の視界にあまりいてくれなくなりました。休憩時間になると、伊藤くんはさっと消えてしまうからです。そして、休憩時間が終わるぎりぎりに戻ってくるのでした。残念です。
仕事から帰ると、私はよくあのコウモリ傘に謝りました。せっかく伊藤くんと仲良くなれるかもしれない好機をこの子は運んできてくれたのに私ったら! 意気地なし!
どうしても不安は拭えません。もしかしたら伊藤くんに会えるかしらと思って、レンタルDVD屋さんへ仕事帰りや、休日にいきました。でも純愛映画のコーナーで、伊藤くんらしき人を見かけることはもうありませんでした。するとまた、あの時に見かけたあの人は伊藤くんではないのかしら? と、疑念が蘇ります。その度、私はバカバカと自分に言います。
確かに、あの人が伊藤くんだったらロマンチックで素敵です。でも、それを抜きにしても伊藤くんは充分素敵です。……容姿と、傘事件の時の不器用な優しさしか知りませんけれど。ああ、それを言ったらあの人なんて容姿しか知りません。
店内の奥にある、娼婦が微笑みを浮かべている紙で出来たいかがわしいのれんから伊藤くん、またはあの人が出てきたらどうしましょう。頭が混乱してきました。
映画を見る気にもなれず、何も借りないままお店から飛び出します。私はそんな愚かな行為を繰り返していました。
知りませんでした。現実での恋は、こんなに苦しいものだったなんて。
今日、伊藤くんはお休みです。恐ろしく退屈な日です。
お客様の理不尽なクレームを受けていたら、お昼休みが少し遅れてしまいました。人の少なくなったオフィスで、コンビニのナポリタンをバッグから出そうとしましたが、ふいにお手洗いへいきたくなってしまいました。
デスクを立って、廊下に出ます。お手洗いへ小走りに向かいました。個室に入り鍵を閉めて、用を足している間にクレームの内容を思い出しては苛々しました。
梱包用の段ボールに小さな穴があいていたそうです。それは私たち電話受付には関係のない話であり、工場の作業員か配達員のミスです。なのに、ながながと責められました。
――頭ではわかっています。こんなことは社会の日常茶飯事で、文句を言ってはいけないのだと。
ただ、感情は理屈についてきてくれません。困りました。トイレットペーパーを流すと立ち上がり、下着ごとタイツを戻します。スカートを直して、出ようと鍵に手をかけたところで数人の足音と甲高い笑い声が聞こえてきました。
しかし、まったく身に入らず困りました。
コールセンターで働いている社員はほとんどが女性であり、男性といえばあの上司くらいのものです。休憩時間になると、伊藤くんの周りには女子社員が集まりました。売女のように媚びる女たちと、それに曖昧に笑い返している伊藤くん。私はそんな様子を自分のデスクから、遠目に眺めていました。
メリーゴーランドの恋の人を詳細に思い出そうと、頭を働かせます。何とか浮かんだ姿に伊藤くんを重ねると、やはりぴったり合いました。ついで、思い出したくなかったあの悪夢までありありと浮かんできます。
伊藤くん。あなたは美しいから、さぞかし女の子にチヤホヤされるでしょう。ほら、女子社員が弾んだ調子で「前はどこで働いてたの?」と、次々に質問を浴びせては「まじイケメンー」と、安っぽい俗語で褒めてきます。
伊藤くんは変わらず、言葉を濁しながらただ笑っているだけでした。……私も出来ることなら、メリーゴーランドの恋について質問がしたいです。お知り合いになりたいです。
しかし、勇気がわきません。あの女子社員の集団にまじるのが嫌というのもありましたが、何より伊藤くんのことを知るのが怖いのです。
だって裏切られるかもしれないから。ふと、仲良しだったあのみつあみの友人を連想しました。そう、伊藤くんも彼女と同じくかんたんに売女たちの誘惑に堕ちるのでは……いえ、純潔な王子様なのは外見だけで、実は悪しきペニスに支配された醜い男たちと変わらないのでは……伊藤くんがペニスの化け物になった夢は何かの悪いお告げではないかしら? と、不安が絶えないのです。
故に私はこのドラマチックな偶然に、心の底から喜べないのでした。もしも裏切られたら、その時のショックは計りしれません。
休憩時間が終わりました。女子社員たちはさっと伊藤くんから離れ、デスクに戻ります。仕事が再開されました。
お昼休みになると伊藤くんはまっさきにどこかへいってしまって、様子を見ることが出来ませんでした。私はいつも通り、一人オフィスで昼食を済ませます。
それから少しぼうっとしていれば、やがて社員たちが戻ってきてお昼休みは終わります。伊藤くんは仕事がはじまるぎりぎりに、謝りながら戻ってきました。
午後の仕事中、私は珍しくインカムを使わずに、上司から頼まれた雑用をかたづけていました。渡された段ボール箱をカッターで開き、中から取扱商品の案内や広告の掲載された印刷物を取り出して、それらをホチキスでとめて小冊子を作っていきます。
その作業中、ちらちら伊藤くんを盗み見しました。電話を取っている時は余裕がない為に、仕事をしている伊藤くんを見られなかったのです。
伊藤くんは真面目に業務をこなして、わからないところは素直に聞いているようでした。ああ、やっぱり見ているだけでも素敵な人……この恋、壊さないように大切にしなければ。
あなたは私の寂しい日常生活に、運ばれてきた小さな幸せ。
定時後。帰っていく女子社員たちに適当な別れの挨拶をして、伊藤くんの背中も見送ったあと、デスクの上を整理してからタイムカードを押してオフィスから出ます。
エレベーターに乗り、一階に降りて傘立てを見た瞬間、私は思わず嘆声を上げてしまいました。
「ええっ……」
私のコウモリ傘が見当たらないのです。似たような形をしている傘が一本ありましたが、それは黒に近い深緑色の傘で、私の真っ黒な傘とは違うものでした。他はどこを探しても見つかりません。非常識な誰かが持っていってしまったのでしょうか? 外では雨が大降りになっています。
……今日はついているのか、ついていないのかわかりません。暫く待ってみましたが雨は止みそうになく、諦めてビルから出るとコンビニまで濡れながら走って、ビニール傘を買いました。
翌朝は晴天でした。いつも通り出勤して、デスクにつきます。少しすれば社員たちが増えてきて、伊藤くんも出勤してきました。まだ時間に余裕があるのに、伊藤くんは何やら慌てている様子でした。
そして、社員一人一人に何かを尋ね回っています。その尋ねている内容までは察せず、私は伊藤くんを目で追いかけながら首を傾げました。
女子社員が伊藤くんに対して頭を左右に振っています。すると伊藤くんは段々、こちらへ近寄ってきて――あら、伊藤くんが目の前に。
「あの、いいですか?」
え、私に話しかけているのですか?
「は、はいっ、何でしょう!?」
しまった! どもってしまいました。その上、妙に声が大きいです。変な子だと思われたらどうしましょう……。
「昨日、傘をなくしませんでしたか?」
しかし伊藤くんは気にした風もなく、ほっとしました。
「はい、なくしました」
「真っ黒なコウモリ傘ですか?」
「はい、そうです」
「ああ! すみません!」
突然、伊藤くんは声を張り上げて頭を下げました。私は何が何だかわからなくて、戸惑ってしまいました。
「あの……?」
「昨日、間違って僕が持ち帰ってしまいました。僕のと形が似てて、家に帰ってから色が違うことに気がついて、大変なご迷惑を……本当にすみませんでした」
「えっ」
あれは、伊藤くんが犯人だったのですか?
「そんな……気にしないでください」
わざとではなく過失ですし、ちゃんと名乗り出てくれたのです。責める気はありません。それも、相手は伊藤くん。
「傘は、傘立てに戻しておきました。えっと、お名前は?」
「は、林田まゆみです」
「林田さん。これ、お詫びに」
伊藤くんは通勤鞄から若草色の包装紙に包まれた箱を取り出して、私に差し出しました。受け取ると、質のいい包装紙のさらさらとした手触り。
「これは?」
「クッキーです。それでは、あとで傘立て確認しておいてください」
「あっ……」
伊藤くんはもう一度、頭を下げるとそのままデスクへとつきました。そして、仕事はすぐにはじまってしまいます。
お昼休みに傘立てを見にいきました。まばらに傘が置いてある中、真っ黒なコウモリ傘が一本ありました。これは確かに私の傘です。昨日見かけた深緑色の傘もそこにありました。もしかして伊藤くんの傘でしょうか。
急におかしくなって、私は一人で笑い出してしまいました。だって伊藤くんたら、このビルには私たちのオフィスだけではなく、色んなオフィスが入っているのですよ? 全部聞いて回るつもりだったのでしょうか。真っ黒なコウモリ傘、という曖昧な情報だけで。
やはり私はついているようです。文句を言って、ごめんなさい神様。
伊藤くんは私の理想に違(たが)わない、ステキな男性なのかしら? 今まで孤独に頑張ってきた私へ神様がようやく与えてくれた王子様? 仕事を終えてアパートに帰ってくると、私はクッキーを永久保存でもしようかと思いましたが、腐らせてしまったらその方がショックだと思い直し、惜しみつつ食べました。
何の変哲もなかったコウモリ傘が、宝物になりました。
しかし伊藤くんとはそれから特に親しくなれる訳でもなく、私は変わらず伊藤くんを目で追いかけているだけの毎日を過ごしてしまいました。
いただいたクッキーの味の感想でも伊藤くんに述べて、おしゃべりのきっかけを得ればよかったのでしょうけれど、臆病な私はそれさえ出来なかったのです。伊藤くんからもう一度、話しかけてきてくれれば楽なのに。
……日にちが経つにつれ、伊藤くんは私の視界にあまりいてくれなくなりました。休憩時間になると、伊藤くんはさっと消えてしまうからです。そして、休憩時間が終わるぎりぎりに戻ってくるのでした。残念です。
仕事から帰ると、私はよくあのコウモリ傘に謝りました。せっかく伊藤くんと仲良くなれるかもしれない好機をこの子は運んできてくれたのに私ったら! 意気地なし!
どうしても不安は拭えません。もしかしたら伊藤くんに会えるかしらと思って、レンタルDVD屋さんへ仕事帰りや、休日にいきました。でも純愛映画のコーナーで、伊藤くんらしき人を見かけることはもうありませんでした。するとまた、あの時に見かけたあの人は伊藤くんではないのかしら? と、疑念が蘇ります。その度、私はバカバカと自分に言います。
確かに、あの人が伊藤くんだったらロマンチックで素敵です。でも、それを抜きにしても伊藤くんは充分素敵です。……容姿と、傘事件の時の不器用な優しさしか知りませんけれど。ああ、それを言ったらあの人なんて容姿しか知りません。
店内の奥にある、娼婦が微笑みを浮かべている紙で出来たいかがわしいのれんから伊藤くん、またはあの人が出てきたらどうしましょう。頭が混乱してきました。
映画を見る気にもなれず、何も借りないままお店から飛び出します。私はそんな愚かな行為を繰り返していました。
知りませんでした。現実での恋は、こんなに苦しいものだったなんて。
今日、伊藤くんはお休みです。恐ろしく退屈な日です。
お客様の理不尽なクレームを受けていたら、お昼休みが少し遅れてしまいました。人の少なくなったオフィスで、コンビニのナポリタンをバッグから出そうとしましたが、ふいにお手洗いへいきたくなってしまいました。
デスクを立って、廊下に出ます。お手洗いへ小走りに向かいました。個室に入り鍵を閉めて、用を足している間にクレームの内容を思い出しては苛々しました。
梱包用の段ボールに小さな穴があいていたそうです。それは私たち電話受付には関係のない話であり、工場の作業員か配達員のミスです。なのに、ながながと責められました。
――頭ではわかっています。こんなことは社会の日常茶飯事で、文句を言ってはいけないのだと。
ただ、感情は理屈についてきてくれません。困りました。トイレットペーパーを流すと立ち上がり、下着ごとタイツを戻します。スカートを直して、出ようと鍵に手をかけたところで数人の足音と甲高い笑い声が聞こえてきました。
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