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咎の園 外伝・番外
余暇
しおりを挟む『はぁっ、ん……ああっ、も、うダメです、いきますっ……』
「これお客さまにはご満足いただけたようですが、演技が大げさすぎて我ながら恥ずかしいです。やめてください」
下から旦那さまの笑い声がからからと響いた。旦那さまの体に跨がって、腰を揺らしながら居た堪れない思いでテレビの中、客に抱かれて乱れている自分を横目に見ている。
「いいじゃないか。面白いし、艶っぽい声を聞きながらなら、より高まる」
「滑稽で、俺は萎えそうです」
ベッドサイドのリモコンを旦那さまが取ってくれそうな気配はない。あきらめて、すでに何回か肛悦に達して熱い肉壁がまた快楽を得れるように動く。もちろん旦那さまも心地よくなれるように気をつけながら。
『ああっ……!』
「んっ……」
やがて、旦那さまに巧みに腰を使ってもらった瞬間、軽く達した。後ろが熟してから知った、軽くという感覚(鞭打ちでも同じような状態になることがあるが)。反り返っている陰茎の先からとろりとカウパーが垂れる。
気怠い吐息のみが漏れるのに対し、テレビの中の四つん這いで抱かれている自分はわざとらしい悲鳴をあげている。映像の陰茎は萎えているし、本気で達する時は悲鳴というより絶叫だ。この対比が面白いのだろうか。
それから、もうあまり量のない旦那さまの精水を肉壁で受ける。なんとなく自身の下腹を撫でて、旦那さまの体からおりるとベッドに寝転がった。陰茎の挿入で気を遣れるのは旦那さまと、ごく一部のうまくて馴れた客だけだ。
隣の旦那さまが俺の股ぐらへティッシュを数枚取ってから手を伸ばし、栓を抜いた穴へ指を捩じ込んでくる。
「あ、ありがとうございます」
「いいのか? 可愛い女の子放っておいて、私みたいな年寄りとこんなにゆっくりしてて」
「ああ、伊織はまだ寝ていると思いますよっ……」
水音を立てつつ精水を掻き出した、淫らに濡れた指が肛門周りを撫でる感触。まだ熱い後ろを巧みに弄られて息が震えた。……もしも旦那さまの部屋まで捜しに来たとしても、命令で抱かれていたと言えばいい。やはり外界の乙女は繊細かつ複雑であり、彼女のことは好きだけれど正直、旦那さまと一緒に居るほうがほっとする。
「恋愛って難しいですねえ……」
「まあな。でも恋に苦悩するようになってから、お前の色気は増したよ」
「そう、ですか? 彼女を参考にすることはありますけど」
「ロマンに欠けた答えをするんじゃないよ」
精水の染みたティッシュを捨てて、旦那さまがリモコンを操作する。達したフリをしたところで映像は終わっていた。
「煙草、一本ください」
次はなんの映像を流そうかと悩む様子を見せつつ、旦那さまがピースの箱を寄越してくれた。くわえてターボライターで火を点けてから、脇に置いてあった読みかけの文庫本を手に取る。雪豹に変貌した女主人に喰われる幻想を使用人である主人公の男が見るシーン。
余暇。窓から昼の陽が射しはじめている。互いに気ままに過ごし、催したら番(つが)っていた。さすがに旦那さまのものはもう立たないだろう。時間が緩やかに流れていく。
自分の卑猥な声や音が聞こえても気にせず本を読んでいたが、旦那さまから声をかけられると視線を文字列からはずした。
「この男の子、かわいいね」
「ああ、その子まだ後ろが硬くて苦労しました。まあまあ楽しくはあったのですが、やはり俺は優しいおじさまに抱かれているほうがいちばん楽です」
テレビ画面には俺とまだ幼い少年の奴隷がベッドの上で恋人同士のようにいちゃついている様子が映されていた。無論、客の命令でいちゃついている。少年は俺と指を絡めて笑ってはいるが、よく見たら強張った笑顔だった。
「若い男色の男の子だと父性を求めるのか、年配の男を好む子が多いような気がするけれど、一応その気のないお前でもそうなのか?」
「……天使の家で職員たちから甘やかされて育った記憶のせいでしょう。あと、楽しい、ではなく、楽、です」
念のため付言する。俺が男役で少年との交接のシーンに入ってから、目を本の紙面に戻した。旦那さまにここまで懐いているのは、自分に親というものがいないのもあるのだろうかと思いつつ。
あと、巧みに与えられている飴。考えていると、苦笑が浮かびそうになる。読書に集中できそうにない。
「そろそろ昼食でも運ばせようか。ワインも飲むかい?」
「仕事を控えているので、一杯だけにしておきます」
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