咎の園

山本ハイジ

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恋の罪(14)

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「普通にヤるときは不利になる早漏が、今じゃ有利だなあ」
 などと会話しながら、男たちはクッキーに向けている陰茎を扱いていた。クッキーゲームに興じているのだ。放出するのがビリだった者は罰として、ほかの参加者の精水で濡れたクッキーを食べなければならないというルール。別段、興味もなにもわかない光景だ。客と歓談するのに集中する。
 話題は大半が俺の引退について。なかには引退式を楽しみにしていると平気な顔で言う客がおり、それには苦笑にならないよう気をつけた笑顔で返す。神経どうにかしているんじゃないのかと疑いたくなるであろうその発言はここなら悪意からくるものではない、むしろ好意だ。……決着がついたらしく舞台のほうから歓声と嘆声、それと同時に近くからなにかが倒れる音が響いた。体内でカクテルを作り、供していた奴隷の少年がテーブルから転げ落ちている。
 腸壁から吸収したアルコールで酔い潰れてしまったのだろう。使用人が慌てて駆けつけ、客たちは失笑している。再び、なんとなく目を前座に遣ると、精水クッキーを噎せながら食べている客はこの騒ぎであまり注目されていない。
 色々と片づき、落ち着いてから、舞台にあがり観客たちに一礼して、置かれた椅子にパニエをまくって座る。
「まず、伊織は楽園の奴隷になるにあたっての準備をはじめました。自傷癖のある彼女に刃物は渡せそうになかったので、今までは使用人の手で処理していた体毛をリンボの手術室で生えないようにします。彼女にはあったほうが魅力的だと判断されたのか、陰毛は残される様子でした。
 ところで、脱毛という事柄からある連想をして私は心配になり、旦那さまにこっそり頼みました。独特の美醜観念を持っているお客さまを伊織につけないでくださいと。長く愛するという約束のもと奴隷の頭を剃ったり、肥えさせたり、極端に痩せさせたりする方がいらっしゃいますね。すると、旦那さまは――もちろん、あれは私の娘であるのと同時に、お前にプレゼントした娘だもの。と、うなずいてくれます。
 地道に電気針で処置しつづけ、そのうち彼女の体は陰毛がこんもりと繁っているだけになりました。これで剃り跡のない、綺麗な肌です。腋の黒ずみはうぶな感じがして、私的には気に入っていましたが。……しかし、準備万全にしても、伊織の人気は今一つでした。
 旦那さまの娘という名目がありつつも、やはり彼女の清純さは外界では受けてもエデンでは受けないようです。まず、彼女はお客さま一人一人のお相手をするよりも、宣伝のため広間の舞台で多々見世物にされました。ここでの人気だなんて欲しくないでしょうが、逆らえません。
 いつだったかお客さまに一緒に見ようと誘われて、見世物の彼女を直接観賞できました。ファンシーなキャラクターがプリントされた、空気を入れてふくらます子供用プールが舞台に置いてあります。プールからは暗紅色の触手がはみ出ていて、それは水滴を垂らしながら蠢いていました。
 使用人が全裸の伊織をプールのそばへ連れてきます。彼女は表情を硬くして、観客たちには目もくれず、ただプールを凝視していました。突き飛ばされた瞬間、彼女の表情は崩れました。悲鳴をあげ、暴れる彼女の白い体にタコは触手を絡ませ、吸盤で吸いつき、墨を吐きかけます。プールの中で、演技ではない発狂を見せてくれました。お客さまたちはそんな彼女を指差し、笑っていました。
 そして当然、私も彼女と一緒に見世物に供されることが多くなりました。兄妹の交わりは愛情込めた前戯をしあったあと、観客の指示に従った体位で精力が尽きるまで。ほかは十分マッサージした後ろ、彼女は後ろのときもありましたが女陰を、互いに一人の使用人の手首で犯されることもありました。私は慣れたものですが、彼女は本気でつらそうで、あとでよく体調を悪くしていました。
 一緒に浣腸されて、我慢対決を催されたり。……排泄物をどうしたか、詳細はご想像に任せます。ほか、舞台の上で彼女に攻撃されたり、私が攻撃したりもしました。舞台だけでなく、踊り場のポールに二人してつながれて、通りすがる方々の好奇の的にもなりました。
 私たちは余暇に互いを慰めあい、いたわりあいます。凌辱されているところや、とくに汚いところ。彼女は私に見られたくないでしょうから、慣れぬうちは相当ショックを受けている様子でした。が、なんでも見せあい、汚穢でさえ交換しあい、凄絶な責めを二人で受ければ受けるほど逆に絆は強くなります。たぶん、哀れな私たちの仲は外界の普通の恋人たちより深かった……。
 しかし、あんまりにもいたわられるとしらけてしまうこともありました。たとえば鞭。咎められるから気遣うなと言ってある彼女の鞭さばきで心地よくなったあと、謝られ、あざをさすられれば脳内に満ちていた性的妄想が霧散してしまいます。そもそも、彼女は私に変わった趣味はないと思っているはずですから、鞭で気を遣らぬよう我慢しなければなりません。なら、彼女を鞭打つほうが快感でした。
 誤解しないでください、私の性癖が変化したわけではありません。長いエデン勤めで訓練されて、遊戯の攻撃役を難なくこなせるようにはなりましたが、私に加虐的な趣味はありません。舞台で暴力的な兄を演じながら、私は自分の役よりも傷つけている妹のほうに感情移入していました。それから、本来は守るべき恋人に苦鳴をあげさせている罪悪を部屋のベッドで頭をさげて謝罪します。そのまま、見世物の最中に覚えていたたかぶりを思いっきり彼女を抱くことで解消しました。そっと、羨ましげに……彼女は慰めに感じたでしょうが……あざを舐めて。本当は性交よりも、彼女に鞭で断罪してもらったほうがいいんでしょうがね。
 やがて見世物の甲斐あってか、伊織は少しずつご指名をいただけるようになりました。映像で観賞できたぶん、一部をご紹介したいと思います。
 大浴場の洗い場で、伊織とつやつやの長髪を一つに束ねた男性のお客さまが当たり前ですが裸でいました。お客さまは彼女の背後で、彼女の髪に触れながら――兄妹そろって、染めたり脱色したりしていない、綺麗な黒髪だ。と、うっとりしています。そして――もっと綺麗にしてあげよう。ここに置いてあるものより、いいシャンプーとトリートメントを持ってきてある。と、彼女の髪をシャワーですすぎ、お客さまは持参のものらしいいかにも高級そうなボトルに入ったシャンプーを泡立てはじめました。
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