咎の園

山本ハイジ

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人工楽園にて(17)

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 陰茎に触って欲しくなりましたが、お客さまはそこにいっさい手をつけません。だいぶ長いこと中を愛してもらいましたが、とくに進展しませんでした。お客さまは――大丈夫。君ならそう時間はかからないよ、と指を抜き、ご自身は陰茎を露出することなく部屋を出ていきます。それから毎日、私の後ろに指や色々な道具を挿入なさいました。少しずつですが後ろを弄られていると、なんの刺激も受けていないはずの陰茎が痺れているように感じたり、肌を撫でられただけでぞわりとした感覚が下半身に広がったりするようになりました。
 そして、肛門快楽に目覚めた日。もどかしい快感が、その日はジワジワと高まっていくのがわかりました。尻の中が脈打っているように感じられ、心臓が異常に振動しはじめます。そのまま快感のある一線を越えた瞬間、私は無意識に絶叫をあげていました。下半身が電撃を流されたみたいに痙攣し、陰茎は半立ちでカウパーしか漏らしていないのに十分すぎるほどの肉体的快楽があります。むしろ射精しないぶん快楽は萎むことがなく、お客さまの指の動きがとまるまで、私はスケベな想像に使っていた女体化した自分と一体化している気分で喘ぎ、シーツを乱しながら何回も達しました。
 しばらくしてから、お客さまは息も切れ切れの私に――これからは、手淫も性交も百倍楽しくなる。と、大変満足気に微笑みました。手淫するとき後ろに使う道具は指やエネマグラのほかに、綿棒やマドラーが手軽にドライオーガズムを得られるからおすすめだとアドバイスを残し、お客さまは私のもとを去っていきます。奴隷なのに、奉仕を受けてしまったような気分でした。ふと――快楽を感じられる箇所は、広げたほうが人生楽しいですよ。という、戸渡さんの言葉を思い出しました。
 奴隷の女の子が、神様のおかげで膣のよさがわかったと言ってましたっけ。このように、お客さまは未開花の体を開花させてあげるのが趣味のようで、まさに奴隷からしたら神様のような素晴らしい方なのでした。
 ……だいぶ省略してしまいましたが、こんなふうにお客さまを歓待しながら奴隷生活を送りました。階段のポールにボンデージされて放置されたり、催しがあるときは舞台の上で過激なことをしたりされたりと重労働だったり、ヘマをしてお客さまに嫌われてしまったり、楽ではありません。でも、お客さまと快楽の趣味が合ったり、気に入ってもらえれば遊びに連れていってもらったり……ドバイ旅行しました……と、楽しいこともありました。奴隷と言えど、うまく立ち廻れば結構いい生活ができます。
 慣れてしまえば天使の家の生活とさほど変わらない、いえ、家ほど単調でもなくまだ楽しみがありました。……しかし、年月が経つと慣れすぎてしまいました。
 奴隷のクセに、とお叱りの声が飛んできそうですが……だんだん、慰安してくれる少女たちや鞭打ちに爆発的な喜びを感じなくなってきたのです。つまり、飽きてしまいました。私は元々快楽主義の性質があったのか、自分の快楽が薄れてしまった途端、最初のうちは緊張しつつ丁寧にやっていた仕事もなんだか流れ作業のように感じて、振るわなくなってしまいました。想像力も落ちて、小さな快楽があっても妄想で倍加することができません。
 刺激を求めて、仕事でもないのにリンボにおりてみたりしました。どことなく見覚えがあるようなないような奴隷たち……両脚を切り落とされた例の彼女は、いつの間にかいなくなっていました……を見ても、ドキドキはしますが前ほどではありません。これなら、怖がらないで遊んでおけばよかったと後悔しました。ふと、手ひどく裏切られ、両脚をなくした例の彼女を抱いて、その悲惨さをもっと生々しく感じてみればよかったとも。
 ……涸れている私に気づいてくださったのか、私が十八になる月に旦那さまがあるプレゼントをしてくださいました。ところで、私は長いこと恋をしていません。小夜子に対する恋心はとうに忘れ、悲しみで夜眠れないなどということも気づいたらなくなっていました。奴隷の少女たちは慰安してくれるとき以外はお客さまのお相手で忙しく、そこまで関わることがないのと、性的に奔放すぎる少女たちに恋心まで抱くことはありませんでした。……旦那さまはそんな私に恋をプレゼントしてくださったのです。そしてその恋は、私の引退のきっかけになりました。次回から、このプレゼントについて語ります」

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