咎の園

山本ハイジ

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人工楽園にて(7)

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 化粧がおわると、使用人はコンパクトの鏡を見せてくれます。驚くほど妖美になった自分の顔がそこにありました。使用人は次にレースを広げます。それはガウンでした。明らかに女性用の形をしたショーツが、たたまれていたガウンに挟まっていました。とても正装とは呼べないようなものでしたが、私は使用人に言われるがままシャツとズボン、下着を脱いで着がえました。なんてことはない、いつもと同じ大好きな嫌らしい格好です。
 そのまま部屋を出て、ここ、広間の前で待っていた旦那さまのもとに私は引き渡されました。広間に入るとガウンか裸の男性と、ランジェリーかドレス姿の女性たちは食事していた手をとめて、いっせいに私へ視線を向けました。旦那さまはよく通る声で――私の息子、影次です。みなさま、存分にお楽しみください。と礼をしたあと――ほら、挨拶しにいきなさい。と、私の背中を押します。旦那さまはついてきてくれません。
 私は緊張しつつ、お客さまの集まりの一つ一つ、または一人一人を廻りました。みなさま微笑みながら私のことをかわいいだの綺麗だのともてはやしてくれます。緊張はすぐにとけました。……脚や尻を撫でられたり、下品な質問をされたりと、こういう道楽者の方には天使の家の職員たちで慣れていましたから。もしもまじめなつまらないパーティーだったら、私はもっとがちがちだったでしょう。誘われれば抵抗なくお客さまの膝に座り、腿を触らせながらごちそうを食べました。すんなり馴染んだ私を見て、お客さまたちは驚いた様子でした。
 ところで、お客さまたちのなかに目立つ方がいました。男の子を連れている、栗色に染めた長い髪を頭頂部でまとめた女性です。目立つ理由は子連れだからというだけではなく、とても美人だったから。迫力のある目元は情熱的、でも小さく形よい唇には気品があります。コルセットで腰を締めて、豊満な胸を際立たせていました。そんな妖艶な肉体をさらに強調するように、細身のドレスを肌に密着させています。……ほかのお客さまは一応、名を伏せて語るつもりですが彼女は特別です。笹沼夫人、この初対面のときは二十代だと思っていましたが、当時三十代の笹沼京子さまです。エデンでの豪遊振りは有名でしたから、ご存じの方も多いのではないでしょうか。笹沼夫人とはとても仲良しでした。夫人はきっと、この催しで語られることを喜ぶでしょうから……。
 挨拶すると、夫人はにっこり笑って応えてくれました。夫人が連れの男の子へ私に返事をするように注意すると、上品なブレザー姿の、しかしどこか粗野な少年はそっけなく頭をさげました。しばし歓談します。少年は私と同じ年で、夫人の息子だということを知り、びっくりしました。学校の授業参観で見たクラスメイトのお母さまたちは、みんなおばさんという形容がぴったりでしたから私はこの二人を親子だとは思っていなかったのです。夫人は――まあ、お上手だこと。と、少女のような可憐な声でクスクス笑いました。
 私が別のお客さまのもとへ挨拶しにいく直前、夫人は――外から来た子でこんなに退廃している子はめずらしいわ、素晴らしい。と、言いました。ひとり言だと思って気にしませんでした。それから十分お客さまたちと嫌らしく戯れたあと、まだパーティーはつづく様子なのに、私は部屋に案内してくれたあの使用人の手で広間から出されてしまいました。――旦那さまのご命令です、と。部屋へ戻る途中、広間のほうからお客さまたちのざわめきと、旦那さまが大声でなにか言っているのが聞こえてきました。
 部屋のベッドの柵に、手枷と足枷の鎖がとめてありました。使用人は私の体を軽々と抱きあげベッドに押さえつけて、たやすく私の行動の自由を奪ってしまいます。突然のことに恐慌を起こし、わめく私を尻目に使用人は部屋を出ていってしまいます。……手枷の鎖を無駄とわかりながら鳴らしつつ、あまりの不安から私は恐ろしい空想をしました。小さなころ、年上の人たちがおもしろがって嫌がる私に無理やり見せた、家の居間のテレビに映るホラー映画を思い出し、ああ、私も拘束されて生きたまま解体されたヒロインのようになってしまうのか、と。
 そんな空想がおわるころ、ドアが開きました。笹沼親子と、金色の盥を持った使用人が部屋に入ってきます。夫人は満面に笑みを浮かべて、それとは対照的に少年は仏頂面で。使用人がベッドにあがり、私の脚のあいだに座ります。使用人のベストの胸ポケットから折りたたみナイフが出された瞬間、私はやめてとヒステリックに叫びました。が、残酷にも刃が出されます。鎖をめちゃくちゃに鳴らしました。
 切られたのは、穿いていたショーツです。使用人――動くと危ないですよ。夫人は私の股間へ好奇に満ちた視線を注ぎながら――おびえちゃって、かわいいこと! ……先にショーツを脱がしてくれればよかったのに。わけのわからぬまま拘束されて、いきなり刃物を向けられたら怖いですよ。そういうパフォーマンスなんでしょうけれど。
 私の恐慌はまだまだつづきます。ショーツが払われると、使用人が盥の中から液体の入った大きな注射器のようなものを三本……浣腸器です……と、タオルを一枚取り出しました。私は身をこわばらせ、ただされるがままでした。腸にぬるい水が注入されていく慣れていない感覚に耐えさせられたあと、少しして猛烈な便意が襲ってきました。使用人が私の腰を浮かして、盥を尻にあてがってくれます。一生懸命我慢していたのですが、夫人に悪戯をされた途端、屈してしまいました。夫人が私のうっすらふくらんだ腹をそっと押したのです。
 自失して、恥ずかしさすら感じません。少年は眉をひそめています。狭い部屋ですからにおいはひどかったでしょう。夫人は相変わらず笑っています。……残りの浣腸器すべてを挿されて、中を十分清めました。使用人が汚水の揺れる盥をベッドの下に置き、タオルで尻を拭いてくれます。そして使用人はポケットからプラスチックの小さな容器を取り出し、中のねばついた液体を私の肛門に塗り込みはじめました。指まで入れて、丹念に肛門をマッサージしてくれます。かすかに快感を覚えたところで、指を抜かれてしまいました。
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