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天使の家にて(3)
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一撃は、ぼんやりとしていた私の頭を冴えさせました。この恥知らず! と、職員の罵声が聞こえました。それから全身に切られるような痛みを与えられて、私はわめいたと思います。色々と体位を変えられて、視界から口元を手で押さえている小夜子の姿が見えたり隠れたりしました。……しばらくすると鋭かったはずの痛みは次第に麻痺してきたように感じられましたが、内股をとくに強く打たれて衝撃が復活した瞬間、私の意識はふわりと浮きました。苦痛に耐えられるようにと、脳がプレゼントしてくれた陶酔の境地でした。そこで刑の執行はおわります。
私は勃起しました。が、すぐに萎えました。それからまた自失していましたが、夜になると現実に戻り、あまりの恥ずかしさに布団をかぶり縮こまっていました。鞭打ちの光景は周囲もショックを受けます。同室の男の子たちはありがたいことに、私を放っておいてくれました。そのうちみんな寝静まります。……私はひりひり痛む肌をさすっていました。
なかなか寝つけずにいると、襖が細く開いて――影次くん、起きてるかい? 先生の優しい声でした。私を呼んでいます。身を起こし、男の子たちの眠りを覚まさせないよう注意しながら、一条の光を頼りに私は廊下へ出ました。久々にまともに見た先生。白髪がやや薄くなり、皺も深くなって老けていた事実に気がつきました。
――ごめんよ、痛かっただろう? と、先生が私の頭を撫でてくれます。私は我慢の限界に達して、先生のまるいお腹に泣きつきました。
そのあと、六年生に進級する間近に小夜子が死にました。
小夜子は私に、夢を見ていたのでしょう。私のことを王子さまかなにかだと思っていたのかも知れません。当時の私にそんなことは察せず、汚い欲望で乙女の幻想を凌辱してしまった。鞭で打たれた私以上に、小夜子は傷ついた。事件のあと小夜子は抜け殻のようになっていました。……明日から春休みという日、一人で下校していた小夜子は信号の色が見えなかったようです。
仲直りする機会を永遠に失ってしまいました。葬儀がおわってから私は塞ぎ込み、小夜子が死んだのは自分のせいだと思いつめました。そして慰めてくれる先生に、錯乱した私はまた鞭で打ってくれ、罰してくれと頼みました。
……最初に語った彼の場合は一回の罰で改心し、立ち直ることもできたでしょう。しかし私は初恋の人を裏切り、殺してしまったのです。私の罪悪感はあまりにも永続的です。もう一度、あの鞭打ちの痛みと、それを越えた先にある陶酔に気を紛らわせなければどうにかなりそうでした。
先生は当惑した様子を見せつつも、承諾してくれました。夜中に迎えにいくから起きてなさい、と。私は夜更け、布団の中にいると気分が沈んで寝つけなくなっていたので、それほど難しい約束ではありませんでした。やがて先生がやってきて、私は礼拝堂の裏手へと連れていかれました。
天使の家はミッション系の施設ではありましたがそれは形だけで、礼拝堂は日曜日とクリスマスに使われる程度です。……それが真夜中に、ステンドグラスからほのかに明かりが感じられたのと、なにか物音が聞こえたような気がして不思議に思いましたが先生はなにも答えてくれません。私はさっさと鞭で打たれたかったので、深くは聞きませんでした。
パジャマを脱ぐよう言われても、不審に感じませんでした。鞭打ちの受刑者は下着のみになるのが通例ですから。……優しい先生の手による私刑で、しかも外なのに。先生はひざまずいた私の背中を撫でてから、鞭を振るいました。
叩かれているあいだ、私は小夜子のことを思い出していました。私と同じく最初から家にいて、一緒に育ってきた小夜子。見る見るうちに私の陰茎を立たせるほど成長した小夜子。無邪気に、女の子同士のようにままごと遊びをしていたころ。無邪気に、恋人同士のように戯れていたころ。――ああ、ごめんなさい。おっぱい触ってごめんなさい。小夜子はタイヤに潰されてしまいました。
涙を流し、陶酔状態に達した途端、小さく声を漏らしてしまいました。苦鳴とは異なる声の響きに反応したのか、先生が鞭打ちをやめて私の体を起こし、心配そうに様子を見てきます。先生は私の股間を凝視しました。私は下着をぐっしょり濡らしていたのです。……精通していました。
それからしばらくして私はまた不安定になりました。鞭が欲しい。麻薬のようです。先生に再度頼みにいきました。今度は、どこか嬉しそうに承諾してくれました。礼拝堂に向かいましたが裏手に廻らず、先生は扉に手をかけます。
開錠して中へ入ると、電灯があるというのに蝋燭の灯火が揺らいでいました。煤けたステンドグラスの聖母がぼやけて見えて、不気味だったのを覚えています。鞭で肌を打つ音と、呻き声が響いていました。薄暗さに目が慣れてくると、それは職員たちであることがわかります。さながら聖職者たちの苦行のようでした。
なにがなんだかわけがわからなくて呆然としている私を差し置いて、先生はその場にいた施設長……神経質そうな顔をしていて、職員たち以上にそっけない印象のある人でした……と会話をはじめます。施設長は――大丈夫なのか? 先生――この子なら平気です。今のうちにちょっと才能を伸ばしてやれば旦那さまも喜ぶでしょう。初物を盗ってはいけませんが。施設長――この子は条件も容姿もいい、確実に選ばれるだろうからな。小夜子は残念だった。
私は首を傾げました。でも、周りの状況のほうが気になります。職員の一人が長椅子に手をついて、でっぷりとした尻を突き出していました。別の職員がその尻を打っています。打たれているほうはなにかをひたすら謝っていました。また別の職員は壁に張りつき、背中を打たせています。講壇に寄りかかり、胸を打たせている職員もいました。みんな没入していて、私の存在など気がついていないようでした。
先生と施設長が話をおえます。私は衣類を下着も含めて脱がされてしまいました。先生の鞭は私の尻を重点的に打ってきます。先生が小夜子のことで私を罵りました。私は許しを請い、叫び、達しましたが精水を放出することはできませんでした。肛門に覚えた異物感が邪魔だったのです。施設長が、持っていたロザリオの十字架で弄っていたのでした。
私は勃起しました。が、すぐに萎えました。それからまた自失していましたが、夜になると現実に戻り、あまりの恥ずかしさに布団をかぶり縮こまっていました。鞭打ちの光景は周囲もショックを受けます。同室の男の子たちはありがたいことに、私を放っておいてくれました。そのうちみんな寝静まります。……私はひりひり痛む肌をさすっていました。
なかなか寝つけずにいると、襖が細く開いて――影次くん、起きてるかい? 先生の優しい声でした。私を呼んでいます。身を起こし、男の子たちの眠りを覚まさせないよう注意しながら、一条の光を頼りに私は廊下へ出ました。久々にまともに見た先生。白髪がやや薄くなり、皺も深くなって老けていた事実に気がつきました。
――ごめんよ、痛かっただろう? と、先生が私の頭を撫でてくれます。私は我慢の限界に達して、先生のまるいお腹に泣きつきました。
そのあと、六年生に進級する間近に小夜子が死にました。
小夜子は私に、夢を見ていたのでしょう。私のことを王子さまかなにかだと思っていたのかも知れません。当時の私にそんなことは察せず、汚い欲望で乙女の幻想を凌辱してしまった。鞭で打たれた私以上に、小夜子は傷ついた。事件のあと小夜子は抜け殻のようになっていました。……明日から春休みという日、一人で下校していた小夜子は信号の色が見えなかったようです。
仲直りする機会を永遠に失ってしまいました。葬儀がおわってから私は塞ぎ込み、小夜子が死んだのは自分のせいだと思いつめました。そして慰めてくれる先生に、錯乱した私はまた鞭で打ってくれ、罰してくれと頼みました。
……最初に語った彼の場合は一回の罰で改心し、立ち直ることもできたでしょう。しかし私は初恋の人を裏切り、殺してしまったのです。私の罪悪感はあまりにも永続的です。もう一度、あの鞭打ちの痛みと、それを越えた先にある陶酔に気を紛らわせなければどうにかなりそうでした。
先生は当惑した様子を見せつつも、承諾してくれました。夜中に迎えにいくから起きてなさい、と。私は夜更け、布団の中にいると気分が沈んで寝つけなくなっていたので、それほど難しい約束ではありませんでした。やがて先生がやってきて、私は礼拝堂の裏手へと連れていかれました。
天使の家はミッション系の施設ではありましたがそれは形だけで、礼拝堂は日曜日とクリスマスに使われる程度です。……それが真夜中に、ステンドグラスからほのかに明かりが感じられたのと、なにか物音が聞こえたような気がして不思議に思いましたが先生はなにも答えてくれません。私はさっさと鞭で打たれたかったので、深くは聞きませんでした。
パジャマを脱ぐよう言われても、不審に感じませんでした。鞭打ちの受刑者は下着のみになるのが通例ですから。……優しい先生の手による私刑で、しかも外なのに。先生はひざまずいた私の背中を撫でてから、鞭を振るいました。
叩かれているあいだ、私は小夜子のことを思い出していました。私と同じく最初から家にいて、一緒に育ってきた小夜子。見る見るうちに私の陰茎を立たせるほど成長した小夜子。無邪気に、女の子同士のようにままごと遊びをしていたころ。無邪気に、恋人同士のように戯れていたころ。――ああ、ごめんなさい。おっぱい触ってごめんなさい。小夜子はタイヤに潰されてしまいました。
涙を流し、陶酔状態に達した途端、小さく声を漏らしてしまいました。苦鳴とは異なる声の響きに反応したのか、先生が鞭打ちをやめて私の体を起こし、心配そうに様子を見てきます。先生は私の股間を凝視しました。私は下着をぐっしょり濡らしていたのです。……精通していました。
それからしばらくして私はまた不安定になりました。鞭が欲しい。麻薬のようです。先生に再度頼みにいきました。今度は、どこか嬉しそうに承諾してくれました。礼拝堂に向かいましたが裏手に廻らず、先生は扉に手をかけます。
開錠して中へ入ると、電灯があるというのに蝋燭の灯火が揺らいでいました。煤けたステンドグラスの聖母がぼやけて見えて、不気味だったのを覚えています。鞭で肌を打つ音と、呻き声が響いていました。薄暗さに目が慣れてくると、それは職員たちであることがわかります。さながら聖職者たちの苦行のようでした。
なにがなんだかわけがわからなくて呆然としている私を差し置いて、先生はその場にいた施設長……神経質そうな顔をしていて、職員たち以上にそっけない印象のある人でした……と会話をはじめます。施設長は――大丈夫なのか? 先生――この子なら平気です。今のうちにちょっと才能を伸ばしてやれば旦那さまも喜ぶでしょう。初物を盗ってはいけませんが。施設長――この子は条件も容姿もいい、確実に選ばれるだろうからな。小夜子は残念だった。
私は首を傾げました。でも、周りの状況のほうが気になります。職員の一人が長椅子に手をついて、でっぷりとした尻を突き出していました。別の職員がその尻を打っています。打たれているほうはなにかをひたすら謝っていました。また別の職員は壁に張りつき、背中を打たせています。講壇に寄りかかり、胸を打たせている職員もいました。みんな没入していて、私の存在など気がついていないようでした。
先生と施設長が話をおえます。私は衣類を下着も含めて脱がされてしまいました。先生の鞭は私の尻を重点的に打ってきます。先生が小夜子のことで私を罵りました。私は許しを請い、叫び、達しましたが精水を放出することはできませんでした。肛門に覚えた異物感が邪魔だったのです。施設長が、持っていたロザリオの十字架で弄っていたのでした。
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