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一章
山崎家の日々
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日本の春は暖かい。
そして何より、桜が綺麗だ。
桜が満開のときは人々がうっとりするほど美しい。それまでは茶色だった世界が一瞬にして幻想的な風景に変わる。まるで、夢の中に迷い込んだかのように。桜は満開のときも美しいが、桜の花びらが散っているところはさらに美しい。やわらかい雪がふわりと落ちてくるように、桜の花びらがあちらへこちらへと、ふわりふわりと散っていく様子は申し分なく美しい。その落ちてくる桜の花びらを地面につかずに取れると、願いが叶うと言われているが、花びらだけでも美しい桜だ。納得がいく。その桜の木の下で花見をする日本人は、良い文化を持っている。それに、
「みるくぅ~、今日もいい天気だねぇ~」
ああ、うるさいやつが来た。僕のお気に入りである縁側によく来るやつ。
山崎桃。愛称はもっちゃん。
この春、新社会人になる彼女は第1希望の会社に受かったらしい。そのおかげで僕は鬱陶しいほど絡まれる。それにしても、その喋り方はなんとかならないものか。変に間延びしていて聞いてて不快だ。
「シャ~~~!」
桃が僕を抱っこしようとしてくるのに気づき、華麗に避けて威嚇する。
僕が桜について語ってるときに邪魔しないでほしいものだよ。
「みるくぅ~ごめんてぇ~怒らないでぇ~」
怒るに決まっているだろう。君がハマってる「げぇむ」とやらも邪魔されると怒るではないか。それと同じだ。
「なんであたしにだけ懐かないのかねぇ~」
あ~不思議と言いながら僕に背を向けてどこかに行ってしまう。
空気を読む力が強くなればいいんだが?桃は小学6年生の時からしか知らないが、その時から気に食わないやつだ。
さて、めんどくさいやつが来たおかげで僕の桜語りが終わったが、僕の紹介が終わってない。桜についてたっぷり語ってからしようと思ったのに、アイツのせいでめちゃくちゃだ。え?桜語りが飽きていたからちょうどよかったって?君も桃と同類だ。
そんなことは置いといて、改めて僕はペルシャ猫のみるく。山崎家に飼われている猫だ。真っ白な毛皮の僕ははじめ、「牛乳とかどう?」という美乃里のセンスのない名前になりそうだったんだが、桃の姉である桜子がそれは流石に良くないと言ってくれたおかげで、「みるく」になった。僕としては「ゆき」とかがよかったんだが。まあ、猫なので喋れないわけだから「みるく」になったんだが。「牛乳」とかいう名前になっていたら、この家を脱走していただろう。確実に。
さて、こんな雑談はいいんだ。今から僕にはやることがあるのだ。
縁側からストンと降りて庭に出る。
「あら、みーちゃんどうしたの?」
ちょうど庭で花を植えていた桜子が僕に気づいて、おいで~と手招きしてくる。
桜子は桃の2個上で、24歳。「ふぁっしょんでざいなー」をやっているから、とてもおしゃれなのだ。
「今日も散歩に行くの?」
桜子がきれいな手で僕を撫でてくれる。
「にゃあ~」
「そっかそっか、いってらっしゃい!桃に捕まる前にね」
ふふっと笑っていたずらっ子みたいな顔でニヤッとしている桜子は、山崎家の中で一番の美人だからか普通の人ならムカつくような表情が様になる。
「にゃあ~お」
行ってきますと言うように鳴くと、桜子はニコリと笑って手を振ってくれていた。
桃にはさっき絡まれたし、もう来ないだろう。
そう思って油断していたのが悪かった。散歩に行くために抜け道を歩いていたときだ。
「あ、みるくぅ~!お散歩ぉ~?」
まずい。
そう思った瞬間、僕は桃に抱きかかえられていた。
最悪だ。抜け道は狭いから逃げられない。
「さっきは抱っこさせてくれなかったからねぇ~」
桃から逃げようと体をくねらす。
「ちょっとぉ~動かないでよぉ~うわあっ!」
僕は桃が離した瞬間を待っていた。桃が力を抜いたほんの一瞬でバッと下りて抜け道を通る。
僕の抜け道に人は入れない。
「みるくぅ~!」
後ろから読んでる声が聞こえるけれど構わず走り抜ける。
桜が満開に咲き誇る道に向かって走った。
サヨナラの桜。ハジメマシテの桜。
終わりと始まりの季節、幕開けです。
そして何より、桜が綺麗だ。
桜が満開のときは人々がうっとりするほど美しい。それまでは茶色だった世界が一瞬にして幻想的な風景に変わる。まるで、夢の中に迷い込んだかのように。桜は満開のときも美しいが、桜の花びらが散っているところはさらに美しい。やわらかい雪がふわりと落ちてくるように、桜の花びらがあちらへこちらへと、ふわりふわりと散っていく様子は申し分なく美しい。その落ちてくる桜の花びらを地面につかずに取れると、願いが叶うと言われているが、花びらだけでも美しい桜だ。納得がいく。その桜の木の下で花見をする日本人は、良い文化を持っている。それに、
「みるくぅ~、今日もいい天気だねぇ~」
ああ、うるさいやつが来た。僕のお気に入りである縁側によく来るやつ。
山崎桃。愛称はもっちゃん。
この春、新社会人になる彼女は第1希望の会社に受かったらしい。そのおかげで僕は鬱陶しいほど絡まれる。それにしても、その喋り方はなんとかならないものか。変に間延びしていて聞いてて不快だ。
「シャ~~~!」
桃が僕を抱っこしようとしてくるのに気づき、華麗に避けて威嚇する。
僕が桜について語ってるときに邪魔しないでほしいものだよ。
「みるくぅ~ごめんてぇ~怒らないでぇ~」
怒るに決まっているだろう。君がハマってる「げぇむ」とやらも邪魔されると怒るではないか。それと同じだ。
「なんであたしにだけ懐かないのかねぇ~」
あ~不思議と言いながら僕に背を向けてどこかに行ってしまう。
空気を読む力が強くなればいいんだが?桃は小学6年生の時からしか知らないが、その時から気に食わないやつだ。
さて、めんどくさいやつが来たおかげで僕の桜語りが終わったが、僕の紹介が終わってない。桜についてたっぷり語ってからしようと思ったのに、アイツのせいでめちゃくちゃだ。え?桜語りが飽きていたからちょうどよかったって?君も桃と同類だ。
そんなことは置いといて、改めて僕はペルシャ猫のみるく。山崎家に飼われている猫だ。真っ白な毛皮の僕ははじめ、「牛乳とかどう?」という美乃里のセンスのない名前になりそうだったんだが、桃の姉である桜子がそれは流石に良くないと言ってくれたおかげで、「みるく」になった。僕としては「ゆき」とかがよかったんだが。まあ、猫なので喋れないわけだから「みるく」になったんだが。「牛乳」とかいう名前になっていたら、この家を脱走していただろう。確実に。
さて、こんな雑談はいいんだ。今から僕にはやることがあるのだ。
縁側からストンと降りて庭に出る。
「あら、みーちゃんどうしたの?」
ちょうど庭で花を植えていた桜子が僕に気づいて、おいで~と手招きしてくる。
桜子は桃の2個上で、24歳。「ふぁっしょんでざいなー」をやっているから、とてもおしゃれなのだ。
「今日も散歩に行くの?」
桜子がきれいな手で僕を撫でてくれる。
「にゃあ~」
「そっかそっか、いってらっしゃい!桃に捕まる前にね」
ふふっと笑っていたずらっ子みたいな顔でニヤッとしている桜子は、山崎家の中で一番の美人だからか普通の人ならムカつくような表情が様になる。
「にゃあ~お」
行ってきますと言うように鳴くと、桜子はニコリと笑って手を振ってくれていた。
桃にはさっき絡まれたし、もう来ないだろう。
そう思って油断していたのが悪かった。散歩に行くために抜け道を歩いていたときだ。
「あ、みるくぅ~!お散歩ぉ~?」
まずい。
そう思った瞬間、僕は桃に抱きかかえられていた。
最悪だ。抜け道は狭いから逃げられない。
「さっきは抱っこさせてくれなかったからねぇ~」
桃から逃げようと体をくねらす。
「ちょっとぉ~動かないでよぉ~うわあっ!」
僕は桃が離した瞬間を待っていた。桃が力を抜いたほんの一瞬でバッと下りて抜け道を通る。
僕の抜け道に人は入れない。
「みるくぅ~!」
後ろから読んでる声が聞こえるけれど構わず走り抜ける。
桜が満開に咲き誇る道に向かって走った。
サヨナラの桜。ハジメマシテの桜。
終わりと始まりの季節、幕開けです。
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