上 下
389 / 421
~最終章~◆◆◆物語はハッピーエンドが良いよね?◆◆◆

389ページ目…魔王戦、その後【3】

しおりを挟む
 いざ、ファナル砦へ!と気合を入れ出発をしたのは良いのだが、何やら妙な胸騒ぎを感じ、そのまま中には入らず、急遽きゅうきょ、目的地を魔王城へと変更し、再度、転移する事にした。
 こう言う時の嫌な予感とは言う大概当たる物と言うのが、セオリーと言うかベタな展開テンプレである。

 その結果…魔王城に転移した僕達の前に待ち受けていたのは十数人の魔族達であった。

「おぉー!新たな魔王様が降臨されたぞ!!」
「まぁ、何て強い力なのでしょう。
 先代の魔王様なんて足元にも及ばないのではないかしら?」
「ははは、そもそも先代の魔王様なんかと比べたら、失礼にも程があるんじゃないか?」
「そ、そうよね…いくら先代の魔王様とは言え、私達に隷属化を強いたんですものね…。
 そんなのと比べる事自体、間違ってるわよね…。」

 等々、集まった魔族は、先代の魔王こと『エギン』の批判と、僕が来た事に対し喜びの声を上げている。
 まぁ、喜びの声と言うよりは、新たな期待に胸を躍らせていると言った方が正しいかもしれない。

「あ、あの…これは、いったい…。」

 何が何だか、良く分からない状態の俺は、困惑しながらも何とか質問した。

「え?これは…とは、何の事でしょうか?」

 返事をしてくれたのは、他の魔族達より一歩手前に居た魔族の人である。
 もしかしたら、この中では一番偉いのかもしれない。

「いや、何で、此処に集まっているのかな…と。」

 まぁ、集まるだけで敵対しないのだから、現時点では問題ないのだが…ただ集まって井戸端会議…とは考えられない。

「あぁ~その事でしたか…先代の魔王が倒された事により、我々に掛けられていた命令呪いが解除されまして…そんな折、新たな魔王様の気配を感じましたので、生き残りの者達は、こうやって魔王城へ集まってきたのです。」
「え?でも、それなら何で、わざわざ魔王城に集まったの?」

 そもそも、昨日の確認の時点では彼等はいなかった。
 つまり、彼等が魔王城に来た時には、既に、俺達は魔王城を後にしていたと言う事なのだ。
 集まってから何時間経っているかは不明だが、今日、来なかったらどうするつもりだったのか…。

「何故って…それは、魔王様は魔王城に居る物と相場が決まってるからじゃありませんか…。
 故に、必ずや魔王様は魔王城へお越しになられると思い、集まっていたのです。」

 そこまで聞いて、何となくだが納得した。
 一部例外もあるが、基本的にゲームや小説などでは『魔王=魔王城にいる』と言う図式がある。
 そう言う意味では、魔王は玉座に座って威張ってるイメージが強い。

 まぁ、もちろん、俺はそんな事をするつもりはない。
 そんな事よりも、今の俺は、スローライフを望んでいるのだから…。

「なるほど、そこまでは理解した…でも、集まって何するつもりだったんだ?」
「え?人族と戦争をなさるのではないのですか?」
「はぁッ!?何でそんな事しなきゃならないの!?」
「「「「「え、えぇーーーーーッ!?」」」」」

 俺の発言に、魔族一同が驚きの声を上げる。

「ちょっと待て!何でそんなに驚かれるんだよ!」

 その反応は、逆に俺を驚かせる事になる。

「いや、だって…。」
「…ねぇ?」
「…なぁ?」

 魔族達が、困惑した様子で、互いの顔を見合わせている。

「もしかして、魔王ってのは人族と戦争しないとダメな存在なのか?」
「い、いえ、決してその様な事は…。」
「だったら、戦争なんて絶対にしないぞ!そもそも、戦争なんてしたら被害が増えるだけだし、何の生産性も無い。
 それに…君達だって、無事では済まないだろ?」

 受肉をする前の精神体アストラルボディーであれば、それこそ無敵に近かったかもしれないが、受肉を果たした今の彼等には、数の暴力により大怪我をする…最悪、死ぬ事だってありえるだろう。

「ま、まさか…魔王様は、我々の事を…心配なされたのですか?」

 恐る恐る聞いてくる魔族の男…敵対していなのであれば心配するの当たり前の様な気がするし、決して変な事ではないと思うのだが?

「それが何か?もしかして、魔王は魔族を心配しちゃダメなのか?」
「め、滅相もございません!!で、ですが先代…それに先々代も我々を道具としてしか見ておらず、この様な扱いをされるとは思いもよらず…。」

 先代…つまり、エギンは仕方がないと思うが…先々代、つまり『ゼロ』までも、道具扱いだったのにビックリである。
 ただ、考えてみれば、零は失った恋人の魂を探し出そうとしていた…その為に、手駒が欲しかったのだと思い至った。
 まぁ、結局、見付け出す事は出来ず、じぃちゃん…勇者セイギに倒されてしまったのだが…。

「とりあえず、俺は、理不尽な命令を出すつもりはないし、戦争をするつもりもない。
 それどころか、これからお前達には、平和に生きて貰いたいと思う。」
「へ、平和…ですか?それが命令とあらば従いますが…。」
「か、畏まりました…。」
「り、了解であります…。」
「は、はい…。」

 やはり、困惑した表情で答える魔族達…だが、それでも…。

「ほ、本当によろしいのでしょうか?
 我々が平和に生きても…。」

 と、戸惑いと喜びの声も聞こえてくる。

「あぁ、最初は色々と、わだかまりがあると思う。
 だが、それでも乗り越えられると、俺は信じている。
 まぁ、最初はかなり厳しいと思うけど…それでも、いつかは人族と手を取り合い、平和に暮らせると思っているよ。」

 もっとも、それが何年、何十年…いや、何百年掛かるかは分からないが、それでも可能性はあると思っている。

「だけど、その前に…とりあえずは、まずは大きな壁を作り、外から誰も入れない様にした方が良いかもね。」

 所謂いわゆる、城壁とか外壁とか言われる物を作り、内外の出入りを制限する事から始めると良いだろう。

「ハッ!では、まずはその様に…して、広さは如何致しましょう?」
「え?そんな事まで俺が考えなきゃダメなの?」
「はい、出来ますれば…。」

 何とも面倒な話である。
 それこそ、自分達で決めてくれたら楽なのだが…。

「えっと、だったら、ここから見える範囲を…。」

 何気に言ったが大丈夫か?言って置いて何だが、見渡す限り荒野が広がっているのだが…。
 そんな状態の土地を確保しても、早々、どうにか出来るとは思えない。
 何となく言ってしまった事なので、流石に不味いと思い訂正しようと思った時には、既に遅く、何人かが行動を開始した後だった。

「あ…って、だから、行動が早すぎだよ…。」
「魔王様、どうしました?」
「いや、流石に広すぎたかな?って思って…。」
「確かに、広いと言われれば広いですが、それが何か問題でも?」

 俺の言う事を否定しない…完全なイエスマンと成り果てている魔族達に、少し引いてしまう。
 だが、これはある意味、種族的な問題なのかもしれないので、今は、これで良しとする。
 そこら辺の認識については、追々、直して行く事にしようと思う。

 しかし、何だって俺は、この魔族達の事を、何の疑問も持たず受け入れているんだろう?
 それでも、俺は今度こそ・・・・魔族部下達を蔑ろにしない様に…と、心に決めたのだった…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~

星天
ファンタジー
 幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!  創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。  『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく  はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

処理中です...