～僕の異世界冒険記～異世界冒険始めました。

～第七章：魔神復活編～

297ページ目…襲撃【1】

「こちらが、アイアンさんが壊した剣の弁償代わりの品となります。」
「おぉー！これがドワーフの聖剣かッ！」

　バカ貴族が布に包まれた剣を僕から受け取る。

「いえ、貴方からお預かりした剣は、残念ながら聖剣ではありませんでした。
　しかも、確認した所、ドワーフが作った剣ですらなかったです。」

　そう言うと、バカ貴族の顔が歪む。
　そりゃそうだ、大勢の前で『ドワーフの鍛えた聖剣』だと豪語していたのを、真っ向から否定したのだ。
　当然、バカ貴族にとって面白くない話である。

　だけど、僕は、それを無視して続きを述べた。

「ですので、『ドワーフの鍛えた聖剣』を補償とした場合、あまりに過剰な品になります。
　それこそ、串焼き一本に金貨一枚を払うかの様に…。
　とは言え、それでも壊した剣の代わりは必要ですので、こちらの品でもまだ過剰な補償ではありますが『ドワーフの聖剣』ではないものの、『ドワーフの鍛えた剣』をお持ちしました。」
「な、何だとッ！？巫山戯ふざけるな！貴様は、我が家に伝わる『ドワーフの鍛えた家宝の宝剣』が、偽物だったと言うつもりかッ！！」

　と、バカ貴族が激怒する。
　それでも僕は感情を殺したかのように淡々と言葉を続ける。

「はい、残念ながら…知り合いのドワーフに聞いた所、貴方が弁償しろと言われた剣ですが『ゴミもゴミ、こんなナマクラをドワーフの鍛えた剣だと信じるなんて、頭が笑しいんじゃない？子供の練習用よりも劣る』だそうです。
　ですので、残念ながら、こちらとしては聖剣は渡す事が出来ません。
　それでも、そちらの体面を汚さぬ様に、ドワーフが鍛えし剣をお持ちしました。」

　まぁ、そんな事を言った所で、こちらの言う事を聞くとは思えないが…。

「私が弁償しろと言ったのは、ドワーフの聖剣であってドワーフの剣ではない！
　貴様は言われた通り、ドワーフの聖剣を寄越せば良いんだ！」

　と、こちらの言った事を完全に無視して、自分の要求を飲ませ様とするバカ貴族。
　そんな態度に、どうでも良くなって来た。

「はぁ～、もう良いや…おい、オッサン！調子に乗るのも大概にしろや！
　そもそも、そこらの冒険者に簡単に折られる剣がドワーフの鍛えた剣な訳ないだろうが！
　それを、ドワーフの剣と偽ってドワーフの剣を寄越せって言うなら、まだ可愛げがあるがドワーフの聖剣を寄越せだ？巫山戯るのも大概にしろや！」
「き、貴様！貴族である私に、たかが冒険者である貴様が、その様な口の利き方をして只で済むと思うなよ！」
「あ～、もうそんなのどうでも良いから。
　てめぇが欲しかったのは、ドワーフの鍛えし聖剣だったな？
　もちろん、ちゃんと持ってきてるよ？それが、どれだけ凄い聖剣か見せてやるよ…クズハ！」
「は、はい、ご主人様あなた。」

　僕の呼び掛けに、クズハは背負っていた包みを僕に渡す。
　流石に、人前で無限庫インベントリから取り出すと言うは、あまりにもよろしくない目立つ行為なので、前もってクズハに持って貰っていたのだ。
　まぁ、いくら自分の嫁とは言え、女性に持たせるのはどうかと思うが、それにはちゃんとした理由があるので仕方がない。

　そもそも、貴族と会うのに帯剣して会う訳にはいかない。
　それでも会わなければいけないのだから、少しでも警戒を解く為に、女性に持たせる必要があったのだ。

　クズハから包を受け取ると、僕はその包みを剥ぎ取ると、中に入っていた一振りの剣を鞘から抜き取る。

「この剣は、とあるドワーフが全身全霊を込めて鍛えた物です。」

　そう言いながら、僕はバカ貴族へ少しずつ近付いていく。

『チリチリチリチリチリチリチリチリ…。』

　剣先が軽く床に触れる、それだけで床がチリチリ音を立てて削れていく。
　たったそれだけで、その聖剣の威力が、そこらの剣と比べ物にならない事を理解させる。
　一歩、また一歩…と、ゆっくりバカ貴族へ近付いていく。

「く、来るな！そこで止まれ！」

　身の程知らずなバカ貴族も、『ドワーフの鍛えた聖剣』の威力を脅威と認識した様で、急に怯え出す。

「オッサン、聖剣が欲しかったんだよな？
　なら、この剣をくれてやるよ、ただし、あんたがこの剣を抜く事が出来れば…なッ！！」

『グサッ！』

「ギャーーー！」

　僕はバカ貴族の足を聖剣を突き刺し、床へと縫い付ける。
　ただし、この聖剣には特殊能力が備わっている、それは…。

「クソッ！抜けん、何で抜けないんだッ！！」

　バカ貴族が必死になって抜こうとする。
　だが、聖剣はびくともしない。

「どうしたんです？貴方が欲しかった聖剣ですよ？
　先程も言いましたが、貴方に抜けたら差し上げると言ったじゃないですか？
　それに、早く抜かないと、死んじゃいますよ？」
「き、貴様！まだ私を愚弄する気かッ！」

　と、怪我をしているのに、未だに高圧的な態度を取る。
　こいつ、まだ自分の立場を分かっていないのか？

「愚弄も何も…ただ、ありのままを言ってるだけですよ？
　その聖剣に主だと認めて貰えなければ抜けませんよ？」

「クソ！クソ！クソーーーーッ！！」

　だが、バカ貴族の足に刺さってる聖剣は、いくら頑張ってもビクともしない。
　それどころか、聖剣の力により、バカ貴族は、随時ダメージを負っている。

「どうです？このまま死ぬまで足掻きますか？
　それとも、貴方は聖剣を持つのに相応しくない愚か者と認め、僕にその聖剣を抜いて貰いますか？」
「だ、誰が貴様なんかにッ！」

　強がりを言うバカ貴族…だけど、僕の目には、もう時間がない事が見えて・・・いた。

「強がりも、そこまで行くと潔いですね。
　ですが、あと1分もしない内に貴方のＨＰはゼロになって死にますけどね？」
「な、なんで貴様にそれが分かる！…も、もしや、私のＨＰが見えているのか？」
「さぁ？どうでしょうね…。
　それよりも…60…59…58…。」

　ＨＰの減少に伴い、残りのＨＰを読み上げる。
　文字通り、死へのカウントダウンである。

「32…31…30…。」
「わ、分かった…私が悪かった、この剣を抜いてくれ。」
「え～…どうしようかな…ぶっちゃけ、威張り散らして他人に迷惑を掛けまくる貴方が居なくなった方が平和ですし…20…19…18…。」
「た、頼む…もう、他の人を陥れたりする事はしないと約束する。
　これからは、良い貴族となる事を約束するから、た、助けてくれッ！！」
「はいはい…まぁ、この聖剣もこんなくだらない事に使われたら可哀想ですから…ね！」

　僕はそう言うと、貴族の足を地面に縫い付けている聖剣を引き抜く。
　あれほどバカ貴族が必死に聖剣を抜こうとしても抜けなかった聖剣が、それまで抜けなかったのが嘘の様に音もなくスルリと抜ける。

「た、助かった…。」
「では、ちゃんと約束を守って下さいね？」
「約束？はて、約束とは何の事かな？」

　命の危険が去ったからだろう…そう言って、バカ貴族はニヤリと笑う。

「まぁ、オッサンなら絶対にそう言うと思っていましたけどね？
　ですので、オッサン…あんたは助けない。」

　僕はそこまで言うと、それまで見守っていたクズハとアイアンさん…そして、バカ貴族の騎士達に向かって、大声で言い放つ。

「全員、戦闘準備！何かヤバイ物が来てるぞッ！！」

　僕の声を聞き、即座にクズハが戦闘態勢を取る。
　背中から装着していた弓を外し、矢をつがえて構える。

　いつでも攻撃可能な体制に移行する…しかも、緊急事態と認識している為、力も解放し一気に尻尾が8本に増える。
　同様に、アイアンさんは、ダンジョン内で僕の指示に従って居た為、即座に腰に差していた剣を抜き構える。
　ただ、バカ貴族側の反応は遅かった…その結果。

「ぐ、ぐわーーーーー！」

『ドシャッ！』

　バカ貴族の護衛として付いて来た、騎士の一人が宙を舞い、そして地面に叩き付けられる。
　幸いにも、息がある様で、何やら腰のバッグから取り出し飲んでいる。
　おそらく回復薬ポーションの類だろう。

「「「う、うわーーー！」」」

　突然の事態に、隊形も連携も忘れ逃げまどう騎士達…。
　中には、我を取り戻し、抜刀し急に現れた敵と対峙する者もいた。
　しかし、こちらは三十人ほどで相手をするのは、僅か六体の魔物。
　ただし、魔物と言っても、それは、下級魔族…レッサーデーモンである。

「お前達、落ち着け！敵は僅か六体、数の上では我らが優位だ！
　陣形を組んで対処すればどうと言う事はない！」

　その言葉に、レッサーデーモンの出現に逃げまどう騎士達の動きがピタリと止まる。

「そ、そうだ！隊長の言う通りだ！
　我ら、近衛騎士団の力、見せてくれようぞ！」
「「「おぉーーー！」」」

　なるほど、一人だけパニックにならなかったヤツが居ると思ったが、隊長さんだったか…。
　あの動き、正直、バカ貴族には勿体ないほどの人材だよな…。
　それに、近衛騎士団の～とか叫んだヤツ、あいつも比較的早く攻撃を仕掛けた所を見ると、副隊長と言った所か？

　何はともあれ、騎士達の統率が取れ始めた様で何よりだ。

「ココ　マゾク　ニ　アダナス　セイケン　アル
　オトナシク　ワタセバ　クルシマズ　コロシテヤル
　テイコウ　スレバ　ジゴク　ノ　クルシミ　アタエル」

「へ～…レッサーデーモンの癖に、しゃべれるんだ…なッ！」

『ザシュッ！』

　わざわざ警告のつもりなのか、動きを止めて話し出したレッサーデーモンを、僕は一瞬で背後へと移動して斬り付ける。
　その一撃で、レッサーデーモンは黒い霧となり消滅する。
　流石は、対魔族用の聖剣…この程度の下級魔族では雑魚と一緒の様だ。
　しかも、流石は聖剣と言った所か、レッサーデーモンを斬り裂いたのに、刃こぼれ一つ無い。
　って言うか、血糊すら付いていない…予想以上に強力な聖剣の様だ。

「そうだ、クズハは？」

　慌てて、クズハのいた方へと視線を向ける…。
　そこには、同時に二体のレッサーデーモンを燃やし尽くし黒い霧へと変えたクズハの姿があった。

「クズハ！油断するなよ！」
「は、はい！」

　確か、襲ってきたのは六体のレッサーデーモンだったはず…ならば、あと三体…。

　次の獲物は…と、クズハから視線をずらしたその先で、アイアンさんが、ちょうどレッサーデーモンの腹に槍を刺し、黒い霧へと変えたのが見える。
　どうやらアイアンさんもドランさんのダンジョンで手に入れた聖なる武器を持っていた様だ。
　って、アイアンさん、献上したはずの装備をよく持って来れたな…。

　何はともあれ、残りはあと二体…これなら、大した被害もなく勝利する事が出来そうだ。
　そう油断した瞬間…それ・・は起こったのだった…。