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~第六章:冒険者編(後期)~

194ページ目…戦闘準備【3】

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『チュチュン、チュン、チュチュチュン、チュン』

 どこかで聞いた事のある様なBGM風味の鳥の鳴き声に、朝が来たのだと理解し、僕達は欠伸あくびをしながら、大きく背伸びをする。
 とは言っても、別に寝ていた訳ではなく、昨日の夜からずっと話し合いをしいたのだが、気が付いたら朝が来てしまっただけである。
 まぁ、特に何かをすると言う訳ではないのだが、結局の所、何をどうして良い分からない状態のまま、時間だけが無駄に過ぎ、とうとう朝が来てしまった…と言うのが正解だろう。

「しっかし、『聖王都』を敵に回さずに、『聖騎士団』や『零の使い魔』を倒す方法が、こうも考え付かないのは痛い誤算だったな…。」
「それは仕方が無かろう?何度も言う様に、王族や貴族達と言うのは、『聖王都』や自分達に害が及ばなければ、我関せずなのじゃから…。」

 と、頭を抱える様に言うクラウスさん…一応、ギルドマスターなのに何か残念な人に思えて仕方がない…。

「そ、そうですよね…ですが、だからと言って、プリン様の言う様に『聖王都』ごと、と言うのは、流石に無茶が過ぎると思いますし…。」

 クズハが言ってるのは話し合いの時にプリンの出した提案の事である。
 その内容と言うのが、国を潰す事は出来ないにしても、街を潰すだけ位なら出来るのでは?と言う提案である。
 もちろん、その気持は分からない訳ではないのだが、国がダメなら街を…と言うのは、出来る出来ないは別として、人としてやってはいけない事だと思う。

「でも、色々考えるより、それが一番手っ取り早いのでは?
 そもそも、『零の使い魔』が関わってるって言うなら、別に手段なんて気にしなくて良いのでは?」

 そんなプリンの無謀な策を、クズハが形だけでも止めようとする。
 だが、プリンは更に強く言ってきた。

 だけど…正直な話、他の人達との連携を考えなければ、僕達だけで戦った方が早いと言うのも、事実だったりする。
 むしろ、連携する事により、相手が邪魔になり上手く動けなくなるリスクだって考えられる。

 そう考えると、面倒な事は置いておいとくして、本気で僕達だけで戦った方が良くないか?と思えてくる。
 そもそも、今回作った武防具だって、何かをどうすると言う目的ではなく単純に戦力増強だ。

 つまり、無理無茶無謀をやれる可能性が出てきたと言う事だ。
 そして、その武防具はだけの装備と言う訳ではなく『僕達・・』の装備だと言う事だ。

「うん、そうだな、なんか色々考えてたら面倒になって来ちゃったし…もう、行き当たりばったりで良いかも知れないな…。」
「ご、ご主人様までッ!?無理ですよ!何で、やっちゃえ?みたいになるんですかッ!?」

 言われてみれば、確かに…何でなんだ?と考えるもその理由に関して、何も思い付かない。
 ぶっちゃけ、この事に関しては徹夜で思考が鈍っているだけなのだが、その事に誰も気が付かないのは、みんなも同じ状況なのだろう。
 もっとも、プリンだけは魔物…元々のスライムの性質上、睡眠を必要としないのだが、元々の性格もあってか発言が通常の思考と掛け離れ、異常だったりする事もしばしばだ。

「はぁ…ラオンから聞いていた通り、一癖も二癖もある連中の様じゃな…。
 じゃが、そう言う事なら、ギルドの方も独自に動く事にしようかのぅ。」
「えっと…どうしてですか?」

 クラウスさんの台詞に、疑問が浮かぶ。

「なに、簡単な事じゃよ、連携と言うのは互いに決められた行動をする事により、速やかに行動する事を可能とし、相手を後手に回す事が出来るのが利点じゃが、その目的を知られると対処されやすくなると言うリスクもあるのじゃ。
 じゃが、例え同じ目的を持っていても、今回の様に連携をせずに各自で動く場合、どう行動するか読みにくくなると言う利点がある。
 じゃが、その所為で、連携をする筈だった者達仲間の足を引っ張る事になるリスクもあるのじゃが…まぁ、君達なら問題にはならんじゃろ。」
「………それは、どう言う意味で?」

 僕はクラウスさんの言葉に疑問を感じ、その意味を質問をしてみた。
 僕がすぐに考える事が出来たのは二つある。

 一つ目は、僕達の力不足…僕達が下手に動いたとしてもギルドの方に被害が及ばない程度の存在だと言われている可能性。
 二つ目は、まるっきり逆…ギルドが下手に動いても僕達の邪魔にはならないであろう程の実力者である場合。
 そのどちらであっても不思議ではない。

 そして、それは当然の様に、後者だった事を知る事になった。

「ん?それはもちろん、君達の実力ならばギルドがどうこうしようが、君達の妨げにはならないだろうと言う事じゃよ。
 そもそも、その…情報を入手するのに使っているプチスライムじゃったか?
 いくらスライムとは言え、多数のスライムをいとも容易く使役しておるプリン殿にしてもそうじゃし、失礼じゃが、クズハ殿は妖狐族ではないですかな?
 実力を隠しておられるようじゃが、実は尻尾は1本だけではないじゃろ?
 そして、ムゲン殿…正直、ワシにはお主の底が見えん…。
 少なくとも、今まで出会ってきた冒険者の中でピカイチの実力を持っておると、ワシは思っておる。
 つまりじゃ、それだけの戦力を保持しておるのならば、下手にギルドが邪魔になったとしても、そうそうリスクになるような事はないじゃろ…と言う事じゃな。」

 クラウスさんはそう言うとニヤリと笑う。
 流石にプリン自体がスライムだとは思わなかった様だが、それでもプリンを高ランクの魔物使いと認識した様だった。
 とは言え、まさか、クズハの正体が妖狐族だと言うのを気が付くだけではなく、よもや尻尾の数まで気が付くとは思わなかった。
 もしかして、『魔王化』の事まで知っているのでは?と心配になるほどの笑みに、ちょっとだけ引きつつ僕達は笑って誤魔化す。

「流石にそれは過大評価しすぎだと思いますけど…。
 ですが、そう言う事なら、僕達は三日後に行動を開始しようと思います。
 その際、少なからず街の方に被害が出る可能性がありますが、そちらの対処をお任せしても宜しいですか?
 それと、その被害に関しての弁償も、冒険者ギルドで持ってくれるとありがたいのですが…。」
「それは、流石に即答出来んのぅ、何せ、被害額にもよるからのう…。
 いくらなんでも、街の一角を吹き飛ばされてはギルドじゃ負担は出来んぞ?」
「で、ですよね?敵の攻撃で街が…ってなった時、損害賠償は誰が払うんだよ?って思いますが…。」

 と、凹み掛けた時、またしても、プリンがその場の空気を読まずに…いや、今回は読んだからかも知れないが、想像以上に物騒な事を言い放つ。

「だったら、街そのものを消してしまえば、弁償しろと言う人もいないのでは?」
「「「はい?」」」

 僕とクラウスさん、更には、クズハまでもが、目を点にして聞き直してしまう。

「ですから、街そのものを…」
「いやいや、さすがにその考え方は可笑しいからッ!?」

 僕は慌てて否定する。

「ム、ムゲン殿…こ、この人は、どんな思考の持ち主なのじゃ!?
 無茶をしない様に、しっかりと手綱をじゃな…。」

 人の恋人を捕まえて変人扱いしているクラウスさんを反射的に睨み付けつつも、肯いて改めてプリンを止めようとする。

「プ、プリンさん…一旦、落ち着きましょう!
 そ、そうです!手に『堕』の文字を3回書いて…」

 いや、クズハ、まずはお前が落ち着け?そもそも落ち着くのであれば『堕』ではなく『落』だ。
 『堕』だと、ダークサイドに堕ちると言ってる様な物だ。
 って言うか、普通は緊張を解す為に、『人』と言う字をだな…。

「そうですか?文句言うヤツがいなければ、文句を聞かなくて済むのに…。
 でも、ご主人様がそう言うならプリンが間違っているのですね?」

 分かっていた…うん、分かっていたのだが、やはりプリンの基準は『僕』を基準に考えている様だ。
 それを考えると、プリンの考えを全否定するのも、何か違う…と考えてしまう。

「プリンの言うのは間違いではないよ?ただ、それは僕達だけの中での判断であって他の人の判断ではない。
 プリンだって、他の人が気に喰わないからと言って他の人に殺されたら嫌だろ?
 もちろん、プリンが絶対に勝てない相手からと言う条件で考えてごらん?」

 それを聞いたプリンは数秒間、目を綴じると思考する…そして、次の瞬間、目を開けた。

「考えました…ご主人様の言いたい事は分かった気がします。
 でも、ご主人様は私を倒そうとしませんよ?」
「ははは…プリンにとって、絶対に倒せない相手は僕なんだね。」
「はい!だって、ご主人様は、私の旦那様ですから♪」

 僕はその言葉に嬉しくなり、プリンを引き寄せると、その唇に…。

『オッホン!』

 クラウスさんは、大きな咳払いを一つ付く。
 それにより、僕は現実に引き戻される。
 確かに、今はそんな事をしている場合ではない。

 しかし、プリンは微妙に殺気を乗せてクラウスさんを睨み付けていた。

「ま、まぁ…アレです。
 先程も言いましたが、三日後、僕達は行動開始します。
 色々とご迷惑をお掛けしますが、改めて、よろしくお願いします。」

 そう言って僕が頭を下げると、プリンとクズハも同様に頭を下げる。
 結局、話し合いの内容としては、三日後に攻撃を仕掛けると言う事しか決まらなかったが、それでもやる事が決まったのには違いなく、会議は終了となったのだった…。
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