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~第六章:冒険者編(後期)~

192ページ目…戦闘準備【1】

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 冒険者ギルドが管理している宿屋を本拠地として、情報収集に勤しむプリンを余所に、僕は隣の部屋で特殊な作業をしていた。
 と言うのも、僕が所持しているダンションのサブマスターとして置いて来たプチスライムから〖念話〗で連絡があったのだ。
 そして、その連絡と言うのが第9階層に設置する様に頼んでいた魔物の設置が無事に完了したとの報告があったのだ。
 もっとも、あくまで配置しただけなので地形も何もあった物じゃないのだが…。
 それでも…素材としてどうしても欲しかったのだから、ダンジョンポイントの無駄遣いだと知りつつも、僕は優先して、そいつ等の配置をお願いして置いたのだ。

 そして、僕はその魔物から、目的だった素材を無事に手に入れていた。
 それ故、今、僕は大急ぎで僕専用の装備を開発していたのだった。

「ご、ご主人様、お茶をお持ちいたしました。」

 そう言って部屋に入ってきたのは、クズハである。
 ちなみに、ノックもせずに入ってきたのを咎める気はない。

 まぁ、装備の開発をしているだけで、変な事をしている訳ではないし、何より、クズハには最初からノックは不要と言っているので問題ない。
 ただし、足下は注意して入ってきて欲しいと思う。
 何故なら、クズハにはドジっ子属性が付いているのだから…。

「とりあえず、そこでストップ!まずは足下を注意し、躓いたりして転けたりしない様にテーブルの上に置いてくれ。」

 どうせ、無駄だと思うけど…と、心の中で付け加えながら、テーブルまでお茶を運んでくるクズハを見守る。
 すると、クズハは予想に反して無事にテーブルにお茶を置き、下がろうとする。

「きゃッ!」

 だが、無事に運び終えて油断したのか、ドジっ子属性が発動したのかは分からないが、クズハは自分の足に躓きバランスを崩すと、後ろ向きに倒れていくではないか。

「危ないッ!」

 その瞬間、何かあった時に助けに入れる様に準備して置いた〖加速アクセル〗の魔法を発動して、クズハを抱える様に受け止める。
 ある程度、予測していた事もあり、何とか間に合い助ける事が出来た訳だが、クズハは僕の腕の中…お姫様だっこの形で受け止められている状態。
 その体勢に、少しだけ恥ずかしいと思いながら、冷静を装ってクズハに尋ねる。

「まったくだから注意したのに…大丈夫か?」
「は、はい…。(ポッ)」

 目を潤ませ、一瞬に顔を茹でダコよろしく真っ赤に染めて俯くクズハに、ドキッ鼓動が激しく胸を打つ。
 そして、クズハはゆっくりと目を綴じ、顎を上げて僕に身を委ねてくる。
 そして、僕はそれに釣られて、ゆっくりとクズハとの距離を縮めていき…。

「って、こんな事やってる場合じゃなかった!
 ごめん、クズハ!今はお預け、今度、埋め合わせをするから僕は作業に戻る!」

 いかんいかん、その場の雰囲気に流されて、クズハにキスをする所だった。
 もっとも、クズハとキスをしたとしても、別に問題がある訳ではない。
 むしろ、プリンとクズハは、僕の事を好きで一緒にいるのだから、彼女たちにとっては、好ましい行為だったりする。

 そして、それは正妻を気取っているプリンも、クズハなら致しても良いとさえ言ってくれている。
 ただし、初めては絶対に私だから!と念を押されているのだから、その場の雰囲気に流されてはいけない。
 そして、言い訳になるが、僕は、今は新装備の開発で忙しいのだ。

 何故なら、今回の聖騎士団の後ろには『零の使い魔』と名乗るヤツ等の存在が見え隠れしている。
 そして、彼奴等あいつらは、目的の為なら、手段を選ばない傾向がある。

 何せ、今でこそ僕のダンジョンになっているが、捜し物をすると言うだけの理由で、邪魔な冒険者達を排除する為に、メルトの冒険者ギルドが管理しているダンジョンを、強制的に溢れさせると言う、テロ紛いな事まで平気でやるヤツ等なのだ。
 その為、僕は何があってもプリンやクズハを守れる様に…と、出来るだけ強力無比な武防具を作り出さなければいけないのだ。

 そして、その事は、作業を始める前に、しっかりとその事を二人に話している。
 つまり、僕が本気で取り組んでいるのだから、決して邪魔をするなと宣言したに等しい。
 その所為で、自己中的なプリンですら、僕とのイチャ付きタイムを我慢して情報収集してくれているのだ。

「す、すいません…ご主人様、私、お仕事の邪魔を…直ぐに退出しますので!」

 その事に気が付いたのか、クズハが慌てて僕の腕から抜け出し、離れ様とする。

「あッ!でも、慌てると転ぶから気を付け…。」
「きゃッ!」

 次の瞬間、言うが早いか転けるが早いか…クズハが、再びバランスを崩して倒れてしまう。
 そして、今度は救出するのが間に合わず、物の見事にスカートが捲れて大事な部分を隠す布が見えた。
 その為、慌てて視線を逸らすが、先程見えた物はくっきりと記憶に刻み込まれてしまった。

「ご、ご主人様…み、見ちゃいました?」
「い、いや見てないぞ!黒…じゃなかった、急いで視線を逸らしたから…。」
「あうぅ…で、でも…恥ずかしいですけど、ご主人様になら全てを…で、でも~、やっぱり恥ずかしいです~。」

 見て欲しいのか、見られたくないのか、クズハが、困った顔をしている。
 だが、おそらくクズハよりも僕のほうが困っていると思うのは気の所為だろうか?

「と、とりあえず、まずは落ち着いて部屋から出ようね?
 僕は、その…作業に戻るから…。」

 未だに、『あぅあぅ』言っているクズハの頭を撫でて落ち着かせると退室をお願いする。
 その後、苦労の甲斐あって何とか落ち着いたクズハは、今度は転ばずに部屋から出て行く事に成功した。

 普段は有能なメイドさんをやれるのに、何故か、ここぞとばかりドジっ子ぶりを発揮するのか…もしかしたら計算してやってるのでは?と思う事もあるのだが、残念ながら、クズハのドジは天然物である。

 その為、何時起こるのか誰も予想が出来ないし、ドジった事でより慌てる為、連鎖反応の如くドジを連発する。
 それを考えたら、今回は直ぐに収まったのは僥倖かもしれない。

 僕は、クズハが出て行ったドアを眺めつつ、作業を再開する。
 もし、誰かが先程の僕達を見ていたとするならば、その顔からは、原因不明の不安を含んだ顔ではなく、微笑ましいと笑みを浮かべて、からかって来ただろうな…と、そんな妄想をしながら、僕は作業に没頭していくのだった…。
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