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~第六章:冒険者編(後期)~

160ページ目…目指せ、聖王都【1】

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 ラオンさんと別れた僕達は、急いで家へと帰ってきていた。

「と言う訳で、居るか居ないか分からないが、例の男を捜す事となったんだけど…みんなはどうする?
 正直な話、もしも例の男が『零の使い魔』だった場合、今までの様に無事に帰ってくる事は出来ないと思う。
 なので、出来れば、みんなには残って欲しいと思うんだけど…。」
「ご主人様、私もお留守番なんですか?」

 と、プリンが、いの一番で聞いてくる。

「いや、相手が本当に『零の使い魔』だった場合、『魔王化』が必要になると思うから、プリンは一緒に来て欲しいと思っている。」

 そもそもな話、ラオンさんは、僕とプリンに対して指名依頼をしたのだから当然と言えば当然の選択である。

「では、私はご主人様と一緒に行きますね。」

 まぁ、最初から断るとは思っていなかったが、これでプリンが同行するのは決まりだ。
 後のメンバーがどうするかなんだが…。

「それで、プリンは付いてくるとして…他の人達は?」

 次に反応したのはブラウニーであるアリスだ。

「御主人様、私も付いて行きたいと思うのですが、私は家を離れる訳にはいかないので、今回もお留守番で宜しいでしょうか?」
「あぁ、アリスが来れないのは、ブラウニーだから仕方がないよ。
 とは言っても、向こうに着いたら〖魔法:空間転移ゲートト〗を使って呼べば、買い物とか食べ歩き位は出来ると思うよ?」

 そして、次に反応したのは…。

「主、肉あるか?」
「う~ん、どうだろ?まぁ、聖王都と呼ばれるほどの街なんだから、食べる物は多いと思うけど、それが美味しいかは別問題だぞ?」
「うぐぅ、美味しい物食べたい、でも、無いかもしれないのは困る。」

 流石、我が家の食いしん坊、やはり行動の原理は食い物に左右されるようだ。

「分かった、だったら、ローラは串焼きを買える様に、お小遣いをあげるから、お留守番の方が良いかもね?
  それに、聖王都に着けば、アリス同様に〖空間転移〗で呼べば良い訳だし…。」
「分かった、ローラ、お留守番する。」

 正直、ローラも強くはなっているが、『零の使い魔』が相手だった場合、ローラはまだ戦力外と思えるのだから、お留守番をしてくれた方が安心出来る。
 まぁ、相変わらず串焼きに釣られるのはどうかと思うが、自由奔放なのだから、それは仕方がないだろうと思う。

「それで…クズハはどうする?」

 そして、最後まで反応しなかったクズハに声を掛ける。

「え、えっと…その…ご迷惑とは思いますが、私も付いていきたいと思います…。
 あ、でも調査のお手伝いと言う訳ではなく、あくまでご主人様の身の回りのお手伝いと言う事で…です。」
「そっか…確かに、僕とプリンだけだと、色々と不安要素がいっぱいだからな…。」

 正直な話、プリンと二人きりだと、何が起こっても不思議じゃない気がする。
 それに、僕達は、それほど家事が得意ではない。
 そうなると、移動の際、野宿した場合、食事がかなり質素な物になる可能性がある。

 まぁ、実際には、〖空間転移〗で家に戻ってきそうな気もしなくはないのだが、クズハがいれば、わざわざ戻ってこなくても良いと思われる。
 それほど、クズハの家事スキルは高くなっているのだ。

「い、いえ…私なんかいなくてもご主人様達なら、何も問題は無いと思います。
 ですが、その…わ、私がご主人様と一緒にいたいと言うか…何と言うか…その…。」

 最後の方は何と言っているか分からないが、顔を真っ赤にしながら俯いて話すクズハ…尻尾の数も増えて、種としては成長したはずなのに、自信なさげに話すのは相変わらずの様だ。
 とは言え、これで全員の意見は聞いた事になる。

「さて、コレで、みんなの予定が決まった訳だが、今回の聖王都行きは、いつもなら時間短縮の為として高速移動用ゴーレム通称:車で移動するのだが、今回はしない。
 と、言うよりは、出来ないと言うのが正しい。
 ラオンさんに言われたのだが、あくまでも、今回は普通の冒険者として行動して欲しいとの事だったので、このメルトの町で馬車か竜車を借りるか乗り合い馬車での移動と言う事になっている。」

 ちなみに、乗合馬車とはバスみたいな物だ。

「ご、ご主人様、何故、車ではダメなんですか?」

 事情を知っているプリンと違い、事情を知らないクズハが聞いてくる。

「あぁ…元々、車と言う物は、こっちの世界には無いものだからね。
 そんな物に乗って聖王都に行ったりしたら、色々とトラブルが起きるだろうから…と、ラオンさんから、今回は普通の移動手段を使ってくれと注意されたんだよ。」
「へ~、そうだったんですね。」

 一瞬、クズハが返事したのかと思ったが、声の主はプリンか…って、プリンさん?僕と一緒に聞いてましたよね?
 それとは別に、クズハが返事もせずに考え込んでいる。
 いったい、クズハは何を考え込んでいるのだろう…。

「あ、あの…車がダメと言うのは、外見が問題ですよね?」
「あぁ、あんな外見の物なんて、こっちの世界にはない物だからね。
 だからこそ、馬が引く馬車や、トカゲの化け物の様な地竜が引く竜車でって話なんだけどね?」
「で、ですよね…だったら…でも、材料が…あ、でも時間が…ぶつぶつ…。」

 珍しく、クズハが悩む様にブツブツと言っている。

「えっと…クズハ、何か思い付いた事でもあるのかな?」
「あ、はい…いえ、何でも…で、でも、もしかしたら…。」
「ごめん、僕にも分かる様に言って貰えるかな?」
「ご、ごめんなさい!えっとですね…。
 車の外見が問題で行動に遅れが出るのであれば、馬車の形をしたゴーレムを作れば…と思ったんですが、時間も掛かるし…そんな簡単には無理…ですよね?」
「馬車の形のゴーレム…か、その形で作る意味が分からないが、馬車の形ではなく、馬の形のゴーレムを作り馬車を引かせると言うのであれば、比較的早く出来るんじゃないかな?
 なお、問題としては、馬の強度とか力がどれだけ出るかなど、材料の問題もある。
 鉄鋼を手に入れるにしても、鍛冶ギルドを通して別けて貰わないと、なかなか確保が難しい。」
「そ、それなんですが、ダンジョンに、アイアンゴーレムを作り出して、材料確保…なんて事が可能だったりしませんか?」

 何故か、いつも以上に食い下がるクズハ…だが、その考えは非常に良いアイデアかもしれない。

「あ~…確かに倒す前に分離させたパーツを回収出来れば、ドロップアイテム扱いになるから…。」

 そこまで考えて、その方法は案外上手くいくのでは?と思い、ダンジョンマスター代理のスライムに〖念話〗で声を掛ける。

〔もしもし、聞こえるかな?〕
〔これはご主人様ボス、はい、聞こえております。〕
〔えっと…ダンジョンポイントが足りるか分からないけど、魔物リストの中にアイアンゴーレムとかの…素材が回収出来そうな特殊ゴーレムは載っているかな?〕
〔ちょっと待ってください…今、確認を…。
 え~…あった、これですね。
 やはりダンジョンポイントを結構消費する様ですね。
 通常の魔物の10倍近くの消費が必要になりますが、それほど余裕がある訳では無いですが、作れない訳ではないですね。〕
〔そうか…だったら、僕がそちらに向かうので、それからゴーレムを作ってみようと思う。
 その時は、手伝ってくれるかな?〕
〔もちろんです、仮に我が身が砕けようとも、お相手させていただきます。〕

 うわ、なんたる忠誠心…プリンのヤツ、良い仕事してるわ…。
 予想以上にハイスペックのスライムの様だと、改めて思った。
 とは言え、今はあまり時間がないので…いちいち考えているのではなく、ダンジョンに向かうのが先決だ。

 僕は急いで〖魔法:空間転移ゲート〗を使い、ダンジョンへと飛ぶのであった…。
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