けもの

夢人

文字の大きさ
上 下
134 / 199

秀吉の死10

しおりを挟む
 家康が率いる東軍が反転をした。家康の仕組んだ芝居が功を奏したようだ。すでに天海の姿もなく鼠も消えた。だが家康の紅軍はゆっくりしたものだ。時を測っているのだ。狗は高虎の軍から離れて山に中に入る。合図の笛の声が聞こえた。これはぬんじゃ出ないと聞こえないのだ。
 藪の中から顔を出したのは蝙蝠が使っている下忍だ。
「三成は関が原に向かっています」
 ともにここを戦いの場として決めていたようだ。蝙蝠から渡された地図の控えを渡す。
「元々三成が陣地を決めたようですが、最終的には各武将がめいめいに決めたと言うことです」
 同数らしいが西軍はまとまりがないようだ。
「西軍はそれぞれが個別で戦う形になっていますし、どうも調べたところ戦闘意欲のない武将も多いのです」
 蝙蝠が手のものを潜ませて調べたようだ。それに比べて東軍は家康の軍だ。どこか昔同じ風景を見たと狗は思った。あれは天王山の戦いだった。あの時の光秀が三成なのだ。今の天海は光秀だが中身は果心居士なのだ。
「とくに毛利軍を見張るのだ」
 狗は伝えると軍を追いかける。追い付くと高虎の馬の傍に寄る。
「この地図を家康殿にお持ちください。西軍の配置図です」
「まさか?」
「すでに家康殿は東軍の配置を天海殿の密偵が調べて決めているのです。とくに毛利の動きが鍵となります。それに積極的に打って出ない西軍には手を出さず三成軍を攻められることをお勧めします。でもこの陣形では大谷殿が要注意です」
 どうも厳しいところに当てられているようだ。高虎は馬を走らせてその地図を家康の届けに行く。その後ろに狗は側近として付く。地図を先に受け取った家康はすぐに招いた。
「いい部下を持っているな?」
と家康は機嫌がいい。
「戦いに間に合うように秀忠の軍を出発させた」
 と言うことは倍以上東軍が有利になるわけだ。三成は上杉が追いかけても戦ってくれると思っていたのか。どうも頭の中で戦いが先行しているようだ。
 だが家康も三成に勝っても秀頼を担ぐ大坂城が残っている。まだ戦いは始まったばかりだ。次の次を考えるのが家康であり天海なのだ。狗はどこまで高虎と共にするのかも考えなければならない。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

氷の沸点

藤岡 志眞子
歴史・時代
「狐に幸運、人に仇」の続編。 親戚同士で幼馴染の久尾屋の娘、千陽(ちはる)と、天野 夏以(なつい)は仲が良く初恋同士でもあった。 しかし、恋心が芽生える前から結婚はできないからね、とお互いの両親から言われ続けて年頃を迎える。 薬師見習いとして久尾屋に奉公に上がった夏以は、恋焦がれる千陽に婚約者がいる事を知る。 婚約者の遠原 和葉(とおはら かずは)、本名を天野 桂樹(あまの けいじゅ)。そして入れ替わったもうひとりの人物。 関わる者の過去、繋がりにより急展開していく四人の人生。(狐憑き)の呪いは続くのか。 遠原 和葉目線、天野 桂樹目線、祥庵目線(他、人物目線)と、様々な人物のストーリーが交錯していきます。 伏線回収系ストーリー 36話完結。 (※二十歳以下の登場人物の年齢に三歳足すと現代の感覚に近くなると思います。)

堤の高さ

戸沢一平
歴史・時代
 葉山藩目付役高橋惣兵衛は妻を亡くしてやもめ暮らしをしている。晩酌が生き甲斐の「のんべえ」だが、そこにヨネという若い新しい下女が来た。  ヨネは言葉が不自由で人見知りも激しい、いわゆる変わった女であるが、物の寸法を即座に正確に言い当てる才能を持っていた。  折しも、藩では大規模な堤の建設を行なっていたが、その検査を担当していた藩士が死亡する事故が起こった。  医者による検死の結果、その藩士は殺された可能性が出て来た。  惣兵衛は目付役として真相を解明して行くが、次第に、この堤建設工事に関わる大規模な不正の疑惑が浮上して来る。

魚伏記 ー迷路城の姫君

とりみ ししょう
歴史・時代
(わたくしを、斯様にも想ってくれるのか、この子は……。) 「私の夢がかなうとすれば、それを姫さまに、見ていただきたかった……!」 「約定じゃよ、新三郎どの。」 本編完結。番外編連載中です。 戦国・永禄年間の北奥州・津軽。 蝦夷代官家の三男坊の少年、蠣崎天才丸(のちの新三郎慶広)と、名族浪岡北畠氏の姫君の、恋と戦いの物語。 少年が迷路の果てに見るのは、地獄か、極楽か。 蝦夷島自立の野望を秘めた父の思惑で、故郷松前を離れ、北奥州きっての名族の本拠地・浪岡城に送り込まれた数え十三歳の聡明な少年は、迷路のごとく入り組んだ城のなかで、城の構造そのものの複雑な人間関係に触れることになる。謎めいた陰のある姫君に仕える日々。やがて天才丸は、姫と忌まわしい過去を共有するらしい美貌の青年武将に、命がけの戦いを挑む羽目にもなった。 やがて元服し、猶子として「御所さま」に認められた天才丸改め新三郎は、次第に姫さまと心通わせるが、蝦夷島の実家での悲劇に、さらには浪岡城と浪岡北畠氏をゆるがす惨劇「川原御所の乱」とそれに続く内紛にしたたかに翻弄される。 傾いていく浪岡北畠氏の本拠地で、新三郎 とさ栄姫の二人は齢も身分も越えて、身も心も寄り添わせていくのだが……

マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと
歴史・時代
1600年9月 後に天下人となる予定だった徳川家康は焦っていた。 ーーこんなはずちゃうやろ? それもそのはず、ある人物が生きていたことで時代は大きく変わるのであった。 果たして、この世界でも家康の天下となるのか!?  そして、豊臣家は生き残ることができるのか!?

大東亜戦争を回避する方法

ゆみすけ
歴史・時代
 大東亜戦争よ有利にの2期創作のつもりです。 時代は昭和20年ころです。 開戦を回避してからのラノベです。

示現流見届け人

工藤かずや
歴史・時代
無外流道場へ通う一文字織部は、道場主の娘小夜に好意を持っていた。 が、入門して一年、いまだに切紙にもなれない織部に小夜は愛想をつかした。 すでに免許取りである師範代の宮森兵部に小夜は惹かれていた。 武道家の娘なら当然である。 自らも免許取りとなるべく一念発起し猛稽古を始める織部に、親友の頼母が言った。 剣道の免許皆伝は別名一万面とも言われ、一万日すなわち三十三年猛稽古をしなければ取れないと言われていた。 では、なぜ兵部は若くして免許を取っているのか。それは天賦の才としか言えなかった。 どうしても小夜を忘れられない織部は、真剣でのでの真剣での実戦で行くしかなかった。 親友頼母から薩摩示現流の形を教わった。 人を斬るには道場の竹刀稽古より、真剣の示現流である。 すべては小夜の心を捉えるべく、真剣勝負の世界へ飛び込んでいった。 示現流を使えることを知った目付の大野掃部は、織部に上意討ち見届け人役を命じた。

東洋大快人伝

三文山而
歴史・時代
 薩長同盟に尽力し、自由民権運動で活躍した都道府県といえば、有名どころでは高知県、マイナーどころでは福岡県だった。  特に頭山満という人物は自由民権運動で板垣退助・植木枝盛の率いる土佐勢と主導権を奪い合い、伊藤博文・桂太郎といった明治の元勲たちを脅えさせ、大政翼賛会に真っ向から嫌がらせをして東条英機に手も足も出させなかった。  ここにあるのはそんな彼の生涯とその周辺を描くことで、幕末から昭和までの日本近代史を裏面から語る話である。  なろう・アルファポリス・カクヨム・マグネットに同一内容のものを投稿します。

天啓の雲

古寂湧水 こじゃくゆうすい
歴史・時代
草競馬の馬券師から年収850兆円の世界一の長者へ。痛快無比勝ち組の物語 主人公が陶芸家で仏教派閥の門主という設定ですがロスチャイル〇やロックフェラ〇を叩きのめし世界一の長者まで上り詰めました。 またアフガンやシリアを転宗させて解決をするなどノーベル賞や英国最高のガーター勲章や仏国のレジオンドヌール勲章を受勲。 茶道の千利休や小堀遠州も出てきて楽しませてくれます。まあ、利休は秀吉に尿瓶をルソン壺の茶壷として売ったのが発覚して殺されたことになっていますけれどね。 見どころはK国に盗まれた仏像の奪還に露死阿の大統領公邸に桐野利秋や村田新八の薩摩軍に新選組それに新門辰五郎や清水次郎長に国定忠治の任侠連合軍が突入するところです。 四菱重工や四菱商事にユニシロの企業買収もやっていますが、勝ち組の物語ですのでどうぞお楽しみください。でも、なんといっても最高のウリは作者の発想力ですかね。はっはっはっ。 ☆ほぼ毎日更新をしています☆

処理中です...