式神

新生9

　堺の商人の定期船に揺られて朱雀は堺に向かうこととなった。内海を中心にゆっくりと走る。朱雀は客席から甲板に出て揚羽の文を読む。今揚羽は秀吉の元を離れ秀次の元に送られている。ここには黒田官兵衛も付けられている。
「・・・茶々が子供を産んで秀吉はすべて三成に任せたようになっている。武闘派は不満でそれを家康がうまく取り込んでいる。その武闘派に官兵衛の息子が交じっている。これも策かと・・・現在関白となっている秀次も粛清されるのではないかと噂されている。それと秀吉を支え続けてきた秀長の寿命も尽きかかっている。家臣団の均衡が破れる時・・・」
　揚羽の文は大きな激動の時が来ていることを感じさせる。朱雀はその間アユタヤ語を繰り返し読み賀茂家の次の姿を考えていた。鬼女が守ろうとしている賀茂家と陰陽道も朱雀にはそれほど魅力がない。
「私もそろそろ秀吉から離れる時期だと思っている。宗久様からも平戸島に来いとある。宗久様は大返しの後秀吉から離れて行った。信長の重石が外れて逆に自分を失ったようだと。側で見ていてその通りだと思う」
　揚羽の気持ちがつづられている。戻ったら動こうと思った。
　もう十分飽きた頃堺の港が見えた。定期船を降りると宗久が文を出していたのか揚羽が迎えた。
「走りながら話ができる？」
「ああ、どこに行く？」
「大坂城に呼び戻されたの」
「何かあったのか？」
「三成に呼び戻されたの。最近は秀吉ではなく三成が命令を出すのよ」
「三成が何を仕掛けた？」
「秀次の切腹よ。これは茶々の我儘を三成が受けた形なの。この二人の子ではないかとも噂になっている。今のうちの関白の秀次を潰す気なのよ。その罠に秀次も嵌ったわ。これは黒田官兵衛も１枚噛んでいるわ」
「なぜ官兵衛が？」
「これは家康も絡んでいる。どうも秀次に謀反を働きかけているようなの。あの蠍が腰元で秀次に抱かれいる」
「相変わらずだな」
　話しているうちに大坂城が見えた。ここで朱雀は揚羽と別れて薬問屋に戻った。驚いた礫が出て来た。もう立派な商人だ。