式神

覇権17

　鬼女から呼び出しがあって大坂から戻って関白邸に入った。すでに鬼女には秀吉関白説の文を送っていた。今賀茂家には有効な動きができる式神はいない。
「実は昨日の会議で秀吉殿関白が決められたのだ」
　まるで知らあなかったというふうに聞こえる。一条兼良が反対から一転して賛成に回ったのだ。それだけでなく我が派も半分賛成に回ったのだ。上奏の説明は何と天海が行ったという。
「前関白が動いたようだ。話は鬼女から聞いておったがまさかと。秀吉が関白になったら私の席はなくなるのだ。だがすでに詔前に秀吉と家康と調整が出来ているというのだ」
　天海が家康を始め強硬派を説得したようだ。秀吉は三成が細川藤孝を中心にまとめたようだ。すでに権力を動かす層が変わってしまっているのだ。
「一条兼良は？」
　鬼女が関白に聞いた。
「彼は朝廷の実質的な関白補佐を選んだようだ。だがこういう調整をできる者はいないはずだ」
　関白は相当熱くなっている。本当のことを伝えるしかない。
「それは細川藤孝です」
「まさか！」
「藤孝は実は黒田官兵衛にも秀吉にも家康にも信長の死に係わっていることを知られています。だが関白殿が今は煙たくなっているのです」
「それが仇になったのか。藤孝は将軍の時や光秀の時と同じように切ったわけだな」
　切った光秀とまた組んだとは藤孝も思ってもみないだろう。
　萎んだ関白を置いて鬼女と外に出る。
「光栄がまた天文方から外されるわ」
　鬼女も元気がない。
「薬問屋になるのね？でもそれだけでもしていて助かるのかもしれないけど」
「何とか手を打って見ます」
　朱雀には切り札があるのだ。どうそれを使うかはこれから考えるしかない。