式神

夢人

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和解20

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 夜明けを1刻も過ぎても揚羽が現れない。光栄が出仕のために玄関を出た。まさか光秀をまだ見張っているのだろうか。今日から付き人は戻ってきた蝦蟇に代わっている。その蝦蟇が背中に人を抱えて駆け込んできた。光栄が倒れたのか。
「揚羽か!」
 全く生気がなくぐたりとしている。
「怪我はしていないが意識が戻らないのだ。門前に寝かされたいた」
 朱雀が体を揺するが反応は全くない。だが鼻に顔を寄せると力は弱いが呼吸はしている。騒ぎに静香と鬼女が出てきている。
「朱雀、私の部屋に運びなさい」
 朱雀が揚羽を担ぎ地下の鬼女の祈祷室に運び込む。静香は布団を運んできて床の上に敷く。それから慌ただしく水を運んでくる。鬼女が揚羽の目を覗き込んでいる。
「術を掛けられている。だが安倍の術ではないな」
 それを聞いて朱雀は光秀の元にいるだろう果心を思い出した。鬼女は思い出したように自伝書を慌てて捲る。揚羽の腕なら忍者がここまで打撃を与えることはできない。
「記憶を失わせる術がある。これは昔からある術だが伝書では廃人になることが多いと警告している」
 それを聞いて朱雀は不安でたまらない。だが今日はこれから礫を連れて本願寺の撤退を確認することになっている。揚羽からは本願寺の最後の反逆を警戒するように言われている。関白からは条件の確認をするようにと。明日が撤退の日となる。
 朱雀は心を引かれながら礫と山道を走る。通り道になる街道には織田の兵が集まっている。日が暮れるのを待って本願寺に入る。山門の中は荷台で溢れている。女年寄りが目立つ。今頃本願寺の鉄砲隊は長島で暴れているのだろう。小猿が門から出迎える。
「ご苦労だったな?」
「顕如様が部屋で待っておられています」
 小猿が廊下を通り顕如の部屋に案内した。顕如は急にふけたように見えた。
「朱雀世話になったの。関白殿によろしくな。だが長島の門徒達が心配だ。もはや私のことは聞かぬゆえになあ」
「明日は?」
「丸一日かかるな。織田家では明智殿が引き渡しに来るとか?」
 明日は朱雀も小猿も礫も顕如の御輿の側に付くことになる。一つの時代が終わったことになるのだろうか。







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