式神

包囲網18

　天文方は賀茂信行の後暗い噂の中倍晴明が引き継ぎ今は吉晶が継いでいる。だが重要なことはすべて今でも晴明が指揮していると言う。吉晶は女癖が悪く評判は良くない。光栄は取りあえず一番低い身分で天文方に入った。だが彼の偉いのはまったく憂鬱ではなくコツコツ勤めている。賀茂家はようやく生き残りの光が見えてきた。
　その頃長篠の戦で信長の鉄砲隊で武田の騎馬隊が壊滅したと言う噂が流れてきた。
　ここのところ朱雀は関白と蓮如の間を行き来している。書状は見ていないが蓮如の様子から和解案はずいぶん煮詰まっているようだ。その度に揚羽の式神に秀吉に関白の文を渡している。姫路城では官兵衛が人質に捕えられて揚羽が探索に出ているようだ。ここは秀吉は手柄を立て挽回したいところだ。
　朱雀は関白の文を持って本願寺の天井裏に潜る。だがいつもと違い異様な空気だ。柱に小猿が縛られている。朱雀は剣を抜いて構える。
「しばらく待て」
　声が後ろからして剣を取られる。果心だ。と言うことは。部屋を覗くと明智光秀が蓮如と座っている。
「秀吉様を出し抜くつもりですか？」
「いや、これは信長の命だ。二人に命じていたのだ」
「・・・」
　こういう駆け引きは分からない。
「朱雀とは戦いたくない。分かったか？」
「はい。でも伝えることは？」
「いいさ」
「武田も滅びました。毛利も時間の問題です」
　光秀が言う。
「やはり本願寺を捨てるしか道はないか？」
　何とそんな強い条件を出したのか。これでは勝てない。静に光秀は立ち上がった。呆気に取られているともう果心の姿はない。確かに朱雀と果心は戦う必要はない。
　賀茂家に戻ると鬼女に報告した。鬼女はその足で関白邸を訪ねる。鬼女は賀茂家の手柄として関白にこの蓮如の和解条件を伝えた。朱雀はそれを正確に文にして揚羽に送ることにした。