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二度目の青春
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舞台の夜、ホワイトドームに戻ってきてみんな朝まで酔いつぶれた。そのままカウンターで演技の続きをしている者もいる。参加できなかったユキが眠たくなるのをこらえて見ている。目玉さんもギターを弾きながら自分の世界に入ってしまっている。団長と周平は定位置の片隅でちびちび小瓶のビールを飲んでいる。
「これからどうしようか?」
これは周平が自分に問いかけている。
「私今回初めて舞台の脚本を書いたけど、まるでアンさんが乗り移ったようにすらすらペンが走った。夢の中にどんどん情景が現れてくるの」
「完全に母の中に入っていたよ」
「私まだ書き足りないの。アンさんがもっと書いて!と叫んでいる。私には記憶がなかったけど、アンさんの記憶が私の記憶に置き代わろうとしている。どんどんアンさんの感情が押し流されてくる」
「君を抱くと言うのは団長と母を抱くことになるのか?」
「アンさんは喜んでいる。これは今までは分からなかったのだけど、今回この舞台を演じてみて一つ大きな事実にぶつかった」
団長の目が異様になまめかしく光っている。
「アンさんは周平に恋していたと思う。ひろしの自身を銜えるシーンで私はそれを感じた。だから自分を周平から引き離そうとし続けたと思う」
確かに心のどこかに押し付けていた不確かなぼやけた記憶がある。どうもあのシーンがそれを蘇らせてしまったようだ。あのシーンに至る話を団長にはしたことはない。家を出て大学に通うまで、周平は体中の力が抜けるように眠った日は朝立ちしないほど疲れているのだ。そういう朝はアンはいつの間にか部屋からいなくなっているのだった。
こんなこともあった。珍しく母が昔勤めていた寿司屋に一人で入ったことがあった。80歳近いお婆さんが、
「いつ戻ってきたんや」
と周平に声をかけてきたのだ。どうも周平は母似ではなく父似だったようだ。そのことを母に話すと急に怒り出して二度と寿司屋に行くなと叫んだ。色々な記憶がよみがえってくる。
「アンは二度目の青春を私の体を借りて迎えるのだわ」
団長の声が確信に満ちていた。
「これからどうしようか?」
これは周平が自分に問いかけている。
「私今回初めて舞台の脚本を書いたけど、まるでアンさんが乗り移ったようにすらすらペンが走った。夢の中にどんどん情景が現れてくるの」
「完全に母の中に入っていたよ」
「私まだ書き足りないの。アンさんがもっと書いて!と叫んでいる。私には記憶がなかったけど、アンさんの記憶が私の記憶に置き代わろうとしている。どんどんアンさんの感情が押し流されてくる」
「君を抱くと言うのは団長と母を抱くことになるのか?」
「アンさんは喜んでいる。これは今までは分からなかったのだけど、今回この舞台を演じてみて一つ大きな事実にぶつかった」
団長の目が異様になまめかしく光っている。
「アンさんは周平に恋していたと思う。ひろしの自身を銜えるシーンで私はそれを感じた。だから自分を周平から引き離そうとし続けたと思う」
確かに心のどこかに押し付けていた不確かなぼやけた記憶がある。どうもあのシーンがそれを蘇らせてしまったようだ。あのシーンに至る話を団長にはしたことはない。家を出て大学に通うまで、周平は体中の力が抜けるように眠った日は朝立ちしないほど疲れているのだ。そういう朝はアンはいつの間にか部屋からいなくなっているのだった。
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「いつ戻ってきたんや」
と周平に声をかけてきたのだ。どうも周平は母似ではなく父似だったようだ。そのことを母に話すと急に怒り出して二度と寿司屋に行くなと叫んだ。色々な記憶がよみがえってくる。
「アンは二度目の青春を私の体を借りて迎えるのだわ」
団長の声が確信に満ちていた。
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