夢追い旅

夢人

文字の大きさ
上 下
233 / 248

二度目の青春

しおりを挟む
 舞台の夜、ホワイトドームに戻ってきてみんな朝まで酔いつぶれた。そのままカウンターで演技の続きをしている者もいる。参加できなかったユキが眠たくなるのをこらえて見ている。目玉さんもギターを弾きながら自分の世界に入ってしまっている。団長と周平は定位置の片隅でちびちび小瓶のビールを飲んでいる。
「これからどうしようか?」
 これは周平が自分に問いかけている。
「私今回初めて舞台の脚本を書いたけど、まるでアンさんが乗り移ったようにすらすらペンが走った。夢の中にどんどん情景が現れてくるの」
「完全に母の中に入っていたよ」
「私まだ書き足りないの。アンさんがもっと書いて!と叫んでいる。私には記憶がなかったけど、アンさんの記憶が私の記憶に置き代わろうとしている。どんどんアンさんの感情が押し流されてくる」
「君を抱くと言うのは団長と母を抱くことになるのか?」
「アンさんは喜んでいる。これは今までは分からなかったのだけど、今回この舞台を演じてみて一つ大きな事実にぶつかった」
 団長の目が異様になまめかしく光っている。
「アンさんは周平に恋していたと思う。ひろしの自身を銜えるシーンで私はそれを感じた。だから自分を周平から引き離そうとし続けたと思う」
 確かに心のどこかに押し付けていた不確かなぼやけた記憶がある。どうもあのシーンがそれを蘇らせてしまったようだ。あのシーンに至る話を団長にはしたことはない。家を出て大学に通うまで、周平は体中の力が抜けるように眠った日は朝立ちしないほど疲れているのだ。そういう朝はアンはいつの間にか部屋からいなくなっているのだった。
 こんなこともあった。珍しく母が昔勤めていた寿司屋に一人で入ったことがあった。80歳近いお婆さんが、
「いつ戻ってきたんや」
と周平に声をかけてきたのだ。どうも周平は母似ではなく父似だったようだ。そのことを母に話すと急に怒り出して二度と寿司屋に行くなと叫んだ。色々な記憶がよみがえってくる。
「アンは二度目の青春を私の体を借りて迎えるのだわ」
 団長の声が確信に満ちていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

夢喰人ーユメクイビトー

レイト.
ミステリー
あなたは、怖い夢や悲しかった時の夢を食べてくれる「夢喰人」と言う怪人が存在したら「夢」を食べてもらいますかーー? 誰しもが一度は体験した事がある「悪夢」。 大抵の人は、悪夢を見ることがあっても「怖い夢だったな…」「災厄だ…」と言った形であまり気にも留めていない。ましてや、どんな夢だったのかも覚えていない事もある。 その一方で、悪夢に魘される人も多い。現実で悲惨な光景をみたり、体験をしたりと言った経緯で毎晩のように魘され生活に支障が生じる人も中にはいる。 そんな悪夢に魘される人の前に現れ夢を食べてくれる怪人「夢喰人」ーー。 高校二年の田中 優希は、夢喰人の噂を親友の工藤 和也に教えてもらった。 そんな、怪人なんてよくある怪談や都市伝説の類だと思っていた。 優希にはなぜ和也がそんな噂を教えてくれたのか心当たりがある。 親友だから、世間話、暇つぶし程度に言った事ではない。 和也は「夢喰人」を探しているからだ。 和也は、小さい頃からたまに同じ悪夢を見ることがある。 高校二年生になってからそれは、頻度を増し和也を苦しめていた。和也の兄 工藤 正は、和也達と川遊びをしてる最中に不幸なことに川に流されて亡くなってしまった。それっきり、和也はトラウマを抱え悪夢を見るようになってしまった。 悲惨なトラウマを忘れる事はできない、でもいつまでも悪夢に魘される必要なんてないと思う優希は、和也の手助けができないか考えていた。 優希自身も、とある夢に悩まされているから気持ちがわかる。 そうな、事を心に思いながらーー。 そんな、ある日 突然 和也は悪夢を見なくなった。原因はわからないがこれで魘される事はないと少し何処か引っかかる感じがしたが安心した。 しかし、和也は一部の兄に関する記憶が改変されていた。 本当の彼を知っているのは、優希だけになってしまう。どうして、記憶までもが改変されているのかと疑問を浮かべていた。 ある事を、思い出してしまう。 夢を食ってくれる怪人「夢喰人」の事をけれども優希は、空想上の怪人なんているはずがないと考えていた。 一学年上の先輩 長澤 綾野が悪夢に魘されている事を知るまでは・・・。

貝殻の秘密

Yonekoto8484
ミステリー
父親と祖母と3人暮らしの志穂(16歳)。ある日,いきなり倒れ,深刻な病気であることがわかる祖母から,衝撃的な真実を知る。「大きな秘密が隠されている」と言う不思議な貝殻を受け取る志穂は,その貝殻を手掛かりに,自分の本当の親を探し出そうと決心するのだが…。

リセットボタン

井上桃子
ミステリー
リセットボタン それは、誰もが一度は思うこと「あの頃に戻ってもう一度やり直したい」 それが3回叶うボタンである リセットボタンのルール ・一度戻った時に2度と戻れない ・人の生死に関わるリセットは、代償が支払われ、未来に起こるものと交換される ・生死のリセットは、本人以外に適用されるが、2度目は使えない ・生死に関わるリセット及び人生の分岐点で2度と起こらない時に押すときは、必ず警告表示がされる ・警告表示がされたリセットは、二度と戻れない ・時間軸は、一番最初に戻した過去には戻れない ・3回目のリセットボタンを使ったらボタンは消失し、それまでの過去に戻った2度の記憶は抹消される ※注意※ このリセットボタンは、2回までをおススメする 3回目を押さない人生を歩むことを強く願う あなたの人生が、これから先幸多からんことを願っている

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

7月は男子校の探偵少女

金時るるの
ミステリー
孤児院暮らしから一転、女であるにも関わらずなぜか全寮制の名門男子校に入学する事になったユーリ。 性別を隠しながらも初めての学園生活を満喫していたのもつかの間、とある出来事をきっかけに、ルームメイトに目を付けられて、厄介ごとを押し付けられる。 顔の塗りつぶされた肖像画。 完成しない彫刻作品。 ユーリが遭遇する謎の数々とその真相とは。 19世紀末。ヨーロッパのとある国を舞台にした日常系ミステリー。 (タイトルに※マークのついているエピソードは他キャラ視点です)

メフィストフェレスの十字架

カスミ
ミステリー
灯野京一は内科医師として活躍し、信頼を得ていた。だが彼は、今までに100人以上の人間を殺害し、臓器を奪う殺人鬼でもあった。 そして灯野陽子は、法外な治療費と引き換えに移植手術を成功させる医師として、裏の世界で暗躍していた。 2人は、同一人物だが、かつては別の人間だった。

丸藤さんは推理したい

鷲野ユキ
ミステリー
慣れぬ土地に越してきたナオ。クラスメイトが噂する場所で出会ったのは、まさかの幽霊? 他にもナオの周りでは不可解なことばかり起こる。これらはやっぱり霊のせいなのか。 けれど警察に相談するわけにもいかないし、と意を決してナオが叩いたのは、丸藤探偵事務所の扉。 だけどこの探偵、なんだか怪しい……。

処理中です...