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一章
15. 初春の百貨店外商催事②
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暖色系の花々で埋め尽くされた巨大な馬のモニュメントの前。
その場にいた百貨店職員がテーブルを幾つか合わせて長方形へと変化させた上に、阿久津をはじめとするチーム月落の面々がスニーカーやブーツを迅速に置いていく。
座った弓子と渉の前には、すかさずティーカップが置かれた。
「さて、どれがいいかしらね……」
これがこの催事での買い物の仕方である。
会場を見て回り、キープした商品は外商担当によって運ばれ、顧客はゆっくりと座って品定めをする。
選んだものはまとめて一式、即座に自宅へと送り届けられるという流れである。
この催事、月落家のような最上顧客が来場することは実はとても珍しい。
招待されること自体はもちろんステータスではあるが、ピラミッド上位に位置する人々はこのように大勢が集う場で買い物はしない。
百貨店の専用個室または商品を直接自宅に運ばせ、そこで買い物するのが常である。
金額は気にせず、優雅に楽しむ、それがVIP。
けれど、そこは月落の幼馴染曰く『いい意味でぶっ飛んだ変わり者集団』の月落家だ。
様々な物が一堂に会するこんなに効率的な場を利用しない手はない、と結構な数の親戚が年2回の催事に足を運んでいる。
今日の午前中も両親と従妹夫婦が共に訪れたようで、先ほど連絡が来ていた。
曰く、『ドイツの貴腐ワインが出ていたから買い占めておいた。欲しい者は松濤に寄るように』と。
「渉、良さそうなのはある?」
「プレゼントする数は決まってるの?」
「素敵なのがあればそれ全部ね。靴って持ってても腐るものじゃないから、何十足贈っても良いわよね」
「弓子様、余裕があるとは言え、さすがに何十足もはシューズクローゼットの圧迫に繋がるかと思いますが……」
「あらそう?こういうとき、一般的には何足贈るの?」
「うーん、普通の基準が分からないけど……3足くらい?」
後ろで阿久津が「いや、多いな……」と首を振っているけれど、幸いにも弓子と渉には聞こえない。
日下部だけがひっそりと同意している。
「私、渉、日下部で一足ずつ選んだら丁度ね」
「弓子様、私が選ばせていただくのはさすがに烏滸がましい限りでございますので、お二人様だけでお選びになった方がよろしいかと存じます」
「私はこれにするわ。水色と青の配色が可愛いし、ロゴも小さくて目立たないわよね?」
「うん、それくらいなら気兼ねなく履けると思う。俺は黒のレースアップブーツにしようかな。ブランドロゴが型押しなのもシックで大人っぽいし。日下部さんはどれにしますか?」
「どちらも私の意見をお聞き入れくださる様子は皆無ですね。何と肩身の狭い気の毒な私……パワハラだ……」
「日下部、早くなさい」
「……では、こちらの黒とグレーに黄色のアクセントが効いたスニーカーでお願いします」
「決まりね。あとこの白地にペイントが飛び散ってるスニーカーも可愛いから、これも贈ってちょうだい」
各人が選んだものを、阿久津が配送の手はずを整えていく。
「阿久津さん、このレースアップブーツ、もし27cmがあれば俺のところにも届けていただけますか」
「かしこまりました」
「付き合ってもらったお礼に、私が買ってあげるわよ」
「ありがとう。弓子伯母さんの優しい気持ちだけ頂いておくね」
「靴ひとつも買わせてもらえないなんて、伯母の名前が泣くじゃない。姪や甥やその子供たちを甘やかすために生きてるんだから、生き甲斐を失ったら途端に老いて骸骨になっちゃうわ」
「これから行くフレンチは遠慮なくご馳走になるつもりだから、そこで甘やかしてほしい」
「あら、言ったからには沢山食べなさいよ。もう少しここで付き合ってもらうけど」
「うん、分かってる。メインは靴で、サブはイヤリングが今日の目的だからね」
「渉も一緒に見に行く?」
「いや、ここで休憩してる。ゆっくり見てきて」
「そう?じゃあ、行ってくるわね」
そう言いながら立ち上がった弓子は、ジュエリーが集まる一角へと消えていく。
小物関係は盗難などの万が一に備えて持ち運び不可となっているため、店舗と同じようにショーケースを見ながらの購入となる。
長方形に結合されていたテーブルが元通りにされた。
追加の紅茶が運ばれて来るのへ礼を言いながら月落が軽く伸びをしていると、チーム月落のひとりに声を掛けられた。
「渉様、お寛ぎのお時間があるようでしたら、こちらをご覧になってみてはいかがでしょう?」
渡されたのは、表紙に色とりどりのチョコレートが印刷された冊子だった。
「バレンタインのカタログ、ですか?」
「はい、先日刷り上がりましたので皆様にお配りしております。午前中にご来場いただいた際に梢様から、渉様が最近はスイーツに関する情報収集に余念がないとお伺いしましたので、よろしければ是非ご参考にされてください」
「ありがとうございます、拝見します」
「もし気になるショコラが見つかりましたら、私共で何としても手に入れて参りますので、どうぞご遠慮なくお申しつけください。数量限定などもございますが、どんな力を使ってでもお届けに上がります」
「入手困難なショコラもあるんですか?」
「えぇ、開店と同時に整理券が配布される商品も多少はございますが、ご所望とあらば外商部総出で対応に当たりますので」
握り拳を作った外商部員の目にはメラメラと炎が燃えるようである。
バレンタインの催事などもちろん立ち寄ったこともない月落だ。
それ程の闘志がなぜ必要なのかいまいち理解しかねるが、女性特有の世界情勢があるのだろうと納得することにした。
「欲しい物があれば自分で購入しようと思っていますので、お気遣いだけで。こういった会場に僕のような男性がいるのは異様な光景だったりしますか?」
「いえ全く。会場にお越しになるお客様はどなた様もご自分の購入品しか見ていらっしゃらないので、気にされる方はいらっしゃらないかと」
「なら良かったです」
「もし我々にお手伝いできることがあれば、いつでもご連絡くださいませ」
「ありがとうございます」
必要最低限だけの会話で去って行く外商部員を見送る。
ティーカップから一口飲んだ月落は椅子に深く座り直して脚を組むと、カタログを嬉々として開いた。
紅茶に合うお菓子を色々と調べては来たが、こうしてチョコレートだけに焦点を当ててじっくりと知る機会はなかったので、とても心が躍る。
ぱらぱらとページを捲っては気になる単語をスマホで高速検索し、商品名をメモに残していく。
(先生、ナッツ好きだからな……プラリネだけのアソートは買いだな……)
(フルーツが入ったのもあるのか……この前ラズベリージャムのクッキーは美味しそうに食べてたから気に入ってくれそう)
(塩キャラメル……ジャンドゥーヤ……シャンパントリュフもいいな…)
(タブレットよりは小さい一粒ショコラの方が食べやすそう……サブレも好きそうだけど消費期限早いかな……)
超集中型で没頭しやすい性格は、長所にも短所にもなり得る。
周囲の音が聞こえなくなる程のめりこんでチョコレートと向き合っていた月落が意識を現実世界へと戻したのは、趣味の水泳で鍛え上げられた肩が、猛烈な勢いで揺さぶられた時だった。
「渉、集中するのはとても素晴らしいことだけど、まるで研究論文でも仕上げるような必死さでチョコレートのパンフレットを読むのはやめなさい。浮世離れしすぎじゃないの」
呆れた様子の弓子が月落の対面に座った。
「ごめん、そんなに必死だった?」
「猛烈なスピードでページを行ったり来たりして、なおかつスマホを高速スクロールするから面白くてちょっと見守っちゃったわ。欲しいものはあった?」
「知りたいことが沢山あって集中しちゃった。普段日本で販売しないのも多いらしくて、絞るのが難しそうだなっていうのが第一印象」
「そうね、こういうチョコレートは消費期限が早いものも結構あるから迷うわよね。私のお気に入りも後で教えてあげるから、参考にしてちょうだい」
「それは信頼度の高い情報だから是非ともお聴かせ願いたいです、弓子伯母さん」
「夕飯を食べながら相談会と行こうじゃないの」
「イヤリング選びは終わったの?」
「我ながら最高の買い物をしたわ」
「イヤリングにネックレス、買う予定のなかったブレスレットに指輪までさくさくっとお選びになりまして、大満足のご様子です」
「一期一会は大切にしなきゃね」
椅子を引きながらそう発した日下部に、立ち上がった弓子はしたり顔で笑う。
その僅か後ろでは、チーム月落の面々の頬が天井のシャンデリアを反射してつやつやと光っている。
今年の催事も、目標売上に達する見込みができたのだろう。
「あ、そうそう。行く途中でメレンゲクッキーを調達しなきゃ。あさって会う取引先の会長に、手土産として持って行きたいのよね」
「それって甘さ控えめ?」
「和三盆を使ってるから甘さは上品に香る程度ね。形が変わってて、雪が降り積もった一枚屋根みたいで目にも楽しいのよ」
「もしかして紅茶と食べてもおいし——」
「紅茶との相性も抜群よ。特に、マグカップ並々のミルクティーとかね」
遮って投げられた弓子からの言葉に、月落は半分驚き半分諦めたような表情になった。
情報が早い。
この様子だと大概のことは一族に知られているなと確信するが、誰も何も言ってこないのは月落家特有の放任主義が要因だろう。
『現状把握のために根こそぎ調べはするが、必要以上に介入せず』、『自分の人生は自分の好きに』という共通認識の元で構成されている団体なので、生き方も仕事も恋愛も基本自由体制だ。
月落もパンフレットを持ちながら立ち上がり、共に会場の入り口に向かおうとしたとき、近くからこんな会話が聞こえてきた。
「人も多いし見るものも多くて、若干目眩がするんですが……」
「わたくしもこういうところには初めて来たけど、予想以上に賑わってるわね。でもここは、『清く、気高く、勇ましく』の精神で、お買い物を楽しむわ!」
その会話に月落と、隣にいた弓子が同時に反応した。
「先生?」
「あなたもしかして、咲丘女学院のご出身ではなくて?」
その場にいた百貨店職員がテーブルを幾つか合わせて長方形へと変化させた上に、阿久津をはじめとするチーム月落の面々がスニーカーやブーツを迅速に置いていく。
座った弓子と渉の前には、すかさずティーカップが置かれた。
「さて、どれがいいかしらね……」
これがこの催事での買い物の仕方である。
会場を見て回り、キープした商品は外商担当によって運ばれ、顧客はゆっくりと座って品定めをする。
選んだものはまとめて一式、即座に自宅へと送り届けられるという流れである。
この催事、月落家のような最上顧客が来場することは実はとても珍しい。
招待されること自体はもちろんステータスではあるが、ピラミッド上位に位置する人々はこのように大勢が集う場で買い物はしない。
百貨店の専用個室または商品を直接自宅に運ばせ、そこで買い物するのが常である。
金額は気にせず、優雅に楽しむ、それがVIP。
けれど、そこは月落の幼馴染曰く『いい意味でぶっ飛んだ変わり者集団』の月落家だ。
様々な物が一堂に会するこんなに効率的な場を利用しない手はない、と結構な数の親戚が年2回の催事に足を運んでいる。
今日の午前中も両親と従妹夫婦が共に訪れたようで、先ほど連絡が来ていた。
曰く、『ドイツの貴腐ワインが出ていたから買い占めておいた。欲しい者は松濤に寄るように』と。
「渉、良さそうなのはある?」
「プレゼントする数は決まってるの?」
「素敵なのがあればそれ全部ね。靴って持ってても腐るものじゃないから、何十足贈っても良いわよね」
「弓子様、余裕があるとは言え、さすがに何十足もはシューズクローゼットの圧迫に繋がるかと思いますが……」
「あらそう?こういうとき、一般的には何足贈るの?」
「うーん、普通の基準が分からないけど……3足くらい?」
後ろで阿久津が「いや、多いな……」と首を振っているけれど、幸いにも弓子と渉には聞こえない。
日下部だけがひっそりと同意している。
「私、渉、日下部で一足ずつ選んだら丁度ね」
「弓子様、私が選ばせていただくのはさすがに烏滸がましい限りでございますので、お二人様だけでお選びになった方がよろしいかと存じます」
「私はこれにするわ。水色と青の配色が可愛いし、ロゴも小さくて目立たないわよね?」
「うん、それくらいなら気兼ねなく履けると思う。俺は黒のレースアップブーツにしようかな。ブランドロゴが型押しなのもシックで大人っぽいし。日下部さんはどれにしますか?」
「どちらも私の意見をお聞き入れくださる様子は皆無ですね。何と肩身の狭い気の毒な私……パワハラだ……」
「日下部、早くなさい」
「……では、こちらの黒とグレーに黄色のアクセントが効いたスニーカーでお願いします」
「決まりね。あとこの白地にペイントが飛び散ってるスニーカーも可愛いから、これも贈ってちょうだい」
各人が選んだものを、阿久津が配送の手はずを整えていく。
「阿久津さん、このレースアップブーツ、もし27cmがあれば俺のところにも届けていただけますか」
「かしこまりました」
「付き合ってもらったお礼に、私が買ってあげるわよ」
「ありがとう。弓子伯母さんの優しい気持ちだけ頂いておくね」
「靴ひとつも買わせてもらえないなんて、伯母の名前が泣くじゃない。姪や甥やその子供たちを甘やかすために生きてるんだから、生き甲斐を失ったら途端に老いて骸骨になっちゃうわ」
「これから行くフレンチは遠慮なくご馳走になるつもりだから、そこで甘やかしてほしい」
「あら、言ったからには沢山食べなさいよ。もう少しここで付き合ってもらうけど」
「うん、分かってる。メインは靴で、サブはイヤリングが今日の目的だからね」
「渉も一緒に見に行く?」
「いや、ここで休憩してる。ゆっくり見てきて」
「そう?じゃあ、行ってくるわね」
そう言いながら立ち上がった弓子は、ジュエリーが集まる一角へと消えていく。
小物関係は盗難などの万が一に備えて持ち運び不可となっているため、店舗と同じようにショーケースを見ながらの購入となる。
長方形に結合されていたテーブルが元通りにされた。
追加の紅茶が運ばれて来るのへ礼を言いながら月落が軽く伸びをしていると、チーム月落のひとりに声を掛けられた。
「渉様、お寛ぎのお時間があるようでしたら、こちらをご覧になってみてはいかがでしょう?」
渡されたのは、表紙に色とりどりのチョコレートが印刷された冊子だった。
「バレンタインのカタログ、ですか?」
「はい、先日刷り上がりましたので皆様にお配りしております。午前中にご来場いただいた際に梢様から、渉様が最近はスイーツに関する情報収集に余念がないとお伺いしましたので、よろしければ是非ご参考にされてください」
「ありがとうございます、拝見します」
「もし気になるショコラが見つかりましたら、私共で何としても手に入れて参りますので、どうぞご遠慮なくお申しつけください。数量限定などもございますが、どんな力を使ってでもお届けに上がります」
「入手困難なショコラもあるんですか?」
「えぇ、開店と同時に整理券が配布される商品も多少はございますが、ご所望とあらば外商部総出で対応に当たりますので」
握り拳を作った外商部員の目にはメラメラと炎が燃えるようである。
バレンタインの催事などもちろん立ち寄ったこともない月落だ。
それ程の闘志がなぜ必要なのかいまいち理解しかねるが、女性特有の世界情勢があるのだろうと納得することにした。
「欲しい物があれば自分で購入しようと思っていますので、お気遣いだけで。こういった会場に僕のような男性がいるのは異様な光景だったりしますか?」
「いえ全く。会場にお越しになるお客様はどなた様もご自分の購入品しか見ていらっしゃらないので、気にされる方はいらっしゃらないかと」
「なら良かったです」
「もし我々にお手伝いできることがあれば、いつでもご連絡くださいませ」
「ありがとうございます」
必要最低限だけの会話で去って行く外商部員を見送る。
ティーカップから一口飲んだ月落は椅子に深く座り直して脚を組むと、カタログを嬉々として開いた。
紅茶に合うお菓子を色々と調べては来たが、こうしてチョコレートだけに焦点を当ててじっくりと知る機会はなかったので、とても心が躍る。
ぱらぱらとページを捲っては気になる単語をスマホで高速検索し、商品名をメモに残していく。
(先生、ナッツ好きだからな……プラリネだけのアソートは買いだな……)
(フルーツが入ったのもあるのか……この前ラズベリージャムのクッキーは美味しそうに食べてたから気に入ってくれそう)
(塩キャラメル……ジャンドゥーヤ……シャンパントリュフもいいな…)
(タブレットよりは小さい一粒ショコラの方が食べやすそう……サブレも好きそうだけど消費期限早いかな……)
超集中型で没頭しやすい性格は、長所にも短所にもなり得る。
周囲の音が聞こえなくなる程のめりこんでチョコレートと向き合っていた月落が意識を現実世界へと戻したのは、趣味の水泳で鍛え上げられた肩が、猛烈な勢いで揺さぶられた時だった。
「渉、集中するのはとても素晴らしいことだけど、まるで研究論文でも仕上げるような必死さでチョコレートのパンフレットを読むのはやめなさい。浮世離れしすぎじゃないの」
呆れた様子の弓子が月落の対面に座った。
「ごめん、そんなに必死だった?」
「猛烈なスピードでページを行ったり来たりして、なおかつスマホを高速スクロールするから面白くてちょっと見守っちゃったわ。欲しいものはあった?」
「知りたいことが沢山あって集中しちゃった。普段日本で販売しないのも多いらしくて、絞るのが難しそうだなっていうのが第一印象」
「そうね、こういうチョコレートは消費期限が早いものも結構あるから迷うわよね。私のお気に入りも後で教えてあげるから、参考にしてちょうだい」
「それは信頼度の高い情報だから是非ともお聴かせ願いたいです、弓子伯母さん」
「夕飯を食べながら相談会と行こうじゃないの」
「イヤリング選びは終わったの?」
「我ながら最高の買い物をしたわ」
「イヤリングにネックレス、買う予定のなかったブレスレットに指輪までさくさくっとお選びになりまして、大満足のご様子です」
「一期一会は大切にしなきゃね」
椅子を引きながらそう発した日下部に、立ち上がった弓子はしたり顔で笑う。
その僅か後ろでは、チーム月落の面々の頬が天井のシャンデリアを反射してつやつやと光っている。
今年の催事も、目標売上に達する見込みができたのだろう。
「あ、そうそう。行く途中でメレンゲクッキーを調達しなきゃ。あさって会う取引先の会長に、手土産として持って行きたいのよね」
「それって甘さ控えめ?」
「和三盆を使ってるから甘さは上品に香る程度ね。形が変わってて、雪が降り積もった一枚屋根みたいで目にも楽しいのよ」
「もしかして紅茶と食べてもおいし——」
「紅茶との相性も抜群よ。特に、マグカップ並々のミルクティーとかね」
遮って投げられた弓子からの言葉に、月落は半分驚き半分諦めたような表情になった。
情報が早い。
この様子だと大概のことは一族に知られているなと確信するが、誰も何も言ってこないのは月落家特有の放任主義が要因だろう。
『現状把握のために根こそぎ調べはするが、必要以上に介入せず』、『自分の人生は自分の好きに』という共通認識の元で構成されている団体なので、生き方も仕事も恋愛も基本自由体制だ。
月落もパンフレットを持ちながら立ち上がり、共に会場の入り口に向かおうとしたとき、近くからこんな会話が聞こえてきた。
「人も多いし見るものも多くて、若干目眩がするんですが……」
「わたくしもこういうところには初めて来たけど、予想以上に賑わってるわね。でもここは、『清く、気高く、勇ましく』の精神で、お買い物を楽しむわ!」
その会話に月落と、隣にいた弓子が同時に反応した。
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