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【51:三人でジェラート】

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◆◇◆

 あと二、三分でさくらと待ち合わせしてる駅に着くという頃、日和は急に俺の腕から離れた。さっき言ってた『さくらの前ではこんなことはしない』というのは、どうやら本気のようだ。

 さくらに不審感を与えなくて済んでホッとした。だけどさっきまで日和の体温で温かかった左腕が、妙にスースーする。ああ、至福の時間は終わってしまった。

 ──って、だから俺よ! そんなことを思うなっつーの! さくらに申し訳ないだろ。




 駅に着くと、さくらは先に来て待っていた。俺らの姿を見つけて、笑顔で両手を大きく振る。

「日和ちゃん、天心君、おはよっ」
「さくらちゃん、おはよ~ですぅ」

 二人がハイタッチしてる。ホントに仲良くしてるなぁ。

 さくらは俺にニコッと笑顔を向けた。

 ──あ、可愛い。

 どきりとした。

「じゃ、じゃあジェラート屋さんに行こうか」
「はぁい、行くですぅ~」

 俺はさくらに向かって言ったつもりだけど、なぜだか日和が嬉しそうにバンザイしてる。まあ、いっか。


 駅から歩いてすぐのところにあるテイクアウトのジェラート屋さんに移動して、三人分のジェラートを注文した。

 俺はオーソドックスなバニラ味だけど、さくらは焼き芋味、日和はたい焼き味を注文。二人ともなんだか変わった味が好きだな。

  ジェラートを受け取って、近くの公園に行って、俺を真ん中に三人並んでベンチに座った。

「天心君、いただきまーす」
「天心くーん、いただきますですぅ」

 二人とも楽しそうで良かった。

 ──とか言いながら、やっぱりついつい左側に座るさくらの顔を眺めてしまう。

 小さなピンク色の舌をチロチロと出してジェラートを舐めてるさくらの横顔を眺める。可愛い。

 じっとさくらの舌に見入ってしまった。なんだかちょっとエッチだ。

 いかんいかん。俺は何を妄想してるんだ。でも健康な高校生男子なんだから、仕方ないよなー!
 ──と、自分で自分に言い訳してみる。

「美味しい~」

 顔をくしゃっとして、さくらが味を噛みしめてる。そして俺を向いて「天心君、ありがとう」とニコッと笑った。

「よかった。そんなに喜んでくれるなら、またいつでも奢るよ」
「ホントっ!? やったぁ!」

 満面の笑みで喜んでるさくらに、俺も笑顔を返した。

「美味しいですぅ~!」

 右側に座る日和からも声が聞こえた。だけどあえて、すぐには振り向かないでおこうと思って、さくらの顔を見続ける。

「美味しいですぅ~」

 また日和の声が聞こえた。明らかに日和は俺の気を引いて、『また奢る』って言わせたいようだ。面白いから、あえてまだ振り向かない。

「美味しいですぅ~!!!!」

 ひときわ大きい日和の声が聞こえたかと思うと、後頭部にバシンと衝撃が走った。

「いってぇ~ こら日和! なんで俺の頭を叩くんだよっ!」

 後頭部を押さえながら日和の方に振り向くと、ほっぺたをぷっくぅと膨らませてる日和の顔があった。

「だってぇ、天心君が無視するからぁ~」
「あ、すまんすまん。気がつかなかったよ」
「こんな近くで、気づかないはずはないですぅ」
「そうだよ天心君。日和ちゃんがかわいそうだよ」
「あ、ごめん」

 あ、さくらにまで叱られた。

 日和には悪いけど……日和はいい奴だけど……

 ホントに日和には申し訳ないんだけど、今日ほど日和を邪魔だと思ったことはない。
 なんだか日和は、俺がさくらといい雰囲気になるのを邪魔しようとしてる気がする。

 気のせいだろうか?

 以前の日和は、俺がさくらと上手くいくようにあんなに応援してくれたのに、今日の日和は邪魔しようとしてるとしか思えない。

 今日ここに来る時も、最後は日和にごまかされてよくわからないけど、日和は俺のことを好きだと言った。

 これってホントに日和は俺のことをラブという意味で好きで、さくらと仲良くすると嫉妬してるってことなのか?

 マジで!? 俺の人生史上、最大のモテ期が来てるとか!?

 マジか? マジか? マジか?

 いや待て、俺。浮き足立つんじゃない! 落ち着け。あんまり浮かれてると、さくらに嫌われてしまうぞ。

 日和は単に俺を幼なじみとして好きなんであって、今日のこいつの言動は俺をからかってるだけだ。そうに違いない。

 俺は大きく深呼吸して、妄想を頭の中から追い出した。そして、今日これからどう行動したらいいかを考える。


 そうだ! 日和には悪いけど、ジェラートを奢る約束は果たしたんだし、これで一旦解散にしよう。そしてその後は、さくらと二人きりで会うんだ。

 おおっ、いい考えじゃないか!! あとはそれをどう実現するか、日和に不審がられない方法を考えないといけない。

 あっ、そうだ!

「さぁ、ジェラートも食べたし、そろそろ帰ろうか!」
「えっ? もう帰るの?」
「ああ。ちょっとお昼に親から頼まれてる用事があってさ。帰らないといけないんだ」
「ええ~っ、せっかく出てきたのに、もう帰るなんて嫌ですぅ」
「もうちょっとくらい、いいでしょ?」

 さくらは寂しそうな顔をしてる。あとでもう一度出直して、二人で会うつもりだから許してくれ。

「いや、準備もあるし、もうそろそろ帰らないと……」

 いや、いったいなんの準備なんだよ!
 ──って自分でも思うけど、単なる言い訳だからどうでもいいや。

「じゃあ天心君だけ、先に帰ってくださいねぇ」
「へっ?」
「さくらちゃーん。今から二人で映画でも観に行きませんかぁ!?」
「あ、いいね日和ちゃん。行こ行こ!!」
「へっ?」

 しまった! あまりにも予想外の二人の反応に、へっ? という言葉しか出ない。ど、どうしよう?

「何を観に行きますかぁ?」
「そうねぇ。今話題のファンタジー超大作、観たいなと思ってたんだ。それにする?」
「あ、私も観たいと思ってたですぅ。それにしましょう!」

 あ、その映画、俺も観に行きたいと思ってたやつだ。後でさくらと二人きりで会えたら、誘ってみようと思ってた映画なのに! なんでこうなる?

「あれ? 天心君、何をしてるのですかぁ? 早く帰らないといけないんですよねー」
「天心君、私たちのことは気にしないで、早く帰ってくれていいよ!」

 さくらはにっこり笑ってる。これはきっと、用事があると言った俺に気を使ってくれてるんだよ……なぁ。まさか俺と過ごすより、女の子二人の方が楽しいと思ってるなんて……被害妄想だよな?

 ──ちょっと心配になってきた。

「あ、あのう……さくら」
「なぁに?」

 さくらはきょとんとしてる。今さら用事は嘘だったなんて言えないけど……

「俺も映画に行きたいっ!」
「えっ? 用事は?」
「親に言ってなんとかする!」

 あたた、カッコ悪りぃ。でも仕方ない。

 俺は親に電話をするふりをして、もう用事をしなくていいことになったということにして、三人で一緒に映画に行くことになった。

 また二人きりでのデートはお預けになったけど、このまま一人で帰宅するよりは、三人であってもさくらと過ごせる方がいいに決まってる。

 そう割り切って、映画を楽しむことにした。
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