44 / 56
【44:天頂神様ってどこにいるの?】
しおりを挟む
天頂神っていう凄い神様が人間界に転生してきてるって聞いて、その神はいったいどこにいるのかと日和に尋ねたら、日和は俺を指差した。
「俺?」
「はい、ですぅ」
「いや、日和。そんな冗談はいいから。で、ホントは天頂神様ってどこにいるの?」
「だから、ここです」
日和は相変わらず俺を指差す。
俺はワケがわからず、固まったまま。
「これ、空司守よ。天頂神様は強力に記憶と霊力を封印して転生してるのだから、そんなことを言っても天頂神様……いや天心君も思い出せないんだし、困るだろ」
二階堂がそんなことを言ってるのが聞こえる。
まあ二階堂は謎の転校生だし、そんな作り話をしてるって可能性もあるよな。うん。きっと設定厨ってジャンルのオタクなんだよ彼は。
二階堂が言うセリフは、そんな風に思うことができた。だけど続いて凪桑神様がこんなことを言い出した。
「なるほど、この男子が天頂神様の生まれ変わりでございますか! あの威風堂々とした天頂神様の生まれ変わりとは思えぬ地味で力強さに欠けまするな」
おーい、なんて言われようだ。
地味で力強さに欠けてて悪かったな。その天頂神様ってヤツは凄いのかもしれないけど、俺は俺なんだから仕方ないだろ。
凪桑神様が俺に失礼なことを言ったのを聞いて、日和はくすくす笑ってる。
「そうおっしゃらないでください凪桑神様。これでもようやく、つい先ほど少し修行格がアップしたんですよぉ」
ついさっき修行格がアップした? 日和はなんのことを言ってるのか?
「そうなのですか? だが確かに身体の奥からにじみ出る霊力は、高貴で力強さに満ちておりますな。これは天頂神様のオーラに間違いはない。だけど天頂神様ほどのお方が、なぜこのような低い修行格に甘んじていらっしゃるのですか?」
凪桑神様が訝しげに首を傾けるのを見て、日和が苦笑いしながら説明しだした。
「ホントに天頂神様ったら、修行の難易度を高めるために、『生まれついての運動オンチ、勉強できない、人と接するのが苦手で自分勝手』なんて設定をあまりに強固にしたものだから、なかなか人間的な成長が進まないんですよねぇ」
「そうなんですか? 前回に天頂神様が人間界転生修行をされた時には、あっという間に修行格が上がって、立派な人物になられたというのに」
「ああ、前回って、聖徳太子に生まれ変わった時ですよねぇ。あれは生まれついての霊力や能力を持った状態で名家に転生したんですよねぇ」
なんだって? 聖徳太子!? こりゃまたビッグな名前が出てきたな。聖徳太子は天頂神が修行のために転生した姿だって、そりゃすげぇ話だ。
日和は物語を作るのが上手だな。小説でも書いて、WEB小説サイト『小説家になりたい』にでも投稿したらどうだ。
「だから子供の頃から凄い人だったし、どんどん偉くなってあんまり修行の意味がなかったと。だから今回は基礎能力を極限まで下げた状態の設定にしたんですよぉ」
ええっと……今、俺の前で繰り広げられてる会話は、ホントに事実なのか? 作り話にしては、日和はあまりにすらすらと話してるよな。
そう疑問に思ってると、今度は横から二階堂が口を出した。
「能力封印、霊力封印もあまりに強固にしてしまったから、天頂神様がどこにいらっしゃるのか探し出すのにも苦労しましたよ。ようやく最近、荒菅神と豊姫美から、神凪神社の巫女と一緒にいる男子がそうではないかという情報が入って、探るために学校に潜入して、ようやく見つけ出したのです」
「見つけ出したなんて偉そーですぅ! 二階堂君は私も天心君も、どちらの正体も見破れなかったから、こっちから声をかけたんですよねぇ」
「こら空司守。もう正体をバラしたんだから、二階堂君なんて呼ばずに堂宮神と呼べよ」
「ごめんねぇ。堂ちゃーん」
「なめとんのか!?」
「なめてないですぅ。堂ちゃんがへっぽこ神様だなんて、だーれも言ってないですぅ」
「いや、やっぱりなめとるじゃないか! 堂ちゃんって呼ばれるくらいなら、二階堂君の方がましだ!」
二階堂はこめかみに血管を浮かべて怒り顔だ。それを見て、凪桑神様まで口に手を当ててくすくすと笑いを必死にこらえてる。
日和って、ホントに神様なのか? それにしても、今までの日和のイメージとあんまり変わらん。
「ところでお二方。皆様の素性はわかりましたが、今日はなぜここに?」
「今、天の国が混乱してるって二階堂君が教えてくれて、これは私たちがなんとかしなきゃいけないって思ったんですぅ。それで二階堂君と打ち合わせをして、今日こうやってみんなで神凪神社に来る計画をしたのです」
「なんのために?」
凪桑神様も不思議そうに訊いたけど、確かに全然話が見えん。天の国の混乱を収めるために、なんで神社に参拝にくるんだ?
もしかして凪桑神様に、「混乱を収めてくださいませ~」ってお願いするためか?
「天の国で起きてる神道系と仏教系の神々の争いと混乱を収めるために、一旦天頂神様の記憶と能力を解放して、天頂神様に天の国を収めに行ってほしいと思ってるのでス」
「ほお、なるほど。それはワシも賛成ですぞ」
「だけど天心君にかけられた封印があまりに強固で、ちょっとやそっとの霊力では解放できないんですよねぇ。だけど今日のこの状況なら、凪桑神様と堂宮神、そして私の三名の霊力を結集すれば、何とかなるのではないかと」
「なるほど。そうかもしれませぬな」
えーっと、俺の意見はまったく聞かれずに、粛々と話が進んでる気がするんだが……
この状況を、俺はいったいどういうふうに捉えたらいいんだ? 俺はどうしたらいいんだ?
「しかもそんな霊力を結集して、超強力な天頂神様の能力を解放するとなれば、周りに多大な影響が及ぶのが必至」
必死? 二階堂は何を言ってるんだ? ちょっと何言ってるかわかんないんですけど。
「その点、ここの本殿内なら強力な結界を張ることが可能。だからこの機会を利用しようという案を、空司守が考えついたんですよ」
「なるほど、承知いたしました。この本殿で、ぜひ天頂神様の能力を解放しましょう」
ああ、とうとう俺の出る幕もなく、方向性が決定してしまったよ。俺はいったいどうなるんだ?
ここからはトップシークレットな話だからということで、固まったままのさくらと神主を拝殿に残し、俺たちは本殿に入って朱色の扉をしっかりと閉めた。
本殿に入ると、凪桑神様が疑問を口にした。
「でも……ここで天頂神様の能力と記憶を解放したら、人間界での修行はどうなるのですか? 統一神の能力を持った状態では、もはや人間界では修行にはならないでしょう。そうなると修行は途中で取りやめて、天頂神様は天の国に戻られることになるのですね」
え? ちょっと待ってくれ。もしも今聞いてる話が夢なんかじゃなくて、ホントにホントのことだとするならば。
俺の記憶と能力が解放されたら天の国に戻るってことは、さくらとはお別れしなきゃいけないってことか?
「俺?」
「はい、ですぅ」
「いや、日和。そんな冗談はいいから。で、ホントは天頂神様ってどこにいるの?」
「だから、ここです」
日和は相変わらず俺を指差す。
俺はワケがわからず、固まったまま。
「これ、空司守よ。天頂神様は強力に記憶と霊力を封印して転生してるのだから、そんなことを言っても天頂神様……いや天心君も思い出せないんだし、困るだろ」
二階堂がそんなことを言ってるのが聞こえる。
まあ二階堂は謎の転校生だし、そんな作り話をしてるって可能性もあるよな。うん。きっと設定厨ってジャンルのオタクなんだよ彼は。
二階堂が言うセリフは、そんな風に思うことができた。だけど続いて凪桑神様がこんなことを言い出した。
「なるほど、この男子が天頂神様の生まれ変わりでございますか! あの威風堂々とした天頂神様の生まれ変わりとは思えぬ地味で力強さに欠けまするな」
おーい、なんて言われようだ。
地味で力強さに欠けてて悪かったな。その天頂神様ってヤツは凄いのかもしれないけど、俺は俺なんだから仕方ないだろ。
凪桑神様が俺に失礼なことを言ったのを聞いて、日和はくすくす笑ってる。
「そうおっしゃらないでください凪桑神様。これでもようやく、つい先ほど少し修行格がアップしたんですよぉ」
ついさっき修行格がアップした? 日和はなんのことを言ってるのか?
「そうなのですか? だが確かに身体の奥からにじみ出る霊力は、高貴で力強さに満ちておりますな。これは天頂神様のオーラに間違いはない。だけど天頂神様ほどのお方が、なぜこのような低い修行格に甘んじていらっしゃるのですか?」
凪桑神様が訝しげに首を傾けるのを見て、日和が苦笑いしながら説明しだした。
「ホントに天頂神様ったら、修行の難易度を高めるために、『生まれついての運動オンチ、勉強できない、人と接するのが苦手で自分勝手』なんて設定をあまりに強固にしたものだから、なかなか人間的な成長が進まないんですよねぇ」
「そうなんですか? 前回に天頂神様が人間界転生修行をされた時には、あっという間に修行格が上がって、立派な人物になられたというのに」
「ああ、前回って、聖徳太子に生まれ変わった時ですよねぇ。あれは生まれついての霊力や能力を持った状態で名家に転生したんですよねぇ」
なんだって? 聖徳太子!? こりゃまたビッグな名前が出てきたな。聖徳太子は天頂神が修行のために転生した姿だって、そりゃすげぇ話だ。
日和は物語を作るのが上手だな。小説でも書いて、WEB小説サイト『小説家になりたい』にでも投稿したらどうだ。
「だから子供の頃から凄い人だったし、どんどん偉くなってあんまり修行の意味がなかったと。だから今回は基礎能力を極限まで下げた状態の設定にしたんですよぉ」
ええっと……今、俺の前で繰り広げられてる会話は、ホントに事実なのか? 作り話にしては、日和はあまりにすらすらと話してるよな。
そう疑問に思ってると、今度は横から二階堂が口を出した。
「能力封印、霊力封印もあまりに強固にしてしまったから、天頂神様がどこにいらっしゃるのか探し出すのにも苦労しましたよ。ようやく最近、荒菅神と豊姫美から、神凪神社の巫女と一緒にいる男子がそうではないかという情報が入って、探るために学校に潜入して、ようやく見つけ出したのです」
「見つけ出したなんて偉そーですぅ! 二階堂君は私も天心君も、どちらの正体も見破れなかったから、こっちから声をかけたんですよねぇ」
「こら空司守。もう正体をバラしたんだから、二階堂君なんて呼ばずに堂宮神と呼べよ」
「ごめんねぇ。堂ちゃーん」
「なめとんのか!?」
「なめてないですぅ。堂ちゃんがへっぽこ神様だなんて、だーれも言ってないですぅ」
「いや、やっぱりなめとるじゃないか! 堂ちゃんって呼ばれるくらいなら、二階堂君の方がましだ!」
二階堂はこめかみに血管を浮かべて怒り顔だ。それを見て、凪桑神様まで口に手を当ててくすくすと笑いを必死にこらえてる。
日和って、ホントに神様なのか? それにしても、今までの日和のイメージとあんまり変わらん。
「ところでお二方。皆様の素性はわかりましたが、今日はなぜここに?」
「今、天の国が混乱してるって二階堂君が教えてくれて、これは私たちがなんとかしなきゃいけないって思ったんですぅ。それで二階堂君と打ち合わせをして、今日こうやってみんなで神凪神社に来る計画をしたのです」
「なんのために?」
凪桑神様も不思議そうに訊いたけど、確かに全然話が見えん。天の国の混乱を収めるために、なんで神社に参拝にくるんだ?
もしかして凪桑神様に、「混乱を収めてくださいませ~」ってお願いするためか?
「天の国で起きてる神道系と仏教系の神々の争いと混乱を収めるために、一旦天頂神様の記憶と能力を解放して、天頂神様に天の国を収めに行ってほしいと思ってるのでス」
「ほお、なるほど。それはワシも賛成ですぞ」
「だけど天心君にかけられた封印があまりに強固で、ちょっとやそっとの霊力では解放できないんですよねぇ。だけど今日のこの状況なら、凪桑神様と堂宮神、そして私の三名の霊力を結集すれば、何とかなるのではないかと」
「なるほど。そうかもしれませぬな」
えーっと、俺の意見はまったく聞かれずに、粛々と話が進んでる気がするんだが……
この状況を、俺はいったいどういうふうに捉えたらいいんだ? 俺はどうしたらいいんだ?
「しかもそんな霊力を結集して、超強力な天頂神様の能力を解放するとなれば、周りに多大な影響が及ぶのが必至」
必死? 二階堂は何を言ってるんだ? ちょっと何言ってるかわかんないんですけど。
「その点、ここの本殿内なら強力な結界を張ることが可能。だからこの機会を利用しようという案を、空司守が考えついたんですよ」
「なるほど、承知いたしました。この本殿で、ぜひ天頂神様の能力を解放しましょう」
ああ、とうとう俺の出る幕もなく、方向性が決定してしまったよ。俺はいったいどうなるんだ?
ここからはトップシークレットな話だからということで、固まったままのさくらと神主を拝殿に残し、俺たちは本殿に入って朱色の扉をしっかりと閉めた。
本殿に入ると、凪桑神様が疑問を口にした。
「でも……ここで天頂神様の能力と記憶を解放したら、人間界での修行はどうなるのですか? 統一神の能力を持った状態では、もはや人間界では修行にはならないでしょう。そうなると修行は途中で取りやめて、天頂神様は天の国に戻られることになるのですね」
え? ちょっと待ってくれ。もしも今聞いてる話が夢なんかじゃなくて、ホントにホントのことだとするならば。
俺の記憶と能力が解放されたら天の国に戻るってことは、さくらとはお別れしなきゃいけないってことか?
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる