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【33:邪々神《じゃじゃがみ》】

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 天井を突き破って飛び込んできた邪々神じゃじゃがみは、急降下した後に方向転換して、日和と梅ちゃんの方に向かって飛んでいった。

 たい焼きを載せたトレーを持った日和に、邪々神が突進する。

 ──ぶつかる! 危ない!

 そう思った瞬間、日和が下を向いてかがんで、邪々神は日和の背中のすぐ上を通り越した。

「あーん、たい焼きが落ちちゃったぁ。でも三秒以内に拾ったら大丈夫だよねぇ」

 おおっ、落ちたたい焼きを拾おうとしたのか。たまたま助かって良かった!!
 でも邪々神は急ブレーキをかけたように宙で止まって、振り向いて日和達を睨んでる。日和が危ない。

「日和! 早くこっち来い!」

 俺が慌てて日和達の方に走り出したら、さくらとロリ神様も一緒に駆け出した。

 日和はきょとんとしてるけど、横の梅ちゃんが「日和ちゃんこっち!」と叫んで、日和の腕を引っ張る。

「梅ちゃん、痛いですぅ」

 日和は泣きそうな顔をしてるけど、梅ちゃんが一生懸命日和を引っ張ってきてくれた。

「とにかく表に出ましょう!」

 日和達と合流して、さくらの声に従って建物の出入り口に向かってみんなで走る。

「あっ、追いかけてきたー!」

 梅ちゃんが後ろを向いて叫んだ。
 えっ? もしかして、梅ちゃんも邪々神が見えてるのか!?

「ここはワシに任せろ」

 ロリ神様が立ち止まって、両手を横に広げて邪々神じゃじゃがみとの間に立ちふさがる。ありがたい。よし、この隙に。

 四人とも出入り口から表の広場みたいなところに出た。ガラスの壁越しに建物の中を見ると、立ちふさがったロリ神様に向かって、邪々神が片手を振り上げて横にぶんっと降った。

 体を横からばしっと叩かれて、ロリ神様は横に吹っ飛んだ。大丈夫か!?

 ロリ神様は肩をさすりながら、割と平気そうな顔で立ち上がった。それは良かったけど……

 ──弱ぇ~!!

 あ、やべっ。邪々神がこちらに向かって飛んでくる。出入り口から表に出てきた。怖ぇ~よ。くそっ、どうしたらいいんだ?

 ふと横を見ると、日和がきょとんとして俺を見てる。何が起こってるのか、理解できてない様子だ。やばい。

 どうしたらいいんだ?

 邪々神じゃじゃがみは黒くて恐ろしい顔をしてて、正直ビビる。だけど、何もわかってない日和を守ってやらなきゃ。

 さくらを見ると、こっちは怯えて青い顔をしてる。

「さくら。お前は邪々神が見えるし、強い霊力を持ってるから、悪いけど自分で自分を守れるよな?」

 さくらは引きつった顔をぶんぶんと左右に振ってる。えっ? 自信がないのか? 梅ちゃんもいるし、どうしたらいいんだよー!


 どうしたらいいかわからないし、ビビるし、足がすくんで動けない。すぐ目の前まで邪々神が飛んできて、そこで止まった。

 近くで見るとでかい。二メートルくらい背がある。わし鼻でしわだらけのどす黒い顔。異様に光る鋭い目で、俺たち全員をギロッと見回してる。キモっ!

「巫女はどいつだ?」

 気持ち悪いしわがれた声だ。
 巫女だって? さくらのことを言ってるのか?

 さくらの顔を見て訊いてみた。

「もしかして、お前の知り合い?」
「んなワケないって! こんなヤツ見たこともない!」

 さくらは、またぶんぶんと顔を左右に振ってる。さすがに知り合いのわけはないか。だとしたら、こいつはなんでさくらのことを知ってるんだ?

「巫女がどうした? なんの用だ?」

 さくらが巫女だと知られるわけにはいかない。なんでコイツが巫女を探してるのか。

「俺様の大切な部下が、巫女を手に入れるって言ったっきり行方不明になったんでな。探してる」

 それって大邪神のことか? こいつ、大邪神の親分か。邪神の親玉が大邪神。そしてこいつは更に親分? めっちゃ強そうなんですけどー!

「こら、待て邪々神よ! 痛かったじゃないか!」

 ロリ神様が肩をさすりながらこっちに飛んで来た。

「なんだお前は?」
豊姫美とよきみじゃ」

 ロリ神様は腰に手を当てて、胸を張ってにやりと笑ってる。二メートルの邪々神に対して、小学生みたいな体格じゃ相手にならなさそうだけど、ロリ神様はなかなか堂々としてる。大したもんだな。

「そんなやつ、知らん」

 邪々神じゃじゃがみは鼻をふんと鳴らして、ロリ神様を見下ろした。全然相手にされてないぞ!

 そりゃあ、あんなに弱そうな疫病神にすら、バカにされてたんだもんなぁ。神様と言っても見習いだし。

「こら邪々神よ。ワシを知らんとは何ごとぞ。でもまあ、ええわ。ところでなんでお前ほどの大物が、人間界に来ておる?」
「ほほぉ、俺様のことを知ってるようだな」
「まあ天の国の者なら、悪評高いお前さんのことなど、誰でも知っておろう」
「ほぉ。俺様はそんなに評判がいいかな?」
「そうじゃな。自分の利欲だけで動き、慈悲はなく、そして女好き」

 お、女好き? こいつもか。
 邪神の系統は、みんな女好きなのか!?

「たくさんお褒めの言葉をもらってありがとよ。で、大邪神がしこたま上物じょうものの巫女を見つけたと言ってたのに、消えてしまった。これは何かあるに違いないと、数百年ぶりに人間界にきたのさ」

 邪々神じゃじゃがみは俺たち四人と一柱ひとばしらを、その嫌らしい目でぐるっと見回した。やっぱ気持ち悪い。

「で、どいつが巫女なんだ?」
「ほぉ、お前さん、見分けがつかないんじゃな。身体ばっかりでかくて、能力は低そうじゃの」
「おい、ロリ神様! そんな相手を挑発するようなことを言うなよ!」

 邪々神は苦々しい顔で睨んでるじゃないか。こいつが怒りだしたら、ロリ神様では防ぎきれないだろ。無責任な挑発しやがって。

「天心よ。こいつは動きはそんなに早くないが、結構力が強い。心して攻撃せよ」
「こ、攻撃せよって!? 俺が?」

 思わずロリ神様の顔を見た。こいつ真顔だ。
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