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【13:大邪神】
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◆◇◆
タカヤさんが自分のカラオケ屋にまで歩いて行くのを、私は黙って後をついて歩いた。
頭の中では『ついて行ってはいけない』と考えてるのに、なぜか身体が言うことをきかない。言葉も出ない。
ただ全身が痺れたようになってて、タカヤさんの言う通りに勝手に身体が動く。
ちょっと待って! ホントにこれはいったいなにー?
誰か助けて!
タカヤさんの後ろ姿を見ると、相変わらずぼやっとした黒い影が見える。あれはなに?
実態がはっきりしないし、今まで見た邪神や霊が取り憑いてるのとは少し違う。より大きな邪気を感じる。
とても危険だ。でも自由が効かない身体で、どうしたらいいの?
「どうぞ」
タカヤさんがカラオケ屋のドアを開けて、中に入れという仕草をしてる。
ダメ! 絶対に入ってはダメ。
密室で何をされるかわからない。
「はい」
えーっ? 私の口は、何を言ってるの?
なんで素直に返事してるの?
入ってなるものか!
勝手に身体が動いて店の中に入ろうとするのを、ぐっと踏ん張る。
「さあどうぞ。遠慮しないで」
遠慮なんかしてないし。
タカヤさんがにやっと笑うと、彼の身体を取り巻いてる黒い影が、ボワッと大きく揺らめいた。ひえぇぇ、なんか怖い。
ああああああ、また身体が勝手に……
店内に入って受付カウンターの前で立ち尽くしてると、タカヤさんが後から入ってきた。
「やっと二人きりになれたね。この前初めて見た時から、さくらちゃんがあまりにも美人で、仲良くなりたいと思ってたんだ」
キモっ!
身体の自由があまり効かないけど、思いっ切り顔を左右に振って拒否を表したら、タカヤさんはフッと鼻で笑った。
なにこの人? 感じ悪。
「まあ、そう拒否るなよ。俺と付き合おうぜ。お前、彼氏いるのか?」
彼氏という言葉で、天心君の顔が思い浮かんだ。──いや、彼氏じゃないし。
なんで天心君の顔が浮かぶの?
「まあ彼氏がいても、俺に乗り換えなよ。俺と付き合えば、普通の人間ではできないくらい、気持ちいいことしてあげるからさ」
唇の端をいやらしくあげて、ニヤリと笑ってタカヤさんが近づいてくる。彼を包む黒い影が、少しはっきりした形を見せて、凄く邪悪な顔のようなものを形作ってる。
うわっ、気色悪い。やめて。来ないで~!
あ、両腕がなんとか少し動く。
両腕を前に出して、ぶんぶんと振った。
「およ? さくらちゃん、凄いね。そこまで身体を動かせる人は初めて見たよ」
口では凄いと言いながら、余裕の顔して徐々に迫ってくる。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「今からさ、心まで取り込んであげるよ。そしたらお前は『タカヤさ~ん大好きっ』って言い出すよ。楽しみだね~」
心まで? そんなのやだ。
やだやだやだやだやだ!
「あ……だずげで……」
うまく声が出ない。
「すぐに気持ち良くしてあげるから、諦めろ」
やだやだやだ、やだやだやだ!
タカヤさんが抱きつこうと、両手を前に出した。
「や……やだーっ!! 天心君、助けてーっ!!」
なんとか出た声を、思い切り絞り出した。なぜか天心君の名前を呼んでいた。
「はははっ。天心ってのが彼氏の名前か? この状態で大声を出せるのは凄いけど、無駄なあがきはするな」
その時店の扉がバンッと音を立てて開いた。そこに立つのは──まさか。
「なんだお前は?」
「て、天心君!」
なんで天心君がここに?
いや、理由はどうでもいい。とにかく天心君が来てくれた。
「神凪。いったい何が起きてるんだ?」
「この人が、私を襲おうとして……」
「この人?」
天心君はタカヤさんの姿をじっと見つめてる。
「こいつ人じゃない。なんか邪悪な黒い影が、人の形を作ってるような……」
そうか。人に邪神が取り憑いてるのでなくて、これは邪神そのものなんだ。
噂に聞いたことがある。人の姿を装うことができる邪神の親玉みたいなヤツ。
「あ、あんた。大邪神?」
「ほほぉ、よく知ってるな。その通りだ。高柳に憑いた邪神を操ってた大邪神が俺」
「そ、そうなんかー? お前が悪の根源か! でも、ということは……お前、すげー強い?」
「フッ、まあな。自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃ強いぜ」
天心君があたふたしてる。霊力が強い天心君でも、さすがに大邪神は強敵なの?
「じゃ、そういうことで。俺帰ります」
「おぉーい? ちょっと待ってよ! か弱き私を置いて逃げる気?」
「いや、神凪お前、か弱くないし」
なーにー!?
せっかく白馬に乗った王子様が現れたと思ったのに。ぐすん。
「それ、酷くない!?」
「あ、いや……冗談だよ。神凪一人置いて逃げるつもりはないけど、だけどこんなヤツ、俺にはどうしようもない。俺はケンカも弱いし、ましてや大邪神なんて」
天心君は真顔だ。彼ほどの霊力の持ち主からしても、やっぱり大邪神はよっぽど強いんだ。
「おい、お前ら何をイチャコラしてる? ムカつくヤツだな。その男を瞬殺してやる」
黒い影の大邪神が苦々しい顔をすると、店のドアがひとりでにバタンとしまった。逃がさないぞという意志がありありだ。
大邪神がカウンター上の観葉植物の鉢から素早く土を握って、天心君に投げつけた。
「うわっ、目が……イテェ!」
目潰しなんて、卑怯な!
大邪神はふわりと浮き上がって、天心君のすぐ前までヒュンと飛んでいく。でも天心君はまったく気づいてない。やられる!
「危ない天心君!」
その瞬間突然天心君の背後から、神々しく白い光が現れて、鋭く尖った先が大邪神に向けて一閃した。
凄い!
あまりに早くて、その光は一瞬しか見えなかった。
大邪神は実体のない霊気のはずなのに、あっという間にスパっと真っ二つに分かれた。苦しそうな呻き声とともに、蒸発するように霊気が霧散してる。
凄く強いと噂で聞いた大邪神が、瞬時にやられるこの霊力。
なんて強い霊力なの?
こんなの今まで見たことない。
タカヤさんが自分のカラオケ屋にまで歩いて行くのを、私は黙って後をついて歩いた。
頭の中では『ついて行ってはいけない』と考えてるのに、なぜか身体が言うことをきかない。言葉も出ない。
ただ全身が痺れたようになってて、タカヤさんの言う通りに勝手に身体が動く。
ちょっと待って! ホントにこれはいったいなにー?
誰か助けて!
タカヤさんの後ろ姿を見ると、相変わらずぼやっとした黒い影が見える。あれはなに?
実態がはっきりしないし、今まで見た邪神や霊が取り憑いてるのとは少し違う。より大きな邪気を感じる。
とても危険だ。でも自由が効かない身体で、どうしたらいいの?
「どうぞ」
タカヤさんがカラオケ屋のドアを開けて、中に入れという仕草をしてる。
ダメ! 絶対に入ってはダメ。
密室で何をされるかわからない。
「はい」
えーっ? 私の口は、何を言ってるの?
なんで素直に返事してるの?
入ってなるものか!
勝手に身体が動いて店の中に入ろうとするのを、ぐっと踏ん張る。
「さあどうぞ。遠慮しないで」
遠慮なんかしてないし。
タカヤさんがにやっと笑うと、彼の身体を取り巻いてる黒い影が、ボワッと大きく揺らめいた。ひえぇぇ、なんか怖い。
ああああああ、また身体が勝手に……
店内に入って受付カウンターの前で立ち尽くしてると、タカヤさんが後から入ってきた。
「やっと二人きりになれたね。この前初めて見た時から、さくらちゃんがあまりにも美人で、仲良くなりたいと思ってたんだ」
キモっ!
身体の自由があまり効かないけど、思いっ切り顔を左右に振って拒否を表したら、タカヤさんはフッと鼻で笑った。
なにこの人? 感じ悪。
「まあ、そう拒否るなよ。俺と付き合おうぜ。お前、彼氏いるのか?」
彼氏という言葉で、天心君の顔が思い浮かんだ。──いや、彼氏じゃないし。
なんで天心君の顔が浮かぶの?
「まあ彼氏がいても、俺に乗り換えなよ。俺と付き合えば、普通の人間ではできないくらい、気持ちいいことしてあげるからさ」
唇の端をいやらしくあげて、ニヤリと笑ってタカヤさんが近づいてくる。彼を包む黒い影が、少しはっきりした形を見せて、凄く邪悪な顔のようなものを形作ってる。
うわっ、気色悪い。やめて。来ないで~!
あ、両腕がなんとか少し動く。
両腕を前に出して、ぶんぶんと振った。
「およ? さくらちゃん、凄いね。そこまで身体を動かせる人は初めて見たよ」
口では凄いと言いながら、余裕の顔して徐々に迫ってくる。どうしよう、どうしよう、どうしよう。
「今からさ、心まで取り込んであげるよ。そしたらお前は『タカヤさ~ん大好きっ』って言い出すよ。楽しみだね~」
心まで? そんなのやだ。
やだやだやだやだやだ!
「あ……だずげで……」
うまく声が出ない。
「すぐに気持ち良くしてあげるから、諦めろ」
やだやだやだ、やだやだやだ!
タカヤさんが抱きつこうと、両手を前に出した。
「や……やだーっ!! 天心君、助けてーっ!!」
なんとか出た声を、思い切り絞り出した。なぜか天心君の名前を呼んでいた。
「はははっ。天心ってのが彼氏の名前か? この状態で大声を出せるのは凄いけど、無駄なあがきはするな」
その時店の扉がバンッと音を立てて開いた。そこに立つのは──まさか。
「なんだお前は?」
「て、天心君!」
なんで天心君がここに?
いや、理由はどうでもいい。とにかく天心君が来てくれた。
「神凪。いったい何が起きてるんだ?」
「この人が、私を襲おうとして……」
「この人?」
天心君はタカヤさんの姿をじっと見つめてる。
「こいつ人じゃない。なんか邪悪な黒い影が、人の形を作ってるような……」
そうか。人に邪神が取り憑いてるのでなくて、これは邪神そのものなんだ。
噂に聞いたことがある。人の姿を装うことができる邪神の親玉みたいなヤツ。
「あ、あんた。大邪神?」
「ほほぉ、よく知ってるな。その通りだ。高柳に憑いた邪神を操ってた大邪神が俺」
「そ、そうなんかー? お前が悪の根源か! でも、ということは……お前、すげー強い?」
「フッ、まあな。自分で言うのもなんだけど、めちゃくちゃ強いぜ」
天心君があたふたしてる。霊力が強い天心君でも、さすがに大邪神は強敵なの?
「じゃ、そういうことで。俺帰ります」
「おぉーい? ちょっと待ってよ! か弱き私を置いて逃げる気?」
「いや、神凪お前、か弱くないし」
なーにー!?
せっかく白馬に乗った王子様が現れたと思ったのに。ぐすん。
「それ、酷くない!?」
「あ、いや……冗談だよ。神凪一人置いて逃げるつもりはないけど、だけどこんなヤツ、俺にはどうしようもない。俺はケンカも弱いし、ましてや大邪神なんて」
天心君は真顔だ。彼ほどの霊力の持ち主からしても、やっぱり大邪神はよっぽど強いんだ。
「おい、お前ら何をイチャコラしてる? ムカつくヤツだな。その男を瞬殺してやる」
黒い影の大邪神が苦々しい顔をすると、店のドアがひとりでにバタンとしまった。逃がさないぞという意志がありありだ。
大邪神がカウンター上の観葉植物の鉢から素早く土を握って、天心君に投げつけた。
「うわっ、目が……イテェ!」
目潰しなんて、卑怯な!
大邪神はふわりと浮き上がって、天心君のすぐ前までヒュンと飛んでいく。でも天心君はまったく気づいてない。やられる!
「危ない天心君!」
その瞬間突然天心君の背後から、神々しく白い光が現れて、鋭く尖った先が大邪神に向けて一閃した。
凄い!
あまりに早くて、その光は一瞬しか見えなかった。
大邪神は実体のない霊気のはずなのに、あっという間にスパっと真っ二つに分かれた。苦しそうな呻き声とともに、蒸発するように霊気が霧散してる。
凄く強いと噂で聞いた大邪神が、瞬時にやられるこの霊力。
なんて強い霊力なの?
こんなの今まで見たことない。
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