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【8:カラオケ行こーよ】
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x 放課後のホームルームが終わった。
高柳がにへら笑いを浮かべて、神凪に話しかけている。相変わらず肩には、陰気な顔した邪神が乗っている。
「さくらちゃーん。昨日は残念だったから、またカラオケ行こーよ」
「そうですね」
神凪は笑顔を浮かべて、俺をチラッと見た。そして何かを思いついたような顔をする。
「もしよければ、今日でもいかが?」
「へっ?」
神凪の返事は高柳にとって期待以上だったようで、彼の顔がみるみるうちに、にんまぁと崩れる。
「いいの? やっぱさくらちゃんは、僕と遊びに行きたかったんだねぇ~」
そうなのか? 神凪は案外ゲテモノ食いなのかも。それとも昨日聞いた、高柳がボクシングをやってるって話に惹かれたのか?
神凪は『強い人が好き』って言ってたもんな。
「柴崎君も昨日行けなかったから、一緒に行きましょうよ」
神凪が俺を向いて、清楚な笑顔を振りまいた。
「えっ? 俺はいいよ」
「柴崎君もいいんだって。じゃあ一緒に行きましょう」
「その『いい』じゃないよ」
なんだそりゃー!
昨日日和がやられてたのと同じ、超古典的な手を使いやがって。
俺が高柳と一緒に、カラオケなんか行くわけが……
──うっわ、神凪が恐ろしく鋭い目つきで俺を睨んでる。従わないと殺されそうだ。
「柴崎君も一緒に、行けるんでしょ?」
「はい」
ありゃ、思わず二つ返事で承諾しちゃったよ。
「え~っ? 柴崎なんか、連れて行きたくないよ。二人で行こうよ、さくらちゃん。ねっ、ねっ!」
「私はクラスメイトの皆さまと仲良くしたいの。優しくて強い高柳君なら、わかってくれるよね?」
神凪はにこりとして、こくんと小首を傾げる。高柳は顔が爆発しそうなくらい赤くなって、「うん」と答えた。
神凪すげー。
清楚な雰囲気で、男心を一発で溶かしやがった。
──でも本性は違うんだから、女って怖い。
「でも……男二人に女の子一人ってのもねぇ」
そう言いながら、高柳は横に立ってる日和をチラ見する。
いや待て。そりゃまずい。
クラス人気ワンツーの女子と俺がカラオケ行くなんて、いくら高柳が一緒だとはいえ、クラス中の男子を敵に回すようなもんだ。
「日和ちゃんも一緒にどう?」
絶対にオーケーするなよ!
牽制のために日和を見た。
俺と目が合った日和は、こくんとうなずく。よしよし。
「はい、ご一緒させていただきますねぇ」
へっ? なんで?
おーい! お前はあほか!?
カラオケルームに向かう道すがら、「なんでオーケーするんだよ?」と小声で聞いたら……
「だって、一緒にカラオケ行こうよって、天心君の目が語ってましたぁ」
なんて言いやがった。
俺の目が、そんなことを語るわけない。
「あほか」
俺がひと言で返したら、日和は「ぐっすぅ」と声を出して半ベソかいてる。しまった。また悲しませてしまったかな。
「ああ、悪かったよ、泣くな……って、痛ってぇ!」
いきなり右の太ももに、つねられたような痛みが走った。前を歩く高柳が振り返る。
「どうした?」
「いや、何でもない。早くカラオケに『行きて~』って言っただけ」
「今向かってるだろ? バカか」
高柳はまた前を向いて歩きだした。
なんとかごまかせたみたいだ。
右側を見ると、神凪が何食わぬ顔で歩いてる。こいつがつねったな。なんでいきなりそんなことをするんだよ? 俺、何か悪いことでもしたか?
「何すんだよ?」
小声で話しかけると、神凪は素知らぬふりで「何が?」って返しやがった。
「どうでもいいけど、イチャコラしてる場合じゃないのよ。あんた今日の目的わかってんの? 単に遊びに行くんじゃないんだから」
神凪は不満げな小声でボソボソと言う。
「え? 遊びに行くんじゃないの?」
てっきり神凪がカラオケしたくて、うずうずして『今日行こう』って言ったのかと思った。
「あほか。高柳君に憑く邪神を観察しに行くに決まってるでしょ」
そうなのか。全然思いもよらなかった。
そうだとわかってたら、一緒に行くのを全力で拒否ったのに。面倒なことは嫌だ。
「なに、ボソボソと喋ってるのかな?」
高柳が怪訝な顔で振り返る。
こりゃ、嫉妬に溢れた顔だ。
俺が人気女子と話すようなことがあると、いつも向けられてた顔。嫉妬だったり、嫌悪だったり。だからできるだけ日和やこの神凪とも、人前では話さないようにしてるのになぁ。
「ごめんなさい、高柳君。この前の地鎮祭《じちんさい》のことで、問題がなかったか、柴崎君にお聞きしてたの」
「そういえば、そのチンチンさい。俺もやってくれよ~」
思い出したように言う高柳に、神凪は苦笑いを浮かべる。
「あの……地鎮祭ね」
「えっ? なんだって?」
「地鎮祭」
「あれ? 俺、さっきなんて言ったっけ?」
「高柳君は間違えて、チンチ……」
神凪はそこまで言って、顔を真っ赤にして口ごもった。こいつ、案外うぶなのか?
「え? なんだって? 聞こえなーい」
高柳は耳の後ろに手のひらを当てて、わざとらしく聞き直してる。こいつはセクハラおじさんか?
高柳の肩に座った邪神もにやにやしてる。
邪神のせいで高柳がこんな態度を取るのか、こんな態度だから邪神に取り憑かれるのか、どっちだ?
「その地鎮祭っていうのはね、建物を新築する前にするものなの。高柳君の所も、新築するご予定はあるのかしら?」
高柳はきょとんとした。
「いや……ないな」
「じゃあまた新築することになったら、ぜひ神凪神社をご利用くださいね」
おおっ、うまいこと切り抜けたな。なかなかやるじゃないか、神凪さくら。
高柳がにへら笑いを浮かべて、神凪に話しかけている。相変わらず肩には、陰気な顔した邪神が乗っている。
「さくらちゃーん。昨日は残念だったから、またカラオケ行こーよ」
「そうですね」
神凪は笑顔を浮かべて、俺をチラッと見た。そして何かを思いついたような顔をする。
「もしよければ、今日でもいかが?」
「へっ?」
神凪の返事は高柳にとって期待以上だったようで、彼の顔がみるみるうちに、にんまぁと崩れる。
「いいの? やっぱさくらちゃんは、僕と遊びに行きたかったんだねぇ~」
そうなのか? 神凪は案外ゲテモノ食いなのかも。それとも昨日聞いた、高柳がボクシングをやってるって話に惹かれたのか?
神凪は『強い人が好き』って言ってたもんな。
「柴崎君も昨日行けなかったから、一緒に行きましょうよ」
神凪が俺を向いて、清楚な笑顔を振りまいた。
「えっ? 俺はいいよ」
「柴崎君もいいんだって。じゃあ一緒に行きましょう」
「その『いい』じゃないよ」
なんだそりゃー!
昨日日和がやられてたのと同じ、超古典的な手を使いやがって。
俺が高柳と一緒に、カラオケなんか行くわけが……
──うっわ、神凪が恐ろしく鋭い目つきで俺を睨んでる。従わないと殺されそうだ。
「柴崎君も一緒に、行けるんでしょ?」
「はい」
ありゃ、思わず二つ返事で承諾しちゃったよ。
「え~っ? 柴崎なんか、連れて行きたくないよ。二人で行こうよ、さくらちゃん。ねっ、ねっ!」
「私はクラスメイトの皆さまと仲良くしたいの。優しくて強い高柳君なら、わかってくれるよね?」
神凪はにこりとして、こくんと小首を傾げる。高柳は顔が爆発しそうなくらい赤くなって、「うん」と答えた。
神凪すげー。
清楚な雰囲気で、男心を一発で溶かしやがった。
──でも本性は違うんだから、女って怖い。
「でも……男二人に女の子一人ってのもねぇ」
そう言いながら、高柳は横に立ってる日和をチラ見する。
いや待て。そりゃまずい。
クラス人気ワンツーの女子と俺がカラオケ行くなんて、いくら高柳が一緒だとはいえ、クラス中の男子を敵に回すようなもんだ。
「日和ちゃんも一緒にどう?」
絶対にオーケーするなよ!
牽制のために日和を見た。
俺と目が合った日和は、こくんとうなずく。よしよし。
「はい、ご一緒させていただきますねぇ」
へっ? なんで?
おーい! お前はあほか!?
カラオケルームに向かう道すがら、「なんでオーケーするんだよ?」と小声で聞いたら……
「だって、一緒にカラオケ行こうよって、天心君の目が語ってましたぁ」
なんて言いやがった。
俺の目が、そんなことを語るわけない。
「あほか」
俺がひと言で返したら、日和は「ぐっすぅ」と声を出して半ベソかいてる。しまった。また悲しませてしまったかな。
「ああ、悪かったよ、泣くな……って、痛ってぇ!」
いきなり右の太ももに、つねられたような痛みが走った。前を歩く高柳が振り返る。
「どうした?」
「いや、何でもない。早くカラオケに『行きて~』って言っただけ」
「今向かってるだろ? バカか」
高柳はまた前を向いて歩きだした。
なんとかごまかせたみたいだ。
右側を見ると、神凪が何食わぬ顔で歩いてる。こいつがつねったな。なんでいきなりそんなことをするんだよ? 俺、何か悪いことでもしたか?
「何すんだよ?」
小声で話しかけると、神凪は素知らぬふりで「何が?」って返しやがった。
「どうでもいいけど、イチャコラしてる場合じゃないのよ。あんた今日の目的わかってんの? 単に遊びに行くんじゃないんだから」
神凪は不満げな小声でボソボソと言う。
「え? 遊びに行くんじゃないの?」
てっきり神凪がカラオケしたくて、うずうずして『今日行こう』って言ったのかと思った。
「あほか。高柳君に憑く邪神を観察しに行くに決まってるでしょ」
そうなのか。全然思いもよらなかった。
そうだとわかってたら、一緒に行くのを全力で拒否ったのに。面倒なことは嫌だ。
「なに、ボソボソと喋ってるのかな?」
高柳が怪訝な顔で振り返る。
こりゃ、嫉妬に溢れた顔だ。
俺が人気女子と話すようなことがあると、いつも向けられてた顔。嫉妬だったり、嫌悪だったり。だからできるだけ日和やこの神凪とも、人前では話さないようにしてるのになぁ。
「ごめんなさい、高柳君。この前の地鎮祭《じちんさい》のことで、問題がなかったか、柴崎君にお聞きしてたの」
「そういえば、そのチンチンさい。俺もやってくれよ~」
思い出したように言う高柳に、神凪は苦笑いを浮かべる。
「あの……地鎮祭ね」
「えっ? なんだって?」
「地鎮祭」
「あれ? 俺、さっきなんて言ったっけ?」
「高柳君は間違えて、チンチ……」
神凪はそこまで言って、顔を真っ赤にして口ごもった。こいつ、案外うぶなのか?
「え? なんだって? 聞こえなーい」
高柳は耳の後ろに手のひらを当てて、わざとらしく聞き直してる。こいつはセクハラおじさんか?
高柳の肩に座った邪神もにやにやしてる。
邪神のせいで高柳がこんな態度を取るのか、こんな態度だから邪神に取り憑かれるのか、どっちだ?
「その地鎮祭っていうのはね、建物を新築する前にするものなの。高柳君の所も、新築するご予定はあるのかしら?」
高柳はきょとんとした。
「いや……ないな」
「じゃあまた新築することになったら、ぜひ神凪神社をご利用くださいね」
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