乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの

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アリーチェ・ファスタグランという人物

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アリーチェ・ファスタグラン。

ゲームでは各ルートで1度しか登場しないモブデブ令嬢。しかもその登場というのが、舞台となる学園での入学式でたまたまヒロインの隣に居合わせて、攻略対象の説明をするという、まぁなんとも地味な役回りだった。
それ以降、物語には一切関係して来ず、「だったらモブAとかでいいんじゃね?」と思ったものだ。しかもその説明というのがスキップできなかったため、友人は攻略し直す度にそのモブデブ令嬢に対して「そんなこと分かってんだよ!!さっさと攻略させろ!!」と罵声を浴びせてるらしく、あくまでゲームの中ではヒロインに丁寧に説明してあげているのだからそんなに怒らなくてもいいのにと、ちょっと同情した。
つまり、日比谷夏那からしたらアリーチェ・ファスタグランは名前とデフォルメしか分からないモブデブ令嬢なのだ。

だが、不思議なことに今の私にはアリーチェ・ファスタグランとして生きてきた記憶があり、色々なことが分かる。

私、アリーチェ・ファスタグランは現在7歳。ファスタグラン伯爵家の令嬢であり、ファスタグラン伯爵家は長い歴史をもつ由緒正しいお家柄で、爵位は伯爵なのだが、実質、侯爵と同じくらいの権力を持っている。


そして、その当主である父様と母様が私のことを心配して顔を覗き込んでいる。

「リーチェ…本当に心配したんだよ?何があったか覚えているかい?」

そう父様が私の手をその大きな手で包みながら声をかけてくれる。けれども、アリーチェの記憶を探ってみても思い当たる節がない。そんな私の考え込む様子に、覚えていないことを悟ったのか「大丈夫」と父様が優しく私の頭を撫でる。

「リーチェはね、家庭教師の授業から逃げ出して、追いかけられている途中で庭園にある池に落ちてしまったんだよ。思い出せない?」

そう言われて段々思い出してきた。たしか算数の授業で中々問題が解けずに癇癪を起こした私は、授業中に逃げ出して庭園に出た。そして、暇つぶしに池にいる魚を見ようとしゃがんで池を覗き込んだ時に、少しふくよかな私は前に体重をかけたらそのままボチャンと水の中へ落ちてしまったのだ。
服が水を吸い、どんどん底の方へ引きずられていく感覚。どれだけもがいても水面からどんどん遠ざかっていった光景を思い出し、身震いをする。

「…思い、出しました。父様、母様、本当にごめんなさい…。」
「リーチェ、二度と授業から逃げ出してはいけないよ?それと、いつでも護衛か侍女を1人はつけておくれ。約束できるよね?」
「はい、分かりました。」

父様の声には厳しさが混じっていたが、私が返事をするといつもの優しい笑顔を浮かべてくれた。そこでふと私は助けてくれた人のことが気になった。全くと言っていいほど覚えていないのだ。

「父様、わたくしのことを助けてくださったのはどなたですの?」
「…リーチェの専属侍女のカミラだよ、後でお礼を言おうね?」
「はい、分かりました。」

私を助けたのは誰かと聞いた時、父様の顔が少し引きつったような気がしたのだけれど私は気のせいと思っておく事にした。

これが後々、ある出来事に繋がることになるとは夢にも思っていなかった。
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