3 / 24
アリーチェ・ファスタグランという人物
しおりを挟むアリーチェ・ファスタグラン。
ゲームでは各ルートで1度しか登場しないモブデブ令嬢。しかもその登場というのが、舞台となる学園での入学式でたまたまヒロインの隣に居合わせて、攻略対象の説明をするという、まぁなんとも地味な役回りだった。
それ以降、物語には一切関係して来ず、「だったらモブAとかでいいんじゃね?」と思ったものだ。しかもその説明というのがスキップできなかったため、友人は攻略し直す度にそのモブデブ令嬢に対して「そんなこと分かってんだよ!!さっさと攻略させろ!!」と罵声を浴びせてるらしく、あくまでゲームの中ではヒロインに丁寧に説明してあげているのだからそんなに怒らなくてもいいのにと、ちょっと同情した。
つまり、日比谷夏那からしたらアリーチェ・ファスタグランは名前とデフォルメしか分からないモブデブ令嬢なのだ。
だが、不思議なことに今の私にはアリーチェ・ファスタグランとして生きてきた記憶があり、色々なことが分かる。
私、アリーチェ・ファスタグランは現在7歳。ファスタグラン伯爵家の令嬢であり、ファスタグラン伯爵家は長い歴史をもつ由緒正しいお家柄で、爵位は伯爵なのだが、実質、侯爵と同じくらいの権力を持っている。
そして、その当主である父様と母様が私のことを心配して顔を覗き込んでいる。
「リーチェ…本当に心配したんだよ?何があったか覚えているかい?」
そう父様が私の手をその大きな手で包みながら声をかけてくれる。けれども、アリーチェの記憶を探ってみても思い当たる節がない。そんな私の考え込む様子に、覚えていないことを悟ったのか「大丈夫」と父様が優しく私の頭を撫でる。
「リーチェはね、家庭教師の授業から逃げ出して、追いかけられている途中で庭園にある池に落ちてしまったんだよ。思い出せない?」
そう言われて段々思い出してきた。たしか算数の授業で中々問題が解けずに癇癪を起こした私は、授業中に逃げ出して庭園に出た。そして、暇つぶしに池にいる魚を見ようとしゃがんで池を覗き込んだ時に、少しふくよかな私は前に体重をかけたらそのままボチャンと水の中へ落ちてしまったのだ。
服が水を吸い、どんどん底の方へ引きずられていく感覚。どれだけもがいても水面からどんどん遠ざかっていった光景を思い出し、身震いをする。
「…思い、出しました。父様、母様、本当にごめんなさい…。」
「リーチェ、二度と授業から逃げ出してはいけないよ?それと、いつでも護衛か侍女を1人はつけておくれ。約束できるよね?」
「はい、分かりました。」
父様の声には厳しさが混じっていたが、私が返事をするといつもの優しい笑顔を浮かべてくれた。そこでふと私は助けてくれた人のことが気になった。全くと言っていいほど覚えていないのだ。
「父様、私のことを助けてくださったのはどなたですの?」
「…リーチェの専属侍女のカミラだよ、後でお礼を言おうね?」
「はい、分かりました。」
私を助けたのは誰かと聞いた時、父様の顔が少し引きつったような気がしたのだけれど私は気のせいと思っておく事にした。
これが後々、ある出来事に繋がることになるとは夢にも思っていなかった。
8
お気に入りに追加
3,753
あなたにおすすめの小説

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?


十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。
りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。
やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか
勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。
ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。
蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。
そんな生活もううんざりです
今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。
これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる