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それは現実で
しおりを挟む「たちばな…?」
いつもはガンを飛ばしているように見えるくらいつり上がっている目が今は優しく俺を覗き込んでいる。
橘蓮は俺のクラスメイトでもあり、中学の時の同級生でもある。
かと言ってめちゃくちゃ仲が良かったという訳ではなく、時々話す程度だった。
橘は髪を金髪に染めてるしピアスも開けてるし喧嘩っ早い…要はヤンキーみたいな奴。
でも理不尽に人を殴ったりするような奴じゃなくて、目つきが悪いから喧嘩を売られやすくてそれを正当防衛してるだけなので悪い奴じゃない。
『他校のヤンキーと揉めて1人で5,6人を病院送りにした』とか『実は人を殺した事がある』とか尾ひれや背びれがついた噂が後を絶たず、みんな怖がって近づかないのだ。
そんな橘がこんな心配そうな顔をしているくらい、今の俺の顔は血の気も引いてひどいことになっているのかもしれない。
「大丈夫か…?いや、大丈夫なんかじゃねぇよな…。付き合ってた恋人に誰?なんか言われちゃあな…」
たしかに海斗に誰?と言われたこともすごくショックだが、橘に俺と海斗が付き合ってた事がバレていることに更に衝撃を受けて口が金魚のようにパクパクしてしまう。
そんな俺の様子に考えていることが大体伝わったのか橘は「あぁ…」と呟き、どことなく気恥ずかしそうに「俺が知ってるのは今は置いといて」と言い、真剣な顔つきになり俺の両肩に置いていた手に力を込めた。
「今朝あいつとたまたま玄関で一緒になった時に大体の事情は聞いといてある。聞く覚悟はあるか?」
その言葉に震えそうになる手を押さえつけながらゆっくり頷く。
そうか、と橘は俺の肩を掴んでいた手をゆっくり下ろし話し始めた。
今朝橘が玄関で内履きに履き替えている時に頭を包帯でぐるぐる巻きにした海斗に会って思わず声をかけたそうだ。
話を聞いてみると、昨夜、海斗が自宅の階段で足を滑らせて頭をぶつけたこと。
救急搬送されて色んな検査も受けたが異常はなかったこと。
その際にスマホも完全故障してしまっていること。
そして…
俺のことだけ完全に忘れてしまっていること。
「俺があいつに『怪我しちまったこととか異常はないこととか早く譲に伝えねぇとあいつ心配するぞ』って言ったら…あいつ…『譲って誰?』って…。
まじでタチの悪い冗談かと思ってよ…。そんな笑えねぇ冗談言ってんじゃねぇよって言ったのにあいつまじでおまえのこと覚えてなさそうで…」
すごく悔しそうに橘が言うもんだから、あぁ、そうなのか、現実か、なんて実感してきて視界が涙で歪んだ。
17にもなってこんなに子供みたいに泣くんだってくらいわんわん泣いて、橘が背中を撫でてくれるもんだからもっと泣いて…気付いたら橘の腕の中で眠ってしまった。
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