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1章 家族

兄が出来ました

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マリアは部屋に入ってくるなり私も見てクスッと笑った。たしかに傍から見れば、5歳の女の子が眼帯をつけて鏡をじっくり見ているのだから、微笑ましいだろう。だけど私の中身は20歳+5歳、マリアはたしか15歳だから年下だ。
そのまま化粧台に備え付けられた椅子にちょこんと座り、恥ずかしくて下を向く。前世では顔に感情が出ないように出来たのに、体の年齢に引っ張られているからか難しいのだ。とは言っても目が少し見開かれ、頬がピンクに染まる程度だが、マリアには見抜かれているだろう。
そんな私の反応を見てマリアはさらに笑みを深め、私の背後までやって来た。

「おはようございます、シノン様」
「…おはよう、マリア」
「本日はどのような髪型になさいますか?」

どのような…自分で真っ直ぐはいいと断っておいて具体的な案を挙げないのも申し訳ないと思いつつ、鏡に映る自分を見る。

(なんか白い髪の毛がクセっ毛でふわふわしててなんだか羊みたい…羊…いいかも!!)
「マリア。私、羊がいいわ」
「羊、でございますか?」
「うん、サイドの髪を三つ編みにしてそれを上の方で羊の角みたいに渦巻き状にしてピンで止めれば完成で、簡単だと思うのだけど…だめかしら?」
「いえ、シノン様ならとてもお似合いになられますよ」

そう言ってマリアは微笑んでくれた。羊は私の好きな動物NO.1なのだ。羊を数えてればすぐに眠れるし、私にとっては良いパートナーでもあった。それから5分もしないうちに髪型は完成し、化粧と着替えを済ませた私は父様の待つ執務室へ向かった。

父様の執務室のドアをノックし、返事を待ってからドアを開けた。何気に執務室に入るのはこれが初めてで少し緊張する。部屋には、椅子から立ち上がったばかりの父様とこちらに背を向けて立っている子供がいた。
父様がこちらへ近づいてくると、その子がつられてこちらを向いた。少しだけ息を飲んでしまったのは仕方ないだろう。父様が私の手を取り、男の子の目の前まで誘導した。

「シノン、今日から君の兄となる人だよ。フラメル、挨拶を。」
「…わかり、ました。フラメル、と申します。よろしく、お願いします。」

父様から自己紹介を促され、フラメルは少したどたどしく自己紹介をした。じっと見入っていると父様から肩をポンと叩かれた。一瞬ピクッとなったが私も慌てて自己紹介をする。

「シノンと申します。こんな素敵な兄ができて嬉しいです。よろしくお願いします、フラメルお兄様。」

少しだけ微笑んだ私を見て、フラメルお兄様は目を見開いたがすぐに逸らしてしまわれた。

(女の子か男の子か一瞬分からなかった…)

フラメル・アダマンタイト。私の2歳年上の設定だから今は7歳のはずだ。黒髪に紫の瞳をしており、髪は肩より下の位置まで伸びていることと、端正な顔であることで女の子にも見える。
ゲームでは、シノンは5歳の誕生日を祝うお茶会で攻略対象達に会い、そのうちの1人に惚れてその人の婚約者候補になる。攻略対象達はいずれも長男であるため、父様はフラメルを養子にし、自分の跡を継がせようとする。
とある伯爵家でフラメルはその容姿と魔力量の多さを恐れられ、魔力を抑える枷をされ、監禁されていた。この世界には魔族が存在し、魔族は黒髪の者が多く、魔力量も多いためである。
シノンはフラメルの容姿を見て『魔族』『化け物』と蔑み、嫌い、いじめ倒していた。
フラメルルートでは、元の家族からも周りからも腫れ物扱いされ、シノンからは所有物というか奴隷のような扱いを受け、拗らせていく。そして学園である日、魔力暴走を起こしてしまい、それをヒロインに止めてもらう。そして、「あなたは1人じゃない、あなたを孤独になんかさせない」と言われ、孤独を埋めてくれたヒロインに心酔しヤンデレ化する。
そして、ヒロインとフラメルは結ばれシノンは処刑される。フラメルとは仲良くしないと危ないのだ。

そんなことを考えていると、父様が私とフラメルお兄様の頭を撫でながら微笑んだ。

「せっかくなのだから、2人で庭で遊んできたらどうだい?」
「…わかり、ました」
「わかりましたわ、父様」

フラメルお兄様と私は、私が先導する形で庭に向かって歩き出した。
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