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騎士団と魔物の戦い

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翌朝、俺は空腹に悩まされていた。

骸骨が「戦いの前の下ごしらえをちゃんとしておけ!」と魔物達に言っていた。
謎の肉を食べ散らかしている魔物達を見ると、食欲がなくなっていく。

食欲がなくても、腹の虫は大きな音を立てている。

水でもあればいいけど、ここの洞窟に湧いている水は臭くて濁っている。
さすがにここで病気にはなりたくない、我慢するしかないか。

戦いの前で、昨日とは違い空気がぴりついている。
俺は何処か他人事のようにそれをただ見ているだけだった。

「おい食料!お前も食え!」

「いやぁ、お構いなく…」

骸骨は俺を食料だと呼んで、謎の肉を投げてきた。
情けない小さな悲鳴を上げて、謎の肉から全力で逃げる。

人間の腕のように見えるんだけど、考えるのをやめよう。

俺の名前は食料じゃないんだけど、名前を呼ばれたくないから本名は言わないけど。

魔物達に背を向けてジッとしていたら、後ろからなにかを投げられた。
また骨の杖かと思ったけど痛くはなく、後ろを振り返った。

それは黒いローブのようで、背中に変な魔法陣のようなマークが描かれていた。
なんでこんなものを投げたのかと前を見たら、魔物達は皆これを着ている。

「食料!お前も死にたくなければ着ろ!」

「…え?なんで…」

「いいから着ろ!」

両側から魔物達に押さえつけられて、頭からローブを被せられた。
嫌だって言ってるのに、強引になんなんだよこれは…

文句を言いたいが、食料にされそうだから何も言わない。

豚の頭の巨人に身体を担がれて、逃げる事が出来ない。
何人かの魔物達は洞窟から出ていき、骸骨達は別行動らしい。

俺はというと、洞窟に出る前に豚の巨人により殴られて気絶させられた。

気付いた頃には知らない森の中に座り込んでいた。
後ろには神殿のような入り口があり、ここから来たのかなとボーッと考える。

まだ殴られた頭がズキズキと痛いし、空腹もプラスされて逃げる元気もない。

魔物の誰かが「会いたかったぜ!魔導騎士団長!」と声を上げていた。

えっ、もういるの!?じゃあこの門は昨日言ってた罠?

昨日骸骨の言った通り、簡単に罠にはまったのか。
周りを見ると、騎士団らしき人達を囲うように上にも下にも魔物がいた。
騎士達は動揺していて、周りを見渡して警戒していた。

前にいた仮面を被った赤髪の男は全く動揺していない。
それどころか、わざと罠にはまったかのような余裕も感じる。

赤髪は骸骨に見せられた絵で騎士団長だと分かる。
でも、雰囲気は全然違うように感じた…初めて実物を見たからかな。

いや、これはチャンスだ…俺が人間だって分かったら助けてくれるかもしれない。
騎士団の方に行こうと一歩踏み出すのと同時に、誰かが「黒いローブを被っている奴は魔物だ!遠慮なく殺せ!」と声を上げていた。

確かに皆同じ服を着ている、それは俺も例外ではない。
騎士団のところに行く前にローブを脱いだ方がいいと引っ張った。

「あ、あれ?なんだこれ…脱げない!!」

ぴったり身体に密着しているみたいで、脱ごうと暴れても脱げない。

短い悲鳴が聞こえてそちらを見ると、俺の前にいた魔物の半分が倒れていた。
大剣を握りしめた騎士団長を合図に騎士団達がこちらに向かってくる。

黒いローブを着ている状態で人間だと言っても聞いてくれないのは目に見えている。

だったら逃げるしかない、今ならどさくさに紛れて逃げられる!

剣を交えた音が響き渡る中、こっそりと歩いて距離を取る。
いざ走ろうと思ったら、俺の顔の前になにかが横切り足を止めた。

すぐ横にある木に弓矢が突き刺さっていて、顔を青ざめる。

「逃がすか!魔物め!」

「ち、違います!俺は人間です!」

「人を騙そうなどという浅知恵は俺には通用しない!」

小さなポニーテールの男は、全く俺の言葉に聞く耳を持たない。
ローブが脱げないなら顔を見せようとしたが、弓を構えられた。
それだけじゃなく「魔物は人間に化けるという噂は本当のようだな」と言っていた。

ダメだ、なんて言っても俺が魔物に見えるんだろう…こんなローブを着ていたら当たり前か。

俺が後ずさると、ポニーテールの男が追い詰めてくる。
また戦っている奴らのところに戻ってきてしまった。

大量に死んでいるのは魔物で、騎士団長は全く負傷していないように見えた。
無駄な動きがなく、確実に魔物達を一撃で倒している。

俺を狙うポニーテールの男は弓矢を飛ばして、避けているのに必死で気付かなかった。

小さくくしゃみをして、ようやく上の方に目線を向けた。

魔物達が花を揺らして、大量の花粉が俺達を巻き込んで騎士団を襲う。
何人かの騎士達は膝をついていたり、倒れる者もいた。

俺も痺れて全く動かなくなり、ポニーテールの男も動きが止まって殺される心配は今のところなさそうだ。
ただ早く逃げないとと、這いつくばって移動する。
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