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蘇った記憶④
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あのとき、濁流に流される前、最後に見た光景がシャノンの目の前に広がっていた。灰色の不自然なくぼ地。それを囲む壊れかけた建物。そのいくつかは完全に倒壊し、瓦礫があたりに散らばっている。しかし、あの死の水は消えていた。
「あの日のあれは、何だったの?」
シャノンがつぶやいた。
「思い出したのか?」
隣には白いたれ耳の犬がいた。ノーランだ。シャノンが今まででただ一匹、心を開いた犬。彼がそこにいた。もう会えないのだと思っていた。毛並みは乱れ、白というよりクリーム色に近くなっているが、確かにノーランだった。
「私、今まで、何をしていたんだろう」
シャノンはノーランに歩み寄り、その肩に鼻をうずめた。
「お前は、もう大丈夫だ」
濁流に飲み込まれた俺は必死になってシャノンの姿を探した。しかし、彼女の姿はあっという間に消えてしまった。俺は流れてきた建物の一部に前足をかけてシャノンの名を呼んだが、声は濁流が流れる音にかき消され、返事が返ってくることはなかった。途中で半分水に浸かった木にぶつかり、その枝に体を引き上げた。そして、濁流が引くのをひたすら待った。
水はなかなか引かなかったが、やがて流れが少しずつ緩やかになっていった。俺は疲れた体に鞭打って小高い丘まで泳いでいった。
水が完全に引く前から、俺はシャノンを探しはじめた。腰まで水に浸かり、氷のように冷たい世界を歩き回った。しかし、シャノンは見つからなかった。ある日を境に、俺はシャノンが生きているかもしれないという希望を捨てた。その日から俺の心はすさんでいった。もしイーライとラッシャーを見つけ、彼らの面倒を見るという使命感がなければ、俺はこの世界に背を向けていたかもしれない。
「この犬たちは、誰?」
シャノンの声にノーランは現実に引き戻された。シャノンはルヴァンたちを警戒した目で見つめていた。
「こいつらは、みなし子だったんだ。もうとっくに一匹で生きていけるようになっているはずなんだが、なぜかずっと俺のところに居座っているというわけだ」
ノーランは説明した。
「そう…」
シャノンはしばらく黙っていた。物思いに沈んでいるようだった。別れてから季節が五巡はしているだろう。それくらい久しく会っていなかった。思うところは多くあるのだろう。
不意にシャノンはルヴァンたちの後ろにいるE2-02に気づいた。
「あれは何?」
「あれとは失礼な、私はE2-02だ。気軽にEZ-02様と呼んで良い」
ノーランが答える前にE2-02本人が尊大な口調で自己紹介した。
「『様』つけさせてるところから気軽じゃねえんだよ」
ノーランは呟いた。
シャノンは犬のように見えて犬ではないロボットを見て、ひどく困惑しているようだった。
「まぁ、いろいろあってこいつもついてくることになったんだ」
ノーランはこれまでの長い経緯を話すのが面倒だったため、曖昧に補足した。
「僕はルヴァン。よろしくね」
先程はシャノンの沈黙を破るのをためらって自己紹介しなかったルヴァンが前に出てきて言った。
「オレ様はイーライだ!」
「ラッシャーです。よろしくお願いします」
犬が苦手なシャノンは落ち着かない様子で自己紹介を聞いていた。
その時、何かがぶつかる音が響いた。ローラースケート場を挟んだ反対側に奇妙な姿の動く物がいた。人間のような長い腕が4つある銀色の物体。それがローラースケート場を破壊していた。
「リヴィアマシンだ」
EZ-02が言った。
「あらゆるものを修復するロボットだ。だが、何かの誤作動を起こして暴走しているようだ」
「あの日のあれは、何だったの?」
シャノンがつぶやいた。
「思い出したのか?」
隣には白いたれ耳の犬がいた。ノーランだ。シャノンが今まででただ一匹、心を開いた犬。彼がそこにいた。もう会えないのだと思っていた。毛並みは乱れ、白というよりクリーム色に近くなっているが、確かにノーランだった。
「私、今まで、何をしていたんだろう」
シャノンはノーランに歩み寄り、その肩に鼻をうずめた。
「お前は、もう大丈夫だ」
濁流に飲み込まれた俺は必死になってシャノンの姿を探した。しかし、彼女の姿はあっという間に消えてしまった。俺は流れてきた建物の一部に前足をかけてシャノンの名を呼んだが、声は濁流が流れる音にかき消され、返事が返ってくることはなかった。途中で半分水に浸かった木にぶつかり、その枝に体を引き上げた。そして、濁流が引くのをひたすら待った。
水はなかなか引かなかったが、やがて流れが少しずつ緩やかになっていった。俺は疲れた体に鞭打って小高い丘まで泳いでいった。
水が完全に引く前から、俺はシャノンを探しはじめた。腰まで水に浸かり、氷のように冷たい世界を歩き回った。しかし、シャノンは見つからなかった。ある日を境に、俺はシャノンが生きているかもしれないという希望を捨てた。その日から俺の心はすさんでいった。もしイーライとラッシャーを見つけ、彼らの面倒を見るという使命感がなければ、俺はこの世界に背を向けていたかもしれない。
「この犬たちは、誰?」
シャノンの声にノーランは現実に引き戻された。シャノンはルヴァンたちを警戒した目で見つめていた。
「こいつらは、みなし子だったんだ。もうとっくに一匹で生きていけるようになっているはずなんだが、なぜかずっと俺のところに居座っているというわけだ」
ノーランは説明した。
「そう…」
シャノンはしばらく黙っていた。物思いに沈んでいるようだった。別れてから季節が五巡はしているだろう。それくらい久しく会っていなかった。思うところは多くあるのだろう。
不意にシャノンはルヴァンたちの後ろにいるE2-02に気づいた。
「あれは何?」
「あれとは失礼な、私はE2-02だ。気軽にEZ-02様と呼んで良い」
ノーランが答える前にE2-02本人が尊大な口調で自己紹介した。
「『様』つけさせてるところから気軽じゃねえんだよ」
ノーランは呟いた。
シャノンは犬のように見えて犬ではないロボットを見て、ひどく困惑しているようだった。
「まぁ、いろいろあってこいつもついてくることになったんだ」
ノーランはこれまでの長い経緯を話すのが面倒だったため、曖昧に補足した。
「僕はルヴァン。よろしくね」
先程はシャノンの沈黙を破るのをためらって自己紹介しなかったルヴァンが前に出てきて言った。
「オレ様はイーライだ!」
「ラッシャーです。よろしくお願いします」
犬が苦手なシャノンは落ち着かない様子で自己紹介を聞いていた。
その時、何かがぶつかる音が響いた。ローラースケート場を挟んだ反対側に奇妙な姿の動く物がいた。人間のような長い腕が4つある銀色の物体。それがローラースケート場を破壊していた。
「リヴィアマシンだ」
EZ-02が言った。
「あらゆるものを修復するロボットだ。だが、何かの誤作動を起こして暴走しているようだ」
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