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奇妙な音の正体③
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古びた建物の中は暗かった。しかし、どの窓ガラスも割れているので外からの月光りが入ってきていた。
ルヴァンはその光を頼りに、建物の中に散らかった残骸を避け、奥に入っていった。 奥には階段があった。
ルヴァンが階段の一番下の段に足をかけると、みしっと音が鳴った。
上がれるかな。ルヴァンは階段の上を見上げた。
建物の上の方からあいかわらず物悲しく不気味な音が聞こえてくる。
しかし、ルヴァンは他の犬たちとは違い、音自体を怖いとは思っていなかった。あの群れの犬たちは得体の知れない何かがいると言っていたが、ルヴァンはそうとは思っていない。すでに音の原因も大体予想がついていた。それでも、もっと詳しい原因を調べたいと思っていた。
さらに上に上がりたいのだが、この建物はかなり老朽化している。階段が壊れないかどうか、それが心配だった。
ルヴァンは普段、常にハイテンションで阿呆のように立ち振る舞っているが、実際はかなりの切れ者だったし、無媒なことをするような犬でもなかった。
しかし、そんなルヴァンも好奇心には勝てなかった。 そっと、慎重に階段を上って行く。
ルヴァンは小柄だ。そのためか、階段はみしみしという音を立てはするものの、壊れることはなかった。
ここにイーライ、ラッシャー、ノーランを連れてきていたら危なかったかも。とルヴァンは思った。
イーライはルヴァンより少し大きいくらいだが、ルヴァンよりがっしりしているので重さは倍ほどあった。
無事に上の階にたどりつくと、ルヴァンは音のする方に歩いて行った。
上の階はもともと何個かの部屋があったようだが、すでに部屋と部屋を仕切る壁は折れるか倒れるかしていた。
薄暗い中、よく目をこらすと壁にはいくつもの大きな亀裂が入っていた。
今までこんなに劣化が進んだ建物に入ったことあったっけ。 ルヴァンは首をかしげて記憶をたどった。いや、なかったはずだ。この建物は危ないかもしれない。急いだ方がいい。
ルヴァンは音の出どころを探ろうと目を閉じて音に集中した。上の階に上がったことで、音はますます大きく聞こえるようになり、建物中に反響していた。
すぐにルヴァンの耳は音の出どころをとらえた。部屋の真ん中には柱がある。そこから音が聞こえていた。壁のすき間から風が入ってくる音も混じっているだろう。
ルヴァンが柱に手をかけたとき、音がいっそう大きくなり、 天井から砂ぼこりが降ってきた。ルヴァンは異変に気づいて飛びのいた。そのとたん、先程まで、ルヴァンがいたところに柱が倒れてきた。すさまじい音と砂ぼこりが舞い、ルヴァンはせきこんだ。急いで建物から脱出するため、 階段を探すがほこりに視界をさえぎられて見つけることができない。
柱という最後の支えを失った建物の上階部分は崩れはじめていた。壁に裂け目が入り、天井からバラバラと建物を構成していたものが降ってくる。
ルヴァンは持ち前の運動神経の良さで、天井から降ってくるものをかわし、階段に近づくが、それよりも先に天井が崩れてきた。
脱出できないのなら、押しつぶされる前に上に行かないと。
ルヴァンは中央で半分に割れて落ちてきた天井の上に飛び乗った。しかしその部分も氷の張った湖の上に立っているように危うかった。みるみるうちに裂け目が入り、かろうじて残っているかたい部分に立っているルヴァンはその場にはいつくばった。
建物の上階部分の天井は完全に落ちてしまったようだった。ルヴァンのまわりを瓦礫の山が埋めつくしている。崩れてきた建物の天井の上に逃げるという行動によって一度は助かったルヴァンだが、 この建物の崩壊はまだはじまったばかりだった。
がくんとルヴァンがはいつくばっている屋根の一部が動き、建物がゆらいだ。ゆっくりと、だが確実に下へ 落ちていく感覚がルヴァンを襲う。
崩れた上階部分の重みに耐えきれなくなった建物がついに倒壊しはじめた。がれきがすさまじい音を立てて飛び散り、砂埃で再び何も見えなくなる。
「ルヴァン!!」
建物の最期の悲鳴の中切り裂くようにイーライの叫ぶ声が聞こえた気がした。
ああ、死んじゃうんだったら、夢を諦めなきゃ良かった。
最後にふとそんなことを思った。
ルヴァンはその光を頼りに、建物の中に散らかった残骸を避け、奥に入っていった。 奥には階段があった。
ルヴァンが階段の一番下の段に足をかけると、みしっと音が鳴った。
上がれるかな。ルヴァンは階段の上を見上げた。
建物の上の方からあいかわらず物悲しく不気味な音が聞こえてくる。
しかし、ルヴァンは他の犬たちとは違い、音自体を怖いとは思っていなかった。あの群れの犬たちは得体の知れない何かがいると言っていたが、ルヴァンはそうとは思っていない。すでに音の原因も大体予想がついていた。それでも、もっと詳しい原因を調べたいと思っていた。
さらに上に上がりたいのだが、この建物はかなり老朽化している。階段が壊れないかどうか、それが心配だった。
ルヴァンは普段、常にハイテンションで阿呆のように立ち振る舞っているが、実際はかなりの切れ者だったし、無媒なことをするような犬でもなかった。
しかし、そんなルヴァンも好奇心には勝てなかった。 そっと、慎重に階段を上って行く。
ルヴァンは小柄だ。そのためか、階段はみしみしという音を立てはするものの、壊れることはなかった。
ここにイーライ、ラッシャー、ノーランを連れてきていたら危なかったかも。とルヴァンは思った。
イーライはルヴァンより少し大きいくらいだが、ルヴァンよりがっしりしているので重さは倍ほどあった。
無事に上の階にたどりつくと、ルヴァンは音のする方に歩いて行った。
上の階はもともと何個かの部屋があったようだが、すでに部屋と部屋を仕切る壁は折れるか倒れるかしていた。
薄暗い中、よく目をこらすと壁にはいくつもの大きな亀裂が入っていた。
今までこんなに劣化が進んだ建物に入ったことあったっけ。 ルヴァンは首をかしげて記憶をたどった。いや、なかったはずだ。この建物は危ないかもしれない。急いだ方がいい。
ルヴァンは音の出どころを探ろうと目を閉じて音に集中した。上の階に上がったことで、音はますます大きく聞こえるようになり、建物中に反響していた。
すぐにルヴァンの耳は音の出どころをとらえた。部屋の真ん中には柱がある。そこから音が聞こえていた。壁のすき間から風が入ってくる音も混じっているだろう。
ルヴァンが柱に手をかけたとき、音がいっそう大きくなり、 天井から砂ぼこりが降ってきた。ルヴァンは異変に気づいて飛びのいた。そのとたん、先程まで、ルヴァンがいたところに柱が倒れてきた。すさまじい音と砂ぼこりが舞い、ルヴァンはせきこんだ。急いで建物から脱出するため、 階段を探すがほこりに視界をさえぎられて見つけることができない。
柱という最後の支えを失った建物の上階部分は崩れはじめていた。壁に裂け目が入り、天井からバラバラと建物を構成していたものが降ってくる。
ルヴァンは持ち前の運動神経の良さで、天井から降ってくるものをかわし、階段に近づくが、それよりも先に天井が崩れてきた。
脱出できないのなら、押しつぶされる前に上に行かないと。
ルヴァンは中央で半分に割れて落ちてきた天井の上に飛び乗った。しかしその部分も氷の張った湖の上に立っているように危うかった。みるみるうちに裂け目が入り、かろうじて残っているかたい部分に立っているルヴァンはその場にはいつくばった。
建物の上階部分の天井は完全に落ちてしまったようだった。ルヴァンのまわりを瓦礫の山が埋めつくしている。崩れてきた建物の天井の上に逃げるという行動によって一度は助かったルヴァンだが、 この建物の崩壊はまだはじまったばかりだった。
がくんとルヴァンがはいつくばっている屋根の一部が動き、建物がゆらいだ。ゆっくりと、だが確実に下へ 落ちていく感覚がルヴァンを襲う。
崩れた上階部分の重みに耐えきれなくなった建物がついに倒壊しはじめた。がれきがすさまじい音を立てて飛び散り、砂埃で再び何も見えなくなる。
「ルヴァン!!」
建物の最期の悲鳴の中切り裂くようにイーライの叫ぶ声が聞こえた気がした。
ああ、死んじゃうんだったら、夢を諦めなきゃ良かった。
最後にふとそんなことを思った。
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