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アルサーラー編

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「ハァ…ハァ…しっかりしろサーナシア」
「…」

 やはり口程にもない。さすがベルバーグ家の当主、凄い実力を秘めていた。けれど相手が悪かった。覚醒に覚醒を重ねた俺の前では二人は無力すぎた。
 その証拠に、片腕を失ったマルガンが全身に大火傷を負って気絶したサーナシアを起こそうとしている。

「悪いけど、この剣は貰っていくよ」

 俺は結界に手を伸ばし、剣に触れる。やはり俺だけが難なく通れる結界のようだ。そのまま毒剣フルンディングを台座から引き抜いた。
 さすがに二本目を抜かれたとなると、世界が悲鳴を上げ始めた。抜いた途端に大きな地震が起こり、ベルバーグ家を襲った。かなり大きな地震で、食器が落ちて割れる音や家具が倒れる音が遠くの部屋から聞こえてくる。やがて天井や壁に亀裂が生じた。

「おっと…崩れそうだな。コイツらは…別にいいか」

 大怪我を負ったベルバーグ夫妻を置いて、俺だけが空間魔法で家から脱出した。空間転移場所はベルバーグ家の全貌を見られる近くの丘の上。そこから見ていて数秒後、ベルバーグ家は瓦礫の山と化した。

「潰れちゃったかなぁ…全員」
「どうだろうな」
「っ!?」

 背後から突然誰かの声がした。振り返るとそこにはジンとアナシアが立っていた。そして二人の後ろには気を失っている何人もの執事やメイドが寝かされている。マルガンとサーナシアの姿もあった。

「よぉ…キョウくん」
「キョウさん…どうして」

 俺を見て凄まじい怒気を放つジン、そして悔し気な顔で悲しみにくれるアナシア。少し前の俺ならば今のジンには怯えるし、アナシアの顔を見たら心を痛めただろう。しかし今は不思議と何も感じない。

「悪いなジン、アナシア。お前らの家、壊しちゃった」
「それは別にいいよ。けど、分かっててやったんだよな?今何の前触れも無しに家を崩せば中にいる使用人や関係ない奴らが瓦礫の下敷きになるって。なぁ?キョウ」

 ジンは俺を睨みつけ、ドスの利いた声で続ける。ここまでブチギレているジンを今まで見た事が無い。

「ノルザは死んだぞ。その他の使用人の約半数もあの下だ。間に合わなかった…」

 ノルザが死んだ。やはり何も感じない。
 何の感情も湧かないため、何を言えばいいかも分からなかったので俺はただ一言だけ二人に告げた。

「そうか」

 俺の何気ない一言が火に油を注いだようで、ジンは先程よりオーラが強くなった。四大精霊の魔力による四色のオーラ。この感じは前にも見たが、今回は何かが違う。そんな気がする。

「おぅ、流石に気づいたか。キョウ、お前と会ってから日々成長した俺の実力、全部お前にぶつけてやるよ」

 今ようやく分かった。前に見たジンのオーラは全て下位の四大精霊のものだった。だが、今彼が発しているオーラは全て上位精霊のものだ。
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