朝起きたら幼馴染が隣にいる

あやかね

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天ヶ崎舞羽の水着姿

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 海が近づくと叫びたくなるのはなぜなのだろうか。それは、開放的な気分になるからに他ならないと思う。

「ひゃっほーーーーい!」と蝶がいの一番に駆けだした。

 オレンジ色のパレオタイプの水着を着ていた。部活動によって引き締められた腹筋背筋腕や手足の複雑な筋肉が、いまはけがれの無い宝石のように輝いている。腰に巻いたオレンジのヒラヒラをはためかせながら、蝶は桟橋さんばしから飛び跳ねた。

「怪我はしないようにね~」

 ざっぱーーーん、と、大きな飛沫しぶきを上げて飛び込む蝶には母親が声をかけるも聞こえていないようだ。

「あの子ったら……。どうしてあんなにお転婆てんばに育ったのかしらねぇ」

 母親は困ったように首をかしげた。

 僕は舞羽が選んだ水着を着て砂浜へ向かった。どうやら一部の砂浜が裕二氏の所有のようで、そうでないところには一般の客がおり、海の家も建っていた。かなり盛況のようである。

 僕は人でごった返す砂浜を見渡しながら訊ねる。

「舞羽はどうしたんですか? まだ来ていないようですけど」

「まだ部屋にいるわ。着替えは終わっていたみたいだけど、どうしたのかしらね」

「なにか忘れ物でも?」

「さあ、……ゆう君、悪いんだけど見て来てくれないかしら?」

「へ?」

 この人は何を言いだすのだと僕はびっくりしたけど、そういえばこの人も男子の部屋に娘を寝かせるような人であった。あの親にしてこの子あり。もし普通の親ならば舞羽の奇行はとっくにとがめられているであろう。奔放主義なのか、僕を信頼しての事なのか、舞羽と僕が接触する事に悪い感情は抱いていないようだ。

「お願いね。ゆう君なら安心だから」

 不思議と、そう言われて悪い気はしなかった。

「分かりました。部屋、どこです?」

「205。鍵は舞羽に預けてあるから」

「分かりました」

 というわけで、僕は舞羽を迎えに行くことになった。

「おーい、舞羽ー。いるかー?」

 コツコツコツとノックを3回。木製の開き戸は乾いた音を立てて、陽の光をいっぱい浴びた建屋に残響を残す。反応はすぐにあった。「いま開けるねー!」と、ガチャリとドアが開いて、ラップタオルに身を包んだ舞羽が姿を現した。

「げ、着替え中か。なら出直す」

「ううん、着替えは終わってる」

「なら早くこい。お前を待ってんだ」

「……………………」

 ところが、舞羽は僕の腕を掴むと、ぐいっと部屋の中に引きこむ。そして、鍵をかけた。

「なぜ鍵をかけた。よからぬ事を考えているなら今すぐやめろ。僕は声を出すぞ。乱暴されてますって助けを求めるぞ。女の子に乱暴されてますって恥も外聞もなく言うぞ。すごく情けないぞ、僕が。それでもいいのか。僕はよくない」

「……………………」

「舞羽……?」

 舞羽は僕の言葉にはとりあわず、部屋の中央へと歩いていく。どこか思い詰めたような表情をしており、何か、大きな決心をしたような力強ささえ感じる。僕は思わず言葉を詰まらせた。

 部屋は畳敷きの六畳半であった。日に焼けて色褪せた畳とくすんだ土壁の渋い色合いの部屋。海に面した壁に大きな窓が取り付けられており、入道雲と水平線が見切れている。蛍光灯よりも眩しい日差しが注ぎ込んでいた。

 舞羽が窓を背にして立つ。陽光を受けて桜色の髪が淡く輝くようであり、僕の目には唯一の色彩のように際立って見えた。ラップタオルに手をかけて「見て、ほしい」と、視線をそらした。

「……………………」

「舞羽の水着姿。一番最初に見て欲しい」

「……………………」

 僕の心臓がドクンと跳ねたようだった。

 ラップタオルの首元に手をかけて頬を染める舞羽は、今まで見たどんな彼女よりも美しく見えて、きっと、僕のイメージがフィルターとなっているのだろう。

 一人の女の子が大人の女性へとるその瞬間。さなぎが皮を脱いで蝶々になるかのごとき神秘と蠱惑こわくが目の前にあった。

 たぶん、一生に一度訪れる大事な瞬間なのだ。

 大人の女性への階段を一段昇る。その、大きな一線を越えようとしているように見えた。それは誰にでも見せるようなものではないし、いつでも見られるものではない。超えてしまったら慣れてしまう。初めて。それがとても大切で、特別な思いを形成するのだ。

「………僕でいいのか」

「ゆうだから、いいの」

「………………………」

 その純白のラップタオルの下は裸よりも魅惑的なモノが隠れているように思えた。

 ただ水着を見るというだけの話である。が、舞羽の、大切なモノを預けるような視線がそう思わせるのだろう。

 彼女が見せようとしているのは、舞羽の心なのだ。彼女が隠しているのは水着ではなく彼女の気持ちなのだ。そう思うと、僕は身が引き締まるような気持ちになり、無意識のうちに頷いていた。

「分かった。見せるね」

 舞羽はそう言うと躊躇ためらいなくボタンに手をかけた。

 プチ、プチ、とラップタオルのボタンを上からはずしていく。

 心臓がドクンドクンと音を立てた。口から飛び出そうなほどドキドキしていた。

「…………………ふぅ」

「…………………」

 プチプチプチ。舞羽は淀みない仕草で丁寧にボタンをはずしていく。

 その手つきさえなまめかしく、次第に緊張が高まっていくようである。

 プチッ プチッ と、可愛い音が淡々と響く。小さな乾いた音が僕達の無言を際立てるようで、それがむしろ、僕の鼓動を高めるようだった。

「…………………」

 すべてボタンをはずし終わった。舞羽はラップタオルの裾をつまんでためらうようなそぶりを見せたが、深い息を吐いて、

「…………見て」

 と、ぱさり、と乾いた音を立ててラップタオルを脱いだ。

 僕は息を呑んだ。


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